上 下
33 / 50

第三十三話:勘違い

しおりを挟む
 朝が来たら夢だったということはなかった。昨日の出来事は現実だった。

「今日から一月は大変です。休みはありませんから、マホ様も覚悟してください」
「そ、それは皆さんの休みもなくなってしまうのですか? 交代で休みを取ってください。これ以上迷惑はかけられませんわ。マリーは私に付いてきてたから休めなかったでしょう? 休んでくださいな」
「何を呑気なこと言ってるんですか。休みどころか眠る暇もないほど忙しくなるっていうのに」

 マリーとメリーにコンコンと説教された。他の侍女さんたちはそれを見て笑ってる。時間が経ってないみたい。説教されているのに前とかわらない風景に私も笑ってしまい、更にお怒りをかってしまった。

「さあ、朝ごはんを召し上がってください。予定がびっしりありますから、ゆっくり急いで食べてください」

ゆっくり急いでって、メリーもテンパってる?

「食べれないわ」

食欲がなかった。これでもかという量の朝ごはんに首を振った。

「「「「「え⁉︎」」」」」

 皆の顔が青褪めてる。食欲がないくらいでそんなに驚かないでほしい。私だって食欲のない日くらいあるよ…って違うか。他のことを気にしてるんだ。

「ち、違います。毒とかではないです。ただ幸せすぎてお腹がいっぱいで食べれないだけです」

空気が変わった。

「驚かせないでください。今日、王妃になる事が発表されるというのに、毒が混入されとなれば大きな騒ぎになります。今までとは違うのですよ」
「え? ちょっと待って。王妃ってなんのこと?」
「昨日プロポーズ受けてましたよね」
「結婚の事ならお受けしたわ。でも側室でしょう? 私は貴族でもないし…それに王妃にって事なら結婚式はひと月でなんて無理よ。側室だってひと月は難しいのに、だから王妃にっていうのはあなた達の勘違いよ」

どうして王妃になるなんて思ってるんだろう。私は異世界人でおまけになんの能力も授かってないのに。

「勘違いしてるのはマホ様ですよ。イラス様はずっとマホ様の事を王妃にって考えてましたよ。ひと月で準備が出来るのは、マホ様の返事がもらえたと勘違いしたイラス様が先走った結果です。ウェディングドレスも仮縫いまで終わってるし、招待状も発送するだけなんですよ。まあ、他国の方々はひと月後の招待状に驚くことになると思いますが…」

 側室の結婚なら他国の人を呼ぶ必要はないが、王妃となる人との結婚になると他国の王族を招待する必要がある。普通半年前くらいには招待状が発送されてなければならない。それは驚くよ。っていうかなんでそんなに急ぐのよって思われるよ。

「…むり、無理です。王妃なんて大役、無理」
「そのような事言われても、もう招待状は発送されましたよ」
「え? もう? 昨日の今日なのに…本当に私で大丈夫なのかしら」
「大丈夫ですよ。イラス様に全てを任せたらいいんです。それにマホ様の後見人は勇者様です。今、この世界で勇者様に逆らうほど度胸がある方はいませんよ。魔王を倒された方っていうのはマホ様が考えてるより、ずっとすごい人なんですよ」
「そうですよ。マホ様に会わせてくれって言われてあのイラス様が断ることができなかったんですから。それほどの方が後見人になったのですから胸を張ってればいいのです」

 メリーもマリーも勇者様は凄いって言うけど、私は彼の凄さがイマイチよくわからない。魔王が現れた時から倒されるまで、私は何も知らされずいつものように暮らしてたから危機感がなかったせいだろう。

なら情けない姿は見せられないね。頑張ろう!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

陛下、貴殿に尽くしてきた王妃ですが、もう私は貴殿へ尽くすことをやめます。

天災
恋愛
 貴殿に尽くすことをやめます。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...