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何だかんだと丸一日、写真撮影に費やされた。確かに元々一日の予定だったけど、ほんとにこんなに時間かかるんだな。卒業アルバムの集合写真とは天と地の差だ。
更に構図をいくつも変えて撮った全員ショットの後は、続けて綺悧の個人ショット。拗れた可愛さっつーの? 普段の素直な可愛さとは違って、うちに暗いものを秘めてるような妖しい表情は悪魔的で、可愛さと狂気が同居してる。
その後が礼華。長身と長い手足を生かした広がりのあるポージングは、綺麗な顔とあいまって孔雀とか鳳凰とかみたいで華麗でゴージャス。そんでまた、表情に色気があんだよな。伏し目がちにすると、見てる方がうっとりさせられる。
で、俺の前に宵闇。これはもうほんとに…世界一カッコいいベーシストだね。惚れた俺が言うんだから間違いねぇ。全員ショットの時の最低限の動きはそのまま、正に地獄からやって来た、地獄にしか連れて行かない死神の王ってとこだ。恐ろしげなポーズや、威嚇するみたいな表情はゼロなのに、骨の髄から凍らせるような、それなのに目が離せない雰囲気。それを写真に表現するんだからすげぇよ。カメラマンさんの腕も勿論いいんだろうが、僅かな顔の角度や指の位置で見る者を闇に誘い込む宵闇自身のセンスと才能には脱帽だ。
ラストに俺。この順番は、初めてだから全員の撮影を見てからの方がいいだろうっていう宵闇の配慮だと思う。
俺の個人ショットは…これ、客観的にはよくわかんねぇな。やっぱりひたすら宵闇の指示でツイスターやってた記憶しかないし、写真見ても「これは腰がヤバかった」「目玉はずれるかと思った」「このポーズ何の意味があるんだ?」とかしか思い浮かばない。何せ、自分だからなぁ。何かに例えるってのはなかなか難しい。
ただ、宵闇の顔は満足そうだったから、良かったんだと思う。宵闇が言うには、イメージは「空想上の生き物」らしい。ドラゴンとか? ユニコーンとか? どの辺にその要素があんのかは、俺には一生わからない気がする。
個人ショットが終わってから一時間のインターバルが入って、その間に宵闇はデータをチェック。またそれぞれを呼び出して、撮り直し。ここんとこのこだわりはめちゃくちゃ強い。最後に全員ショットの追加撮影。
てことで、思ってたより遅くなった。宵闇を車に乗っけての帰り道、シングルのミックス済データが今日送信されてることを思い出した。マネージャーも今日来て撮影をずっと見てたから、事務所スタッフの誰かがやっといてくれてるはずだ。
宵闇も完全に撮影に集中してて、頭から抜けてた。
初めて一緒に制作した音源だ。一緒に聴いて反省会をしよう、ってことになって、宵闇はそのまま俺んちに来た。
宵闇は完全に遠慮とかどっかにやっちまって、何のことわりもなくテーブルの前に座って俺のノートパソコンを立ち上げる。俺はビールと、麦茶を持って隣に座る。あ、ビール呑んじまった。宵闇送ってけねぇな。まあいいか。歩いて帰れ。
流石にパスコードは教えてないから、俺がパスコードを打ち込んでロックを解除。メールを開いて事務所からのものを探す。
ちゃんと午前中に届いてた。データはクラウドにあるらしい。そっちにアクセスして、パスワードを入れる。
「これだよな?」
「そう、それ。再生しよう」
宵闇は画面を指さす。期待と不安が入り交じったような、複雑な表情。今までとまったく違うやり方で録ったから、仕上がりがどうなるかはこいつにも予想出来ないんだろう。
「あいよ」
Hate or Fateをクリックしてデータを開く。音が流れ出す。
イントロ頭はシンセが8小節。宵闇、かなり凝ったなこれ。デモと全然違う。そこから一斉に楽器パートが始まる。
…あれ。
俺が思ってたのと、仕上がりが違う。
レコーディングの時に単純に重ねた音は、もっと厚みと迫力があった。俺の理想には程遠いとは言え、現段階では最高のものだったはずだ。
更に構図をいくつも変えて撮った全員ショットの後は、続けて綺悧の個人ショット。拗れた可愛さっつーの? 普段の素直な可愛さとは違って、うちに暗いものを秘めてるような妖しい表情は悪魔的で、可愛さと狂気が同居してる。
その後が礼華。長身と長い手足を生かした広がりのあるポージングは、綺麗な顔とあいまって孔雀とか鳳凰とかみたいで華麗でゴージャス。そんでまた、表情に色気があんだよな。伏し目がちにすると、見てる方がうっとりさせられる。
で、俺の前に宵闇。これはもうほんとに…世界一カッコいいベーシストだね。惚れた俺が言うんだから間違いねぇ。全員ショットの時の最低限の動きはそのまま、正に地獄からやって来た、地獄にしか連れて行かない死神の王ってとこだ。恐ろしげなポーズや、威嚇するみたいな表情はゼロなのに、骨の髄から凍らせるような、それなのに目が離せない雰囲気。それを写真に表現するんだからすげぇよ。カメラマンさんの腕も勿論いいんだろうが、僅かな顔の角度や指の位置で見る者を闇に誘い込む宵闇自身のセンスと才能には脱帽だ。
ラストに俺。この順番は、初めてだから全員の撮影を見てからの方がいいだろうっていう宵闇の配慮だと思う。
俺の個人ショットは…これ、客観的にはよくわかんねぇな。やっぱりひたすら宵闇の指示でツイスターやってた記憶しかないし、写真見ても「これは腰がヤバかった」「目玉はずれるかと思った」「このポーズ何の意味があるんだ?」とかしか思い浮かばない。何せ、自分だからなぁ。何かに例えるってのはなかなか難しい。
ただ、宵闇の顔は満足そうだったから、良かったんだと思う。宵闇が言うには、イメージは「空想上の生き物」らしい。ドラゴンとか? ユニコーンとか? どの辺にその要素があんのかは、俺には一生わからない気がする。
個人ショットが終わってから一時間のインターバルが入って、その間に宵闇はデータをチェック。またそれぞれを呼び出して、撮り直し。ここんとこのこだわりはめちゃくちゃ強い。最後に全員ショットの追加撮影。
てことで、思ってたより遅くなった。宵闇を車に乗っけての帰り道、シングルのミックス済データが今日送信されてることを思い出した。マネージャーも今日来て撮影をずっと見てたから、事務所スタッフの誰かがやっといてくれてるはずだ。
宵闇も完全に撮影に集中してて、頭から抜けてた。
初めて一緒に制作した音源だ。一緒に聴いて反省会をしよう、ってことになって、宵闇はそのまま俺んちに来た。
宵闇は完全に遠慮とかどっかにやっちまって、何のことわりもなくテーブルの前に座って俺のノートパソコンを立ち上げる。俺はビールと、麦茶を持って隣に座る。あ、ビール呑んじまった。宵闇送ってけねぇな。まあいいか。歩いて帰れ。
流石にパスコードは教えてないから、俺がパスコードを打ち込んでロックを解除。メールを開いて事務所からのものを探す。
ちゃんと午前中に届いてた。データはクラウドにあるらしい。そっちにアクセスして、パスワードを入れる。
「これだよな?」
「そう、それ。再生しよう」
宵闇は画面を指さす。期待と不安が入り交じったような、複雑な表情。今までとまったく違うやり方で録ったから、仕上がりがどうなるかはこいつにも予想出来ないんだろう。
「あいよ」
Hate or Fateをクリックしてデータを開く。音が流れ出す。
イントロ頭はシンセが8小節。宵闇、かなり凝ったなこれ。デモと全然違う。そこから一斉に楽器パートが始まる。
…あれ。
俺が思ってたのと、仕上がりが違う。
レコーディングの時に単純に重ねた音は、もっと厚みと迫力があった。俺の理想には程遠いとは言え、現段階では最高のものだったはずだ。
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