上 下
10 / 149
 始まり~出発

彼女の想い 3

しおりを挟む

 その後の朝礼では、ゼノスから『午前中に裏口には近づかないように』使用人一同に言い渡されました。

 朝礼後にお嬢様に朝食をお持ちしたのですが私の顔を見たお嬢様は心配されました。
 なんでもないと言い張り、ゼノスに連れられて行くお嬢様を見送りました。

 ゼノスと共に部屋を出るお嬢様が私を振り返った時は胸が締め付けられる思いでした!
   不安いっぱいな顔・・・。

 敏いお嬢様ですから何か感じ取ったのでしょう。
 そんな顔を見たら居ても立ってもいられなくなり、気が付けば裏口に続く廊下に居ました。

 「見送りは許可されていませんよ」
 厳しい声と共に鋭い目でゼノスに咎められました。
 「ゼノス・・・少しで良いのお願い。最後に話させて・・・」
 懇願する私にため息をついたゼノスは
 「・・・分かりました。少しだけですよ」
 と少しだけの時間をくれました。
 それにお礼を言えば、横に捌けお嬢様に会わせてくれました。

 動きやすそうなワンピースに歩きやすい編み上げブーツ、背中には重そうなリュック・・・。
 全てが二度と此処にお嬢様が戻ってこないことを物語っています。

 私はいつもする様にお嬢様と目線を合わせ
 「短い間でしたが、一緒に過ごすことが出来てリアは本当に嬉しかったです。今まで外に出てみたいなとお話されていましたが、こんな形で外に出れた事残念です。出来る事なら私も一緒に行きたかった・・・。それが出来なくて本当に申し訳ありません。外に出たら楽しい事も辛い事もあるでしょう。それでも私はお嬢様がちゃんと立って生きていけると分かっています。どうかお体に気を付けて下さい」
 伝えると同時にお嬢様を抱きしめました。

 一緒に居る内にまるで自分の本当の子供と過ごせた事が嬉しかったこと、外に出れた事を嬉しく思うのに一緒に行けないのが辛くい事・・・。
 何も知らないお嬢様がこの先、生きていくには絶対に苦労する事も・・・。
 全てを初めて言葉にしてお嬢様に伝えました。

 「リア、お見送りダメなのにありがとう。私もリアと一緒に居れて本当に良かった。リアも体に気を付けてね」
 そう言いながら抱きしめた手に力を入れたお嬢様に泣きそうになりました。
 こんな幼い子を一人で放り出す事に。
 全てを理解しているのに私を気遣う言葉をくれた事に。

 それでも私は泣けません。
 私が泣いてしまえば、お嬢様を困らせるだけだから・・・。

 抱きしめていた手を放すと、お嬢様も薄っすらと涙を浮かべていました。
 泣かない様に笑顔を向けると、お嬢様も返してくれました。

 そして、私はお嬢様に一つの小さな袋をお渡ししました。
 中には小さな指輪と、少しばかりの宝石を。
 指輪には、今後の安全と健やかに育って欲しいと願い子供に送る守りの指を、宝石はお金に困る事がこの先あろうと思い換金の為の物を。
 
 「そろそろ行きましょう。これ以上、遅くなるわけにはいきません」
 ゼノスの言葉に、私達は離れた。
 
  最後に
 
   「リア、さようなら」
 「はい。お嬢様、さようなら」
 その言葉を最後に、お嬢様を見送りました。
 
   もう会う事がない。
 会う事が出来ない意味でもありました。
 私が出来る事はお嬢様の無事を、この先へ幸福が訪れる様に祈ることです。
 元気にお過ごしください。
 少しの間だけでしたが、私の名もなきお嬢様。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

適正異世界

sazakiri
ファンタジー
ある日教室に突然現れた謎の男 「今から君たちには異世界に行ってもらう」 そんなこと急に言われても… しかし良いこともあるらしい! その世界で「あること」をすると…… 「とりあいず帰る方法を探すか」 まぁそんな上手くいくとは思いませんけど

皇后はじめました(笑)

ルナ
ファンタジー
OLとして働く姫川瑠璃(25)は誰かに押されて駅の階段から落ちてしまう。目覚めると異世界の皇后になっていた! 自分を見失わず、後宮生活に挑む瑠璃。 派閥との争いに巻き込まれながらも、皇后として奮闘していく。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

強制的魔王

ほのぼのる500
ファンタジー
目が覚めた場所で拒否権なしで魔王にされた元人間。 バグがあったのか、1人のはずが2人の魔王が誕生する。 殺されたくないので強くなります。 「「あいつ等の思い通りになんて、なってたまるか!」」 ただこのゲーム、本当にイラつく! 「小説家になろう」と同時アップしています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

処理中です...