181 / 233
34-3
しおりを挟む雪村さんが、俺の肩を叩いて立ち上がる。
「まあ、困ったことあったら僕に話してみてよ。このおっさんに出来ることはないかもしれないけど、優哉くんたちより長くこの業界にいるからね」
優しく笑いかけてくれた。それだけでも何か安心するな。何かあったら、話聞いてもらおう。そういう頼りになるあてがあるだけで、随分と心持ちが違う。宵闇には、あるんだろうか。
「お願いします」
未だにあいつの交友関係がわかんねぇんだよな。そういうところも心配だ。
「じゃ、僕ちょっと買い物行ってくるから、20分後にまたスタジオでね」
「はい」
雪村さんはそう言い残して喫煙室を出て行った。
それから、またスタジオでレコーディングの続きをやって、スムーズに終了。持ち込んだ機材を撤収して、雪村さんに挨拶をする。
「今日もいいプレイしてくれて、ありがとうな」
差し出された手を握り返して握手を交わす。
「こちらこそ、勉強させてもらいました! ありがとうございました」
この手の譜面通りに叩くって仕事も、めちゃめちゃ勉強になる。自由にしていいよって部分があると、つい手癖が出ちまうけど、譜面から外れちゃいけないってなると、自分の手癖じゃないプレイもしなきゃいけない。そうすると引き出しが増えるから、自分の経験値がアップするんだよな。
「ライブはいつだっけ?」
「31日のイベントと、来月16、17日のワンマンです。来るなら言って下さいね! 関係者リストに入れますから」
雪村さんはちょいちょい黙ってライブに来て、普通にチケット買って入っちゃうんだよな。で、終わってから「見てたよー」って連絡くれる。お茶目なんだけど、申し訳ないから先に連絡してください、マジで。
「うんうん、どれかに行くよ」
「ほんと、先に連絡して下さいよ?」
「わかったわかった」
にこにこしてるけど、またやられそうな気がしてならない。
さて、と俺が帰ろうとすると、雪村さんがレジ袋を俺に差し出した。
「ほら、これ持って行きなよ」
「何すか?」
受け取って中を見てみると、ドリンク剤やら何やらいろいろと入ってる。
「寝る前に飲んでも大丈夫なノンカフェインのドリンク。寝るの大事だからね。こっちはよく寝れるドリンク。これは疲れが取れる…薬、じゃないか。サプリみたいな。こっちは入浴剤」
一緒に袋を覗き込んで、一つ一つ指さしながら教えてくれる。
「えっ、これ」
「優哉くんとリーダーにね。ちょっとでも疲れ取って、寝て、もうひと頑張り」
にこっと笑うと、改めて俺の手に持たせてくれた。
「すんません、こんなにしてもらって」
「そのかわり、ライブ楽しみにしてるから」
「はい! ありがとうございます!」
俺は全力で頭を下げて、お礼を言った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる