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しおりを挟む宵闇の後を着いて隣の部屋に入ると、その部屋は白い幕が貼ってあって、簡単な写真スタジオみたいになってる。マネージャーとカメラマンがそこで待っていた。
「あら、夕くんいいじゃない!」
マネージャーは満足そうににっこりと笑う。
「これなら売れるわね」
見た目だけで売れても全然嬉しかねぇけどな。
「ああ。完璧だろ。これで髪が紫なら良かった」
「うっせ。絶対染めねーぞ」
「せめてもう少し白く出来ないか」
ブリーチすると黄色っぽくなるのは、俺の元々の髪質だ。文句を言われたってどうしようもないし、この色が自分にしっくり来てんだ。変える気はない。
「ならねぇ」
衣装や化粧は俺に乗っけるもんだけど、髪は俺の体そのものだ。指図を受ける筋合いはない。
「充分いいじゃないの? さ、カメラテスト始めましょ」
マネージャーはぽんぽん、と手を叩いてその場をとりまとめ、俺を幕の前に招く。宵闇はカメラマンの後ろに立ち、俺を見ている。
「じゃあ適当に好きなポーズで」
「あー…」
って言われてもな。こういう撮影は初めてだからよくわからん。右手でピースをしてみる。
「夕、バカ」
「うるせ! じゃあ指示出せ」
「そうだな…まっすぐ立って。右足前に出して、左足をこう引け。そう。左肩も引いて」
言われた通りに動いてみる。
「よし、それで決め顔」
「ああー? 決め顔ー?」
「お前の中で一番カッコいい表情だ」
そんなもんわかってるわ。顎を上げて、カメラを睨みつける。
「夕、顎引け」
「は?」
「顎は引くんだ。威嚇してどうする」
「ああ? 違うのか?」
「違う。とにかく顎は引け」
納得いかないけど、ヴィジュアル系ってのそんなもんなのか。顎を引いてカメラを見る。シャッターが何度も切られる。
「じゃあ、手はへその辺りで組んで…そうだ目線はこっちだ。そう、その辺りの床」
床見ながら写真撮るとかシュールだな。意味が一切わからないまま、宵闇の指示を受けながら何ポーズも写真を撮る。
カメラマンの横では、マネージャーがハンディカムで動画を撮っている。それも何かに使うのか。
一時間ほどもそんなことをしてただろうか。何度も何度も「顎引け」って言われながら続いた撮影に、宵闇から終了の声がかかった。慣れないピンヒールで、俺のふくらはぎは悲鳴を上げてる。下半身は鍛えてるけど、この筋肉は鍛えてない。もう無理だ。さっさとブーツを脱ぐ。
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