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しおりを挟む「あ、めっちゃリプ来て…」
「ん?」
「そっか。もうMV公開の時間だ」
横から画面を覗き込んで時刻表示を見ると、あと3分で21時だ。別にきっかりに見なきゃいけないわけじゃないし、もう完成品は見てるんだけど…何となく、公開と同時に見たいよな。
俺も自分のスマホを出してみる
ロック画面にツイッターからの通知が並んでる。告知ツイートへのリプライと、フォローの通知。これ結構フォロワー増えたな。まだ公開前なのに。
宵闇がパソコンデスクの椅子に座って、俺に手招きする。
「もう21時になった。見ようぜ」
俺もディスプレイを覗きに行くと、更新されたオフィシャルサイトが表示されてた。並んでいた過去のMVのトップに、YouTubeにあるHate or FateのMVへのリンクが埋め込まれてる。
宵闇は椅子を立って、俺に譲ってくれる。俺はそのままそこに座る。
俺がマウスに手を伸ばしてそれをクリックすると、再生が始まった。足音から始まる、もう何度も見たその映像。
今、日本中でどれくらいの人が俺らと同時にこれを見てるんだろう。それを考えると、不思議な気分だ。何百人、何千人? 何千人は行き過ぎか? でも、そんな桁の人達が、これを見てくれるんだ。
想像しきれねぇ。だけど、きっと、少なくとも。ワンマンのチケットは売り切れ間近って聞いてる。キャパは1300くらい。それに来てくれる人は、これを見てるんだよな。いや、同時じゃないかもしれないけど。でも、見ることはほぼ間違いねぇ。
映像が流れる画面の向こうに、そんなたくさんの人達が見えた気がした。
1300くらいのキャパでのライブなんかざらで、それ以上に広い会場でだってプレイしたことあるけど、それは全部、サポートで。俺のステージだけど、俺のステージじゃない。その集客に俺の力なんか1ミリも関係してなかった。でも、これから俺が立つステージは、俺のステージなんだ。俺がいるベルノワールを、俺を、見に来るんだ。
人様のステージの一端を預かるのも、勿論責任は重い。俺のせいで潰すわけにはいかない。でも、自分のステージも、それとは違う責任がある。遂行するのは勿論のこと、俺自身が客を楽しませなきゃいけないんだ。当たり前のことだけど、そこまで思い至ってなかった。ここまでは、ベルノワールの作品を完成させることだけに夢中だった。でも、その作品を何の為に完成させるのか。それは自己満足じゃない。自分がやりたいことを成し遂げるのと同時に、ファンに満足してもらって、楽しんでもらうって目的があるんだ。
目標とか、義務とかじゃなくて、それも俺らの目的なんだ。
再び聞こえて来る足音。画面がブラックアウトして、オフィシャルサイトの画面に戻る。
黙って画面を凝視してた俺の肩に、宵闇の手がそっと置かれた。
「YouTubeの方、見てみよう」
宵闇が俺の横から手を伸ばして、画面をクリックすると、YouTubeが開く。画面を操作して、ベルノワールのチャンネルに飛ぶ。
Hate or Fateの再生数。約3200。
ほぼ同時に、この時間を待って、3200人がこれを見てくれたってことだ。
「うわ…」
何を言っていいのかわからねぇよ。これが多いのか少ないのか。宵闇が読んでた数字に合致してんのか、そんなことはわからねぇ。
でも、俺にとってはとんでもねぇ数字だ。
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