Hate or Fate?

たきかわ由里

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 雪村さんが、俺の肩を叩いて立ち上がる。
「まあ、困ったことあったら僕に話してみてよ。このおっさんに出来ることはないかもしれないけど、優哉くんたちより長くこの業界にいるからね」
 優しく笑いかけてくれた。それだけでも何か安心するな。何かあったら、話聞いてもらおう。そういう頼りになるあてがあるだけで、随分と心持ちが違う。宵闇には、あるんだろうか。
「お願いします」
 未だにあいつの交友関係がわかんねぇんだよな。そういうところも心配だ。
「じゃ、僕ちょっと買い物行ってくるから、20分後にまたスタジオでね」
「はい」
 雪村さんはそう言い残して喫煙室を出て行った。
 それから、またスタジオでレコーディングの続きをやって、スムーズに終了。持ち込んだ機材を撤収して、雪村さんに挨拶をする。
「今日もいいプレイしてくれて、ありがとうな」
 差し出された手を握り返して握手を交わす。
「こちらこそ、勉強させてもらいました! ありがとうございました」
 この手の譜面通りに叩くって仕事も、めちゃめちゃ勉強になる。自由にしていいよって部分があると、つい手癖が出ちまうけど、譜面から外れちゃいけないってなると、自分の手癖じゃないプレイもしなきゃいけない。そうすると引き出しが増えるから、自分の経験値がアップするんだよな。
「ライブはいつだっけ?」
「31日のイベントと、来月16、17日のワンマンです。来るなら言って下さいね! 関係者リストに入れますから」
 雪村さんはちょいちょい黙ってライブに来て、普通にチケット買って入っちゃうんだよな。で、終わってから「見てたよー」って連絡くれる。お茶目なんだけど、申し訳ないから先に連絡してください、マジで。
「うんうん、どれかに行くよ」
「ほんと、先に連絡して下さいよ?」
「わかったわかった」
 にこにこしてるけど、またやられそうな気がしてならない。
 さて、と俺が帰ろうとすると、雪村さんがレジ袋を俺に差し出した。
「ほら、これ持って行きなよ」
「何すか?」
 受け取って中を見てみると、ドリンク剤やら何やらいろいろと入ってる。
「寝る前に飲んでも大丈夫なノンカフェインのドリンク。寝るの大事だからね。こっちはよく寝れるドリンク。これは疲れが取れる…薬、じゃないか。サプリみたいな。こっちは入浴剤」
 一緒に袋を覗き込んで、一つ一つ指さしながら教えてくれる。
「えっ、これ」
「優哉くんとリーダーにね。ちょっとでも疲れ取って、寝て、もうひと頑張り」
 にこっと笑うと、改めて俺の手に持たせてくれた。
「すんません、こんなにしてもらって」
「そのかわり、ライブ楽しみにしてるから」
「はい! ありがとうございます!」
 俺は全力で頭を下げて、お礼を言った。
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