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しおりを挟む俺もペットボトルを一つ取り、飲みながらモニターの方へ近付く。宵闇は水も飲まずに、プレビューを見ている。その後ろから、俺も画面を見る。
そこでは、1テイク目で眺めていたのとはまったく違う映像が展開されていた。
礼華は鮮やかに微笑んでいるし、朱雨の眼光にはマジで殺されそうだ。綺悧はこっちが不安になるくらい、鬼気迫る表情。
宵闇だけは、あまり変わらない。始めから出来上がってるからな。絶対的な孤独と拒絶を感じるくらいに、無を体現している。
俺は…俺、叩いてる時はこんな顔してんのか。自分が叩いてるところを見たことがないわけじゃねぇけど、こんなに迫力あるのは見たことがない。ほんと、こいつやべぇ。絶対友達になりたくない。頭おかしい。ずっとニヤニヤしてるよ。サイコパスってのは、こんな顔して人殺すんじゃねぇか?
宵闇が寄越す要求は恐ろしいな。
こんな5人が揃ってプレイしてる絵は、ヤバい。ヤバいじゃ足んねぇな。この中に入れって言われたら足が竦むし、でも見てしまったら目が離せない。
4テイク目のチェックには時間をとって、3本をきちんと見る
どのカメラからのショットも、俺から見たら使えない部分がない。これだけでMV出来ちまう。でも、これに今まで撮ったのと、この後撮る映像が組み合わさるんだよな。贅沢でもあり、勿体なくもあり。
宵闇は監督と話し合い、あと1テイク撮ることを決める。
いつの間にか、綺悧、朱雨、礼華も俺の背後に集まってモニターを覗いてた。振り返ると、皆真剣な目つきだ。誰も休憩なんてしてねぇ。
プレビューが終わると、言葉も交わさずにすっとそこを離れ、ペットボトルを元のテーブルに置くと楽器を手にして定位置に戻っていく。休憩の間も、ヤツらはテンションを保っているようだ。
俺もペットボトルを置いて、ドラムセットに戻る。スツールに座っただけで、さっきの吹っ飛んだ状態が戻って来そうだ。
休憩終了の合図もないのに、スタンバイが完了する。皆、何かを考えているようだ。さっきのハイレベルなテイクでも、それぞれ修正したいところはあるんだろう。宵闇はそれを見て戻って来る。
「いけるか?」
宵闇の問いに、皆頷いて返す。
「これで最後のテイクにする」
宵闇は全員の顔を見て確認すると、監督と視線を合わせる。
「お願いします」
カウントダウン、シンセの音。
もう、条件反射だ。俺の意識は弾け飛んで、理性は音を立てて崩れる。
そして、ここに残った俺の体だけが、その使命を無心にこなすかのようにドラムを叩く。
楽しい、すら超越してる。ライブでの観客の歓声に包まれた時とはまた違う、初めて得る強い快感に、俺は溺れてた。
俺をカッコよく見せる、とか、ヴィジュアル系らしく、なんてのはどうでも良い。
宵闇が俺にかけた「狂え」という呪いだけが、俺を支配する。
最後のシンバルが、その呪いから俺を解放した。
大きく息をつき、手足が自分に戻って来るのを感じる。つい今まで、俺の意志とは関係なく動いてた。
「カット!」
息を吹き返す、スタジオの空気。俺は深呼吸する。空気がうまい。俺、息するのも忘れてたんじゃねぇだろうか。
見渡すと、メンバー達の顔にも笑顔が戻ってる。
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