上 下
4 / 9

4話:初めての街

しおりを挟む
ハヤミンの説明によると『交易都市タラド』は様々な街や国との交通の要所らしい。
ドワーフ達の都市国家とも近く、良質な武器や防具、一部の職人も流れてくるために大きく発展しているとか。

そして、この世界に来て初めて異世界の建造物を見た俺だが、感想はの一言に尽きる。
街並みなどはテレビで見たイギリスとかフランスとかだろうなと思って居たのだが、おそらくは前世ではテレビですら見た事の無い長大な壁。
その高さは何階建てのビルに匹敵するのか、ただただ巨大な石材が積まれた重厚な壁は圧倒的な存在感を醸し出していた。

ゲーム時代、ファラオンでは聞いたこともない街の名前。
そしてファラオン時代にこれほど大きな壁は街に設置されていない。
アサルトライフルに巨大な街壁。ゲーム時代にはなかった大きな変化、俺のゲーム知識はどこまで通用するのか。

そんなことを考えながら馬車に揺られていると、巨大な街壁とその門へと並ぶ列が見えた。
どうやら歩行者用と馬車用とて列が解れているらしく、歩行者側よりもすいている馬車用の列に並んでいく。
護衛達ももちろん馬車についていく。

すると衛兵達が馬車の方へと歩いてきた。
体格がよく結構な数の衛兵が歩いてきたのでめっちゃビビる…

「盗賊の捕縛ご苦労だった」

なにやらイギリスとかの近衛兵みたいな恰好をした衛兵だ。

「交易都市タラドで兵士長を務めるモノだ。 この部隊のリーダーは誰だ」
「はい! 私です」

そしてハヤミンが声をあげた。
商隊の冒険者達に指示を出していたので、そうじゃないかと思って居たがハヤミンがリーダーらしい。

「身分証を確認させてもらう」
「はい」

ハヤミンは冒険者カードを取り出し兵士長へ提示した。

「Cランク冒険者か。 盗賊らの装備は?」
「彼のインベントリにしまってもらっています。 のちに冒険者ギルドに提出予定です」
「確認しても?」
「こちらがそのリストです」

ハヤミンは俺のインベントリに入れた盗賊達の装備や物資一覧を見せた。

「銃か…」
「はい…」
「君が魔法で?」
「ええ、囮役を務めてもらい、その隙に攻撃・捕縛しました」
「なるほど、ご苦労だった。 あとは我々が引き取ろう」
「よろしくおねがいします」

おお、めっちゃしっかりやり取りしてる…。
兵士長は目測で180~190cmはありそうで、ハヤミンは俺とほぼ変わらない身長だから165cmくらい。
この体格差でしっかりと受け答え出来てるのがすごい…。
俺ならペコペコしちゃいそうだ。いや、するね。

ちなみに他の戦士や弓兵の冒険者達はおまかせって感じで待機している。
後で聞いた話だが、彼らはDランクの冒険者で即席で組んでおり、ランクの高い冒険者がリーダーを務めるのが常識らしい。

兵士長とのやり取りが終了した後、商人のご主人からハヤミンがサインを受け取り、護衛依頼は完了となった。
冒険者達はこの場で解散。ハヤミンが依頼完了の報告を冒険者ギルドに提出して終了となる。
長話だったので、馬車の列のわきで報告と引き渡し、解散が行われたので未だに俺達は門の外な訳だ。

そして、護衛してきた馬車と冒険者達が先に門をくぐる事になった訳だが、そこで俺はハヤミンへと問いかけた。

「なぁハヤミン。 ちょっといいか?」
「ん? どうしたの?」
「街に入るのに身分証って、必要だよな…?」
「うん」

そう、街に入る前に皆が皆身分証を提示しスムーズに入っていっている。
しかし、俺は冒険者カードなるものを所持していない。
インベントリの中は木の枝と蔓に小石と盗賊の持ち物だけだ。

「え…? まさか無くしたの? インベントリがあるのに?」
「いやいや、そもそも身分証ってのを持ってないんだ」
「はいぃ? まぁそれならお金で払うしかないね。 小銀貨1枚くらいだったかな」
「ふっ、なんと身分証も金も無いという隙を生じぬ二段構えなのさ!」
「隙しか無いじゃない…」

素早いツッコミだ。
だが事実なのだから仕方がない。
さて、どうしようかと考える人のポーズ(立っている状態)で頭を悩ませていると。

「もう、仕方ないわね…」

どうやら見捨てることはしないらしい。
ハヤミン…最高に良い女だ。



「確かに、こちらが3日間の借り通行証だ。 長期滞在する場合は冒険者ギルドなどで身分証を発行するように」
「はい」

こうしてハヤミンが身元保証人になってくれた事によって俺は交易都市タラドへと入る事が出来た。

「いやー、マジで助かったよハヤミン。 仮の身分証に生活費まで…」
「貸しただけよ? ちゃんと返してよね? それと条件は守ってもらうわよ」
「了解だよ」

ハヤミンから提示された条件は二つだ。
一つは冒険者ギルドで冒険者に登録。これは商業ギルドでもいいけどって言われたが、ハヤミンが少し渋い顔をしていたので理由を聞いてみた。
そうしたら本来は生産職は商業ギルドに登録して仕事を斡旋してもらうのが普通だが、クラフターなど不遇職や余剰の生産職は待遇が酷いらしい。
特に簡単な仕事はほとんどクラフターには回してもらえないという話だ。

まぁこれは妥当だと俺も思った。クラフターはどんな簡単な生産品でも品質が低くなる。
態々品質の悪いモノを作ってもらう依頼主も仲介するギルドも無いだろう。
そしてなんでもこの世界では生産職が結構な割合であぶれていて商業ギルドは飽和状態らしい。

考えてみれば簡単で、生産でスキルレベルが上がる生産職は街から出る必要性が無く。戦闘系のジョブは外に出る必要がある。安全度の差だ。時間が経てば経つほどに生産職の方が余るに決まっている。
街の施設は有限。つまりは生産職は数が多くなりすぎてあぶれる…という訳だ。

そんな訳で登録は冒険者ギルドでおこない。
しばらくはハヤミンとパーティを組みクエストの手伝いをする。という条件を出された。
倒した魔物の素材などを運ぶ手伝いだそうだ。当然報酬も荷運びポーターと同じだけ払うとの事だ。
ちなみにパーティを組むとギルドで相手の位置情報を探知できるらしく、借り逃げ防止も可能。

まぁ短い時間で把握した彼女の性格からして、完全に常識のない俺に色々教えてくれようとしていることがバレバレなのだが。
条件とすることで俺に負担がかからないようにしてくれているのだろう。
しかもパーティを組み彼女がリーダーになるという事は、俺が何か問題を起こした時には責任は彼女がとるという事だ。

(ハヤミン、良い女すぎるだろ…)

こうして俺はハヤミンの後について冒険者ギルドへと向かうことになった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...