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脱出
しおりを挟む「これまた見事に燃えていますね」
呑気にエメロードが見える先には、先程自身が放火した屋敷が燃え盛っている。
エメロードとスフェールは木に飛び移り、暫くしたら地面に降りた。
窓から投げ捨てた男達は、エメロードとスフェールが木の上で息を潜めている間に回収されていった。
こんな状況でも仲間を見捨てないとは…あのスペードと言う男が組織しているにしては、何というか生温い。
そう考えると違和感がある部分があるが、現在は考えることではないとエメロードは考える事を放棄した。
疲れているのだ。壮絶に…。
「クリスタリザシオン嬢…君が放火したのであろう。そろそろ私達も逃げないか?」
どこか遠い目をしながらも前向きな話を振ってくるスフェール。
「逃げる?私達が?ここに居れば問題ありません」
その言葉に、何言ってんだコイツ…みたいな顔でエメロードが返事をする。
「問題ない?なぜだ?」
「私達がここから出たとして後、何人の敵が生き残り、何処に潜んでいるか分かりません。ですがここに居れば少なくとも、衛兵・やじ馬等の人が集まってきます。人々が注視している中で、動くのは得策ではないでしょう?」
暗に貴方は王太子殿下なのだから…とエメロードはスフェールに言う。
そう。既に屋敷の周りには人が集まり始めた。
この中を出て行けば人目に付くし、王太子殿下とバレたら更に大騒ぎだ。
それならば、人が落ち着いて衛兵にコッソリ話掛けた方がいい。
もしくは…
「お待たせいたしました」
そう言って、黒い影が一つ目の前に降り立った。
「イリア、ご苦労様」
「いえ、お探しするのに時間がかかってしまいました。主の手を煩わせるなんて…」
エメロード達を救出するよりも先に、エメロード達が動いて知らせてくれたことに対して、思うところがあるのだろう。
しかし、エメロードだ。
普段は「めんどくさがりな」とは言われるが、スイッチが入れば「やる子」になるのだ。
そのやる気スイッチがどこにあるのかは、本人のみ知る…と言った感じなのだが。
「大丈夫よ。こちらも大した問題もなく、脱出出来たから」
その言葉に横に並んでいたスフェールからは、もの言いたげな目線が送られる。
「ならば良いのですが…。とにかく、この場を離れましょう。王太子殿下がこの場に居合わせるだけでも、問題になるでしょうから…。お嬢様は大暴れしたでしょうし」
そう言って、じっとエメロードを見るイリア。
その目から顔をそらす、エメロード。
幼い頃から知った仲なので、隠し事などはバレバレだ。
「しかし…どこから出るのだ?見える範囲では塀と柵しかないが?」
イリアの言葉に思わず、心の中でうんうんと頷きながらも、今後の展開について話す。
「ここからは見えませんが、裏口があると思いますので、そこから出ましょう」
そうエメロードが言うが、スフェールは首を傾げる。
「だが、その侍女…イリアだったか?は上から降りて来なかったか?」
「「……」」
そう、イリアは上から降りて来た。
道を走るより屋根伝いのが早い!との判断で、上を走ってきたのだ。
普段から木に登ったり、屋根に登ったりしているエメロード達と違って、スフェールには思いつきもしないだろう。
因みに、エメロードが屋根を走り、屋根と屋根の間を飛んだりしていることは、領地の何人かが知っている。
「と、とにかく…ここはその内、崩れるでしょうから裏口に行きましょう」
これ以上は深く聞かれたくはないので、エメロードとイリアはそそくさと裏口へと向かった。
* * * *
「ふぅ…今日は大変な一日だったわ…」
もう間もなく二時となる時間に、エメロードはやっとベットの中へと入れた所だ。
そして今日、一日を振り返る。
朝、城下へと行くことを決め、朝食後に城を出た。
昼食を楽しく取り、戦闘に巻き込まれて拉致され、敵を屠りながら屋敷に火を放ち、脱出。
言葉にすると簡単だが、なかなかにハードな一日だ。
しかも昼以降は、戦ってばかりいる。
おかしい…伯爵令嬢なはずなのに、どこぞの王太子殿下よりも男らしい。
そもそもの話、エメロードは『教育係』として王城へ呼ばれたのだ。
なのに教育係とは名ばかりな、王太子のお守り…。
まぁコレに関しては、王太子で少しばかりストレスを発散しているので、良しとしよう。
だが…今回の事は、コレで終わり!とはならないだろう。
今回、スペードと名乗る頭を取り逃している。
何が良いのかエメロードはスペードに気に入られてしまっている。
今回のことで、ハイ、サヨウナラ!となれば問題ないが、悲しいかな…何故かああいった相手に執着されることが多い。
今までは、家族や自分の手である程度制裁をすれば、事が済むばかりだったのだが…今回の相手は、規模もさることながら、粘着質なタイプとみた。
今まで以上に追い払うことが難しい難敵だ。
……と、そこまで考えたエメロードは、今考えても後から考えても来る時は来る。
もう今は取り敢えず、寝よう!と考えを放棄して思考を彼方へと追いやった。
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