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しおりを挟むこの曲の間、フロアがどんな様子だったのかはまったく見てなかった。背筋を伸ばして見渡すと、前方へ押している人間の塊は、一回り大きくなってる。
よし、一歩引いて見てたヤツをこの熱気に巻き込んだ。いい調子じゃねぇか、俺ら。
「ありがとうございます! 今聴いてもらったのは、来月6日にリリースするシングルのタイトル曲、Hate or Fateです」
綺悧が話し始めると、圧縮されていた空気が緩む。
「Vラスティングレコードさんでインストアイベントの予定もあって…まだ間に合うよね?」
朱雨に尋ねると、朱雨は両手を広げて肩を竦める。アメリカ人か。仕方なく綺悧が宵闇を振り向いて首を傾げてみせると、宵闇は一回頷く。
「まだ間に合うみたいなんで、インストア来てくれる人は予約して下さい! 定員あるから、お早めに」
そうだったわ。俺の初インストアイベント。こなせるもんか心配だけど、俺のとこ来てくれる人がいるならどうにか頑張ろう。
「それから、これも来月、16日17日にここでワンマン2daysやります!」
拍手が鳴り響く。おう、ありがたいねぇ。
「来るよーって人は?」
綺悧が手を上げてフロアを見回すと、前方はかなりの率で手が上がってる。
「はい、手を上げてる人そのままね! 来てもいいかなーって人は?」
詰めてるエリアの外周に、上がってる手が見える。よっしゃ、そう来なきゃな。
「今手を上げてる人、顔覚えたからねー!」
笑い声が起きて、和んだ雰囲気になる。
「やったね、ありがとう! 2日間、違うテイストのセットリスト準備してるんで、両日楽しんでもらえると思います」
その為に、明日から地獄のリハーサルになるんだけどな。でも、絶対にこいつらはそれをくぐり抜けて、俺らはこのフロアを湧かせるよ。
「礼華くん、意気込みを一言!」
突然振られた礼華は下を向いて、手を横に振る。
「だって今日、礼華くん喋ってなくない? はい、どうぞ!」
礼華は一歩マイクに近付いて口を開く。
「がんばります」
礼華の前の客が手を叩いて礼華の名前をコールする。多分、この感じがお約束なんだろうな。華麗だけど、恥ずかしがりやの礼華ってのが、礼華ファンのツボなんだろう。
「礼華くん、まーたほんとに一言なんだからー。じゃ、朱雨くんにも聞こっかな。朱雨くんは?」
「がんばりまーす」
朱雨がおどけた調子で言うと、朱雨の前の客は笑う。こっちは、カッコ良くってお調子者、が好きなタイプだな。ほんと、しっかり棲み分けが出来てる。
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