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第四十七話:真実

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 目の前に現れたイラス様と勇者様。
私はそこで勇者様にクリスティーナ様を助けてほしいと悲願した。

クリスティーナ様の目からは只ならぬ覚悟が感じ取れ、身体からは酷い火傷の匂いがした。
額に汗を滲ませながらも、いつもの表情を保っていた事に畏怖の念を抱くほど。
しかし、アレがとても痛いことをしているという事は私にも解る。

それにどこかクリスティーナ様は何かを諦めているようにも見えた。
だから直にでも助けに行ってほしい。

私は『かくれんぼ』で囚われていた屋敷から抜け出し、森の中で勇者様に手紙を出した。
『かくれんぼ』の最中に他の魔法を重複して使う事は出来ない。
だから魔法扱いのこの手紙も、使えないのだ。
私が捕まったら元も子もないので、しっかりと安全を確保して、簡素に状況を説明した内容の手紙をだした。

勇者様と一緒にイラス様が来た事には驚いたが、嬉しくもあり、とっさに抱き着いてしまった。
しかし、今は一刻の猶予も無い。

「お願いします!クリスティーナ様を!」
「落ち着け、クリスティーナは敵ではなかったのか?」
「それは、えっと」

そうか、クリスティーナ様と一緒に私が消えた。
状況的には私はクリスティーナ様に攫われたと思うのが普通だろう。

私は二人に事の経緯をかいつまんで説明した。

「ですからクリスティーナ様は敵じゃありません!私達が冤罪を着せていたんです!」
「そんな事が…」
「それよりも早く!」

その時、ひと際大きな炎が屋敷の方から上がった。

「クリスティーナ様!」

私は屋敷の方に駆け出した。

「マホ!」
「イラスはマホ様を押さえろ!俺はクリスティーナ様を」
「わかった。頼む」

私はイラス様に抱えられ、勇者様はどこからともなく神聖さを帯びた剣を取り出し、屋敷の方へ跳躍した。
そして勇者様が剣をひと薙ぎすると、屋敷が吹き飛んでしまった。

「なっ、ゆ、勇者様!?」
「大丈夫だ、人は避けた」
「え、避けたって、え…?」

屋敷を丸ごと吹っ飛ばしたのにどうやって人を避けたのか、まったくもって謎である。

「居たな、これは…すこしまずそうだ」

そうして、勇者様が駆け付けた場所には全身に火傷を負った女性の姿があった。
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