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しおりを挟む「コンバースな」
宵闇はくすくす笑う。まだ引っ張るか。
「お前もか!」
「あれは美味しかったよな」
「綺悧が上手くいじってくれて良かったわ」
ああいうの、スルーされたら余計に恥ずかしいからな。
「あと、客の盛り上がりがやべぇな。こっちもどんどん本気になる」
「だろ? いい客に恵まれてるって思うよ」
そう言って煙を吐き出し、宵闇は続ける。
「しかも、今日みたいにわかりやすいぐらい乗ってくれる人が増えてくの、初めてだ」
「お、それは良かった。1.5倍くらいにはなってたよな」
「もうちょっといたよ? 1.7倍くらい。ほんと、今日はいいライブだった」
しみじみ嬉しそうだな。こいつがこんな顔してくれたら、余計に嬉しいじゃねぇか。
「次のワンマンは当然、今日を超えてかねぇとな」
「その次はそのワンマンを超える」
目を見合わせて、ニヤッとする。
「上限なしだよ」
「ドームツアーがかかってんだからな。後退はありえねぇ」
「その前に海外公演だし?」
そう、俺らが目指してるとこはこんなもんじゃねぇ。こいつと俺がタッグを組んだからには、海外にだって、ドームにだって、あいつらを連れて行く。ファンもだ。
実際に現場でファンを見て思ったよ。こんなに俺らの音に熱くなってくれるヤツらも、一緒にもっと高いとこまで連れてくって。
そして、こんなに熱くなってくれるヤツを、世界中に発生させる。
ヴィジュアル系だろうが何だろうが、ロックを生きる道って決めたからには、その夢は死んでも手放せねぇよ。
右手を宵闇に差し出す。
「やろうぜ」
宵闇は、俺の手を握る。
「もちろん」
頼もしいよ。こいつといれば、どんなでけぇことでもやれる気がする。
少し前まで、先のことなんか考えてなかった。ドラムを叩くこと、自分が上手くなることだけ考えてて、一生ドラム叩いて食っていくんだって、それだけ考えてた。最高のドラマーになりてぇとは思ってた。俺自身を評価されたかったし、名の知れた存在になることを目指してた。
それは今でも変わらねぇし、俺の一生の目標だと思う。
でもバンドとして、っていうことは考えたことなくて、だから大学出てからはバンドに正式に参加することはなかった。
でも、バンドとしてでかくなるって夢は、やっぱ熱くなれるもんだな。仲間がいると、上を目指す気持ちに加速がつく。ハコの規模をアップさせてくのも、売り上げも、客数も目に見える。自分だけじゃなくて、メンバーのレベルも一緒に上げていくってなると、余計に力も入る。バンド単位でのクオリティが上がってくのも面白ぇ。
それを、一緒にやっていける相棒がいるってのがまた最高だよ。
こいつがいなきゃ、こんな熱中出来ることには巡り会えなかった。
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