Hate or Fate?

たきかわ由里

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「今からやり直しは…きかねぇか…」
「ああ、多分もうマスタリングも終わってる」
「はあ?」
「明日にはプレスにまわるんじゃないかな」
 めちゃくちゃインスタントじゃねぇか。チキンラーメンもびっくりだわ。なめられたもんだ。最初にスケジュールもらった時に、えらくレコーディングから発売までが早ぇなって首を傾げたんだけど、こういうことか。
 ここまで進んでるんじゃ、もう打つ手はない。悔しいけど、このまま発売されるのを、黙って見ているしかない。
「…今回は出来る範囲で最高のことを、って言ったのは俺だもんな」
 俺が入る前に決定されてた日程の範囲で俺らが出来ることは、あのレコーディングだけだった。それは最初から確定してたってことだ。
 今になってどうこう言っても仕方ない。
「なぁ、宵闇」
「うん?」
「ベストアルバム作ろうぜ」
 先のことを、考えよう。このシングルが全てじゃない。まだまだベルノワールをアピールするチャンスはたくさんあるはずだし、チャンスは作る。
 この曲は、俺らが活動してる限り、ここで終わりじゃねぇ。
「ベスト?」
「全曲新録で。アレンジもやり直す。このラインナップのベルノワールが最強なんだってのを、思い知らせるようなもんを」
 予想外の俺の提案にぽかんとしてた宵闇の顔に、徐々に笑みが戻って来る。
「この3曲も、その時にやり直そう。ミックスはもちろんだけどさ、そもそものプレイだってこれより何倍も良くする。このシステムにベルノワールを乗っけてるヤツらに後悔させる」
 音で、ヤツらをぶん殴ってやる。お前らがなめてるベルノワールはこんなもんじゃねぇってのを、音で思い知らせて、叩きのめす。
 宵闇は、力強く頷いた。本調子が戻って来たな?
「ミックスもちゃんとした人に依頼しよう。聴かせたい音をしっかり理解してくれる人だ。どんな伝手を使っても探す。制作期間ももっと取る。納得行くまで時間をかける。今までのアルバムもこんな調子だったんだろ?」
「そうなんだ。俺はインディーズでもまともなCD作ったことがなかったから、こんなもんだと思ってて」
「それじゃ…仕方ないよな」
 見たところ、こいつらにはそこんとこを教えてくれるような親しい先輩もいなさそうだし、関係者もベルノワールはカッコだけだって扱いだ。宵闇が音楽方面に本気出してたら、集められない情報じゃなかったとは思う。でも、こいつの才能はプロモーション的な部分に偏ってる。そこに力を入れてファンを増やしてたんだから、その上に音楽まで手を回せってのは無理な話だったんだろう。
「ベルノワールはここからがスタートだからな。音楽は俺がお前に指示を出す。お前の仕事は、各方面への交渉とプロモーションだ」
「頼む。やることがわかってれば、交渉しやすい」
 宵闇に右手を差し出す。宵闇は俺の手をぐっと握る。
「今回は、音源に関してはここまでだ。この音源を伸ばすのは、これからのライブに賭けようぜ」
「ああ。絶対にこれよりいいプレイを見せような」
 宵闇はにっこり笑った。がっちり握手した手が頼もしい。
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