Hate or Fate?

たきかわ由里

文字の大きさ
上 下
154 / 233

30-2

しおりを挟む
「せーの」
 何とタイミング合わせてんのか知らねぇけど、一人で掛け声をかけて見事にひっくり返した。
「すげぇ、やるじゃん」
「だろ?」
 めちゃくちゃ誇らしげだな。時々、こいつは単純だ。
 お好み焼き本体の隣に、焼きそばを丸く広げる。頃合を見て、本体を焼きそばの上にオン。それで、もう一枚焼くスペースあるのに、一枚しか焼いてなかったのか。納得。
 それから、空いたスペースに卵を割ってフライ返しで軽く崩すと、その上に本体を置く。
「もう出来るから、お前、自分の箸と皿持って来いよ」
「へい」
 焼いてもらってる身だからな、それくらいは自分でやろう。宵闇の分も一緒に箸と皿を持って来る。
 フライ返しでお好み焼きを持ち上げて焼き具合を見ていた宵闇は、にっこり笑って皿を受け取る。
「出来た」
 熱々のお好み焼き、一丁上がり。何なんだ、この技は。
「こんなのどこで覚えたんだよ。めちゃめちゃ上手いじゃん」
「うちのお袋が広島出身だからさ。英才教育」
「あ、なるほどな。広島か」
 大阪のお好み焼きって、具材全部混ぜるもんな。俺はこっちの方が好きだ。ラッキー。
 でもこれ、広島焼きって言ったら殺されるんだっけな。気を付けよう。
「スーパーにオタフクあって良かった」
 スーパーで、めちゃくちゃ真剣な目でソース選んでたもんな。オタフクソースじゃないとダメだとか言って。
 ソースをかけて、青のりとかつおぶしを散らし、やっと俺の前に置いてくれた。
「先食っててよ。俺は今から焼くから」
「悪いな。お先に。いただきます」
 湯気が上がってるお好み焼きに箸を入れる。おお、ふんわりしてる。キャベツ押したりしないのがコツかな。こいつがこんだけ出来るんだったら、俺はマスターする必要なさそうだけど。
 口に入れると、やっぱ焼き立てだから熱い。熱いけど。
「うま! こんなの家庭レベルじゃねぇだろ」
「うちはこれが家庭レベルだよ」
「ハイレベル過ぎるわ」
 完全に、広島にライブで行った時にお好み村で食ったヤツだ。
 めちゃくちゃツイッターに書きてぇけど、絶対にこれは秘密だ。墓場まで持っていこう。とりあえず、宵闇が焼いたってわからなきゃいいんだから、写真は撮っておこう。箸で切り取ったから、いい具合に断面が見えるぜ。
 すぐにツイートにくっつけて投稿する。「めちゃめちゃうまいお好み焼き。最高」ってだけ文章つけとく。
 宵闇は滞りなく、さっきと同じ手順でお好み焼き製作に励む。俺はそれを眺めながら、お好み焼きを食い続ける。
 地味に楽しいな、こういうの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

デジタルソルジャー〜拡散力のあるXの書き手〜

館花琴音 @notekotone
キャラ文芸
推し活、政治、あらゆる分野でメディアより速くインターネット拡散したり、批判や誹謗中傷記事を火消しするXの書き手のインフルエンサーたち。宇宙人からの侵略で、日本政府が宇宙人に乗っ取られ、夢絵空事をテレビメディアより速く、国民に知らせなければならなくなり……拡散力のあるインフルエンサーデジタルソルジャーの物語。世界ルール改定をデジタルソルジャーは止められるのか?!

Réglage 【レグラージュ】

キャラ文芸
フランスのパリ3区。 ピアノ専門店「アトリエ・ルピアノ」に所属する少女サロメ・トトゥ。 職業はピアノの調律師。性格はワガママ。 あらゆるピアノを蘇らせる、始動の調律。

狗神と白児

青木
キャラ文芸
【あらすじ】 人と妖が営む和王国。かつては呪力を用いる隣人だった両者は、いつしか対立し、争いを繰り返すようになった。やがて〈禁令〉という両者間での殺し合いを許さない法令が敷かれ、人は現世で、妖は常世で、結界という壁を隔てて暮らし始める。そして、人は科学を頼るからか呪力を失っていき、妖は作り話の住人として語られるようになった。 そんな時代、「人ならざるモノ」を察する、満月の晩に赤く光る奇妙な右目を持つ泉という名の少女がいた。小さな村で墓守りの子として生まれ育ったが、父を一昨年に、母を昨年に亡くしたという不幸が続いた上、連日降る大雨のせいで氾濫しそうな川を鎮める為、生贄として選ばれる。身寄りの無い穢れた異端児を厄介払いしたいという意味合いだった。 川に投げ込まれて瀕死状態の泉と出くわしたのは、犬の頭と人の体を持ち、左手に勾玉の刺青が刻まれた男。男は泉を、人でありながら妖のような呪力の持ち主である稀代の〈神宿り〉と見抜き、従者――〈白児〉として迎えると言い、二人は一つの契約を交わす。男の名は斑、狗神という古い妖である。 泉は「シロ」という通名を与えられ、先に仕える大福という名のすねこすりも住む斑の家で共に暮らすこととなる。しかしシロは、命の恩人である斑の、あまりにも真っ直ぐな善意が、どこか理解し難く、中々素直に受け入れられない。それは自分達の生まれが違うせいなのだろうか……? 不器用ながらに心を通わせようとする、狗神と白児を軸とした物語。 この作品は、とあるコンテストに応募して落選したものです。加筆修正や設定の練り直しを施して連載します。 コンテスト応募時の原稿枚数は120枚(10万字超え)で第一章として一応完結していますが、続きも書きたいです。

妖符師少女の封印絵巻

リュース
キャラ文芸
両親を亡くして実家の仕事、「あやかし屋」を継ぐことになった女子高生、影山若葉。 しかし、その仕事というのは・・・妖怪退治!? 強化された身体能力と妖怪・多尾狐の<妖武装>たる<多尾幻扇ーテイルズ・ファンタジア>を操る主人公。 悪霊や妖怪を閉じ込めて己の力として使う<妖符>も用いて、元普通の女子高生(予定)が影から町を守る! 普通の高校生活も送りたい。そう考える若葉の明日はどうなるのか。

飛竜烈伝 守の巻

岩崎みずは
キャラ文芸
戦国の世の宿鎖が、現世にて甦る。血で血を洗うバトル奇譚。 高校一年生の宗間竜(そうま・りゅう)の右拳の上に、ある日、奇妙な赫い痣が浮き上がる。その日から悪夢に魘される竜。同じ頃、幼馴染みの親友、巳子柴蓮(みこしば・れん)も不快な夢に怯えていた。剣道部マネージャーの京野絵里(きょうの・えり)と口論になった竜は、絵里を追い、三ノ輪山の奥へと分け入って行く。そこは、戦国の時代、数百人が無残に殺され炎に包まれた古戦場だった。目の前で連れ去られた蓮、惨殺された祖母。前世の因縁に導かれ、闇の象限から甦った者たちとの、竜の戦いが始まる。

神とゲームと青春を!~高校生プロゲーマー四人が神様に誘拐されて謎解きする~

初心なグミ@最強カップル連載中
キャラ文芸
高校生プロゲーマー四人は、幼馴染でありながら両想いの男女二組である。そんな四人は神様に誘拐され、謎解きをさせられることになった。 一つ、干支の謎。二つ、殺人事件の謎。四人は無事、謎解きをクリアすることが出来るのだろうか。 ※コメントと評価はモチベーションになりますので、どうかお願いします。気軽にコメントをくださると、作者はとても喜んで死にます。 〇コミックノヴァ編集部様、コミコ熱帯部様より注目作品に認定されました!! ーーー 変わらない日々を送っていた俺達は、皆でフルダイブ型VRの謎解きゲーをしようとした。しかし、普通にオープニングを進んでいたゲームは突如バグりだし、暗転する。暗転の末で強い光に目をやられた俺達の目の前には、可愛らしい容貌の神様が居た。その神様の目的は、四人を自分の暇つぶしに付き合わせること。最初こそ警戒していた四人だったが、同じ時を過ごす内に友情も芽生え、かけがえの無い存在になっていく。

双子妖狐の珈琲処

五色ひいらぎ
キャラ文芸
藤森七葉(ふじもりなのは)、22歳。IT系企業に新卒入社し働いていたが、思うように仕事ができず試用期間で解雇される。 傷心の七葉は、行きつけの喫茶店「アルカナム」を訪れ、兄弟店員「空木蓮司(うつぎれんじ)」「空木壮華(うつぎそうか)」に愚痴を聞いてもらう。 だが憩いの時間の途中、妹の藤森梢(ふじもりこずえ)から、両親と共に七葉の自室を掃除しているとの連絡が入った。駆けつけてみると、物であふれた七葉の部屋を両親が勝手に片付けていた。勝手に私物を処分された七葉は両親に怒りをぶつけるが、その時、黒い泥状の謎の存在「影」が現れ、両親を呑み込んでしまった。七葉たちも襲われかけるが、駆けつけた蓮司と壮華に救われる。 蓮司と壮華は実は人間ではなく、妖力を持った「妖狐」の兄弟であった。 自室に住めなくなった七葉は当面、「影」から身を護るためも兼ねて、住み込みの形で「妖怪喫茶」アルカナムで働くことになる―― 「影」の正体とは、そして七葉と蓮司の関係の行方は。 あやかし集う喫茶店での、不可思議な日々が始まる。 ※表紙イラストは、にんにく様(X: Nin29G )に描いていただきました。

マグダレナの姉妹達

田中 乃那加
キャラ文芸
十都 譲治(じゅうと じょうじ)は高校一年生。 同じ高校に通う幼馴染の六道 六兎(ろくどう りくと)に密かな想いを寄せていた。 六兎は幼い頃から好奇心旺盛な少年で、しょっちゅう碌でもない事件に首を突っ込んで死にかけている。 そんな彼を守ろうと奔走する譲治。 ―――その事件は六兎の「恋人が出来た」という突然の言葉から始まった。 華村 華(はなむら はな)は近くの短大に通う学生である。 華の頼みで彼らはある『怪異』の検証をする事になった。 それは町外れの公園『カップルでその公園でキスをすると、運命の相手ならば永遠に結ばれる。そうでなければ……』 華の姉、華村 百合(はなむら ゆり)がそこで襲われ意識不明の重体に陥っているのである。 ―――噂の検証の為に恋人のフリをしてその公園に訪れた彼らは、ある初老の男に襲われる。 逃げた男が落として行ったのは一冊の生徒手帳。それは町の中心部にある女学校。 『聖女女学校』のものだった。 そこにこの事件の鍵がある、と潜入する彼らだが……。 少しイカれた素人探偵と振り回される幼馴染、さらにキャラが濃い面々の話。

処理中です...