上 下
24 / 36

尾行してみた 2

しおりを挟む

「まぁ、殿下がそう思うのも仕方がないですね。例えば噂が本当のなら、エメロード嬢は今頃、城を出て領地に帰っているでしょう。そして、殿下の事など見なかった事にすると思います。と、なると女官長が言っていたように、わざわざ外で殿下を陥れるようなことを考えている・・・のも無いと思います。そこから考えるに、エメロード嬢本人が何かを望んでいての外出とか?」

「そんな頻繁にか?東を治めるクリスタリザシオン辺境伯ならば、王都よりも先に目新しい物が手に入るだろう」

「まぁ、そうですね・・・なら、他に理由があるんでしょうね」

 ふむ・・・と考え込むスフェールを、カイユーは面白そうに見る。
 何故なら今までスフェールはエメロードを『あの女』と言っている。
 これはカイユーの前だけではなく、他の人間の前でもだ。
 それが先程の女官長とのやり取りでは『クリスタリザシオン嬢』と、呼んでいた。
 相手の名前を呼ぶ・・・と言うことは即ち、その人に興味があり、少なくとも悪くは思っていないと言うことだ。
 現在のスフェールの中のエメロードの位置が、何処にあるかは分からないが、これは面白いものになりそうだなぁ~と思っていたのである。

「とにかく、欲しい物があって出掛けているのか、それとも女官長が言っているように誰かに会って話をしているのかが知りたい」

「分かりました。調べてみます」

 だがその言葉にスフェールは待ったをかけた。

「確か女官長は『今日も出掛ける様だ』と言っていたな。ならば、今日は尾行して弱みを握るぞ!」

 相手に興味を持つことは望ましいが、それが弱みを握る為・・・と言うのは如何なものか・・・と思いながらも、まぁいいか。と思ってしまうカイユーだった。


 *  *  *  *


 そして現在。

 スフェールは『ちょっと良いとこの商家の青年風』にカイユーは『その青年の護衛』と言うコンセプトで立っていた。
 正確にはスフェールが『貴族の青年が初めて城下を歩いてる』と言った感じで、周りをキョロキョロし、カイユーは『それを見守るお兄ちゃん』的に見える。
 明らかに、本人達が思っているよりも目立っている。

 だが、カイユーはちゃんと分かっている。
 周りが見えていないのは、スフェールだけだ。
 まぁそもそもの話しだが、スフェールは城下等に出ることは全くない。
 どこかに視察等にいく場合は、流石に城下を通るが馬車になる。
 そんなスフェールにとって城下を『歩く』と言ったことは、新鮮なことだ。
 こう言った新しい経験をさせてくれているエメロードには、感謝しかない・・・と思ってしまうカイユーだった。

「それでカイユー、あの女の行きそうな場所に心当たりがあるのか?」

 ・・・それを探りに来たのでは?と思ってしまうのは仕方がない。
 が、この広い城下を探すのだから、何かしらの情報は必要だ。

「女官長の話だと『本や茶葉等を買ってきます』って行っていたので、そちらのお店を当たりましょう。でん・・・」

「ん?なんだ?」

「いえ、お願いがあるのですが、お名前で呼んでも?」

「あぁ、そう言うことか・・・問題ない。むしろここで断る方が問題があるだろう。人前でそう呼ばれたら頭の可笑しいヤツだと思われる」

 その言葉に、カイユーは慌てて口に手をやった。
 その肩は震えている。

「・・・・笑いたければ笑え」

 ごほんっ

 その言葉にカイユーは、なんとか笑うのを堪えた。

(こいつ俺が主人だとわかってるのか?)

 それに疑問を持つしかないスフェール・・・。
 ちゃんとすれば良い主人と護衛なのだが残念だ。本当に。

「と、とりあえずエメロード嬢の行きそうな場所を当たりましょう」

 と二人は気を取り直すことにした。


 *  *  *  *


 スフェールとカイユーが城下町の一角で、あーでもないこーでもないと言い合いしている間にエメロードとイリア一行は、ランチをするために街で人気のカフェに来ていた。

「よくこんなに人気のカフェの予約が取れたわね」

「お嬢様が行きたいと思って、先以て予約していたんです。ここはスイーツが有名だそうなんですが、食事も美味しいそうですよ。因みにおすすめは、パスタだそうですよ。お好きでしょ?」

「イリア最高!勿論、席は?」

「テラスです」

 パチパチパチ

 思わず拍手をするエメロード。

「さぁ!席に行きましょ」

 ルンルンで席に向かうエメロードと、それを微笑ましく見るイリア。
 周りから見れば仲の良い姉妹にも見えるだろう。

 二人は席に着くなり早速メニューを見て注文を決めていく。
 即断即決の二人は、直ぐに注文した。

「私はサーモンとキノコの彩りクリームパスタとアップルパイのケーキセットで」

「私はペペロンチーノとおすすめのケーキセットでお願いします」

 と、長閑なお昼ご飯を堪能する二人だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

【R18】ヤンデレ公爵にロックオンされたお姫様

京佳
恋愛
魔導師で美貌のヤンデレ公爵クロードは前々から狙っていたユリアを手に入れる為にある女と手を組む。哀れな駒達はクロードの掌の上で踊らされる。彼の手の中に堕ちたユリアは美しく優しい彼に甘やかされネットリと愛される… ヤンデレ美形ワルメン×弱気美少女 寝取り寝取られ ある意味ユリアとサイラスはバッドエンド腹黒2人はメシウマ R18エロ表現あり ゆるゆる設定

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

処理中です...