夜明け前が一番暗い

美汐るい

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幻日

1葉

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「ねぇ、どこの企業受けるか決まった?」


 3年生としての冬休みが終わった。

 大学の講義のためいつも通りお昼過ぎに講堂の座席に座っていたら、友達の緋奈が私に話しかけてきた。


「ううん、全然まだまだ。私もうダメかも。」

「私も。でも来週面接があるんだよね。すごく緊張しちゃって。」

「え、すごいじゃん。どこの?」

「まだ内緒だよ~。内定もらったら言うね!」

「うん、わかった。」



 ほら、まただ。

 これで何回目だろうっていうぐらいに先を越される。

 周りの人間はどんどん将来が見つかっていき、私だけが取り残されるような感覚。

 何度味わっただろうか。


 別に努力してないわけじゃない。

 むしろ必死で就職活動している方だと思う。

 ただ、このままでいいのかという気持ちが渦巻き、将来ここの企業に勤めたいだとか、こうなりたいだとかがあやふやになって終わってしまう事が多かった。

 結局私も何も行動しないで待ち続け、どうにかなると思っているシンデレラだった。



 単位の為に興味のない授業を受けて、アルバイトをして、ごく普通に大学生活を過ごしただけだ。

 将来何をしたいかも何も決まってない。

 唯一やったことといえば、英語力が必要になってくるだろうからアメリカに短期留学したくらい。


 でも上手く馴染めず、英語を話す機会を増やせなくてあまり上達した感じがしなかった。


 本当、人生の無駄遣いをしてる。






「今日ってこの後は講義ある?」


 受けていた講義が終わり、隣に座っていた緋奈に話しかけられる。


「ないよ、緋奈は?」

「あるよー、去年単位落としちゃったから受けなきゃいけないのが多くて......」

「真面目に来ないからじゃん。」

「やっぱり大学生だから遊びたくなるでしょ?」

「それはわかるけどさ。」

「次の授業課題多くてもう大変だよ。」

「自業自得だよ。じゃあ私は帰るね。」

「うん、お疲れ。」



 緋奈と別れ、大学を出て最寄り駅まで歩く。


 携帯でいつもの曲を聴きながらふと日を見ると、まだ上にあると思っていた太陽はだいぶ西にあった。



 まだ冬だから、日が沈むのが早い。


 寒さを紛らわすために着けていたマフラーに擦り寄りながら歩いていたら、ふと太陽の横に鮮やかに光るものが見えた。


 もしかして、隕石なのだろうか。


 慌てて手に持っていた携帯で写真を撮ろうと試みるが、興奮してるからか上手く撮れない。

 撮れてもあまりハッキリ良くその色が見えない。


「あぁ、せっかく綺麗な隕石が見えるのに!」

「それ隕石じゃないから。」


 後ろから唐突に声をかけられ、驚いて後ろを振り返ると一人の男性がいた。


 真っ黒な髪の毛から覗く目は決して大きくはないが、吸い込まれるような切れ目。

 黒のスキニーに白いシャツ。

 それもこの季節なのにシャツ一枚。

 そして首には高そうな一眼レフのカメラ。

 すごく細身で今にも折れてしまいそうな体つきなのだろう。

 その白いシャツからから出てる手も白くて。

 この人日差しに当たったことあるのだろうかと思うくらい。

 ただその白さが逆にこの人をさらに儚く印象付けた。

 気怠げで、儚い感じ。


「え、あれって......」

「幻日っていうやつ。太陽の光が、雲の中にある小さな氷の結晶で屈折してできる現象だよ。」

「はぁ……」


 彼はそう言い、首に下げてあったカメラでそれを撮り始めた。


「物知りなんですね。」

「まぁ、まさか見れるとは思わなかったけど。」

「あ、そうなんだ。」

「こんな街中でも見れるなんて珍しいから。」

「確かに珍しそう」


 こんな会話をしながらも、彼のシャッターを切る手は止まらず、私に目を合わせもしなかった。


「趣味でカメラやってるんですか?」

「いや?職業がカメラマンなだけ。」

「え!ごめんなさい、お仕事の邪魔しちゃって。」

「いや平気。これはただ撮ってるだけ。俺の専門は人間だから。」


 カメラマンにも専門とかあるのだろうか。


 それにしても全然カメラマンぽくない見た目だった。

 もっとよく見ると耳に2、3個シルバーピアスがついてて。

 カメラを持っているその細い手にも結構ゴツゴツとしたシルバーのブレスレット。

 ハッキリ言ってあまりその雰囲気には合ってない。

 派手なのか大人しめなのか分からなかった。


 ジーっと彼を観察しているといきなりあの引き込まれるような目をこちらに向かせ、目を合わせてきた。


「綺麗に撮れたから見てみる?」

「え、いいんですか?」

「うん、ほら。」


 画面を覗き込んでみると、西の太陽の右側に七色に輝く光があった。


「綺麗……」

「うん、携帯のレンズだと限界があるからこういうので撮ったほうがいいんだよ。」

「虹色に光ってますね。」

「これが珍しいって言われてる理由。」

「すごくレアな気分になりました。」


 彼はなんだそれと言い、クククと笑った。



「よし、じゃあもう俺行くわ。」

 レンズに蓋をすると少し伸びをしながらそう言った。

「あ、はい。」

「じゃあね。」

「その前に、カメラマンならお名前聞いてもいいですか?」

「なんで?」

「その、ネットで検索すれば作品が見られるかなって思って……」


 私がそう言うと彼はフッと笑って。


「次に会えたら教えるよ。」


 と言って背を向けて歩いて行った。


 残された私に当たる風は冬なのにあまり冷たさを感じなくて。


 西日とともにある幻日はまだ、鮮明に七つの色で光り輝き、私を照らし続けた。

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