4 / 5
4
しおりを挟む「ねぇ、アルト・・・アルトが何でそんなこと知ってるの?王国の英雄譚では『勇者』は『魔王』に『転職』してないよ?それに魔族領の英雄譚には『魔王』が倒された後、新たな魔王がその座について、今の体制を築いた・・・って」
「えぇ、そうですね」
「なら、なんでアルトはそれを知ってるの?私も知らないのに・・・・」
「怖がらなくても大丈夫です。ちょっと長い話になりますが、僕の話を聞いてくれますか?」
そう不安そうに僕を見てくる師匠に、僕は話し出した。
「僕は、生まれ変わりなんです。前世の記憶を持った。だから勇者の話も知っています。丁度、僕が生きていた時代でした。あの時は本当に酷かった。国は魔族との戦いの為に、国民から税を取り立てていて、国も民も長い戦いで疲弊しきっていた。そこに、師匠も知っている、女神の啓示を受けた勇者が誕生したんです。彼は貴女に教えを乞うために、知恵を貸して貰うために何度も貴女の元を尋ねました」
「うん。何回も来た。そしていろんなことを直ぐに吸収したよ」
「そうですね、国民の、国の期待を一身に背負っていた彼は、どんなことにも貪欲に吸収しました。そして貴女に最後に会いに来たのは、『魔族領へ入る為の海を渡る方法』を教えてもらった時ですね」
「・・・・うん、そうだ!その時が最後だ。だから私は彼がその後どうなったのか知らないんだ・・・。今まで思い出さないなんて、なんて薄情なんだろう私・・・・」
「貴女が傷つくことはありませんよ。彼は会いに行けなかったのですから、探さないでいてくれて安心していました。だってあんなにも、魔族を、魔王を倒すために教えを請いに行っていたのに、最後には倒される側の領域に行ってしまったんですから」
「でもそれは仕方がない事でしょ?悪いのは国王なのだから・・・・」
「そうですね、当時彼は国王を、国を、人を憎んでいました。でもね、いつも思いとどまるんですよ。人の領域には自分が大切にしたものがあるから。だからどんなに憎んでも、傷付ける事はしたくなかった。その内、彼は長い時間をかけて自分の心と折り合いを付けて、人と手を取り合える方法を模索し始めたんです。もう一度、人の領域にある大切なものに会うために。そして彼は再び、長い時間をかけて今度は魔族領の発展と平和に力を注ぎ、人と共存出来る様に最初の礎を作ったんです。そして、次の世代に託した」
「亡くなった・・・?」
「えぇ・・・彼は人間です。自分の心と折り合いを付け、魔族と人との共存出来る礎を作った時には、もう旅をする力が残ってはいませんでした。彼の心残りは再び、彼の地にある大切なものに会いに行けなかった事です。そして、天寿をまっとうした彼に、女神が会いに来たんです。『人の為に尽くし、人に裏切られ、それでも魔族と人との調和をのぞみ、尽力した貴方の最後の願いを叶えましょう』と、そして彼は願った。最後の心残りに会いに行くことに、共に歩くことを」
「それは、誰か・・・だったの?」
「えぇ、そうですよ。大切な人が壮絶な旅の中で出来たんです。彼は世界とか、人間とかどうでも良かったんですよ。勿論、最初はそんなこと思ってもいませんでしたが、彼女に出会って、一緒に過ごす内に『彼女の為』が彼を動かす原動力になったんです。だからこそ、人に追われた彼は彼女に会いに行けなくなった。彼女に会って今の自分を見て、どう思われるのかを知るのが怖くなったんです」
「そんなの・・・会ってみないと分からないのに・・・」
「彼にはその答えに辿り着く事が出来なかったんですよ。彼も一人の男だから、好いた人に恥ずかしい所を見られたくなかったんです。・・・さて、メリッサ。僕は最初に生まれ変わりと言いました。気付いてくれましたか?」
「うん・・・アルトが・・・・アルトが彼の生まれ変わりだったんだね・・・」
「そうですよ。そして、僕が愛した大切な人は・・・・・メリッサ、貴女です。僕は貴女を愛して、貴女に再び会いたくて、貴女の元に再び行きました。だから僕は、貴女と一緒に居られる事が出来て凄く幸せです。これからも、一緒に居させて下さい。メリッサ、貴女を愛しています」
最後のはとても勇気が必要だったけれど、本当の気持ちだ。
やっと、伝えられたことが嬉しい。
でも・・・・彼女に断られたらと考えると、この後僕はどうしたらいいか分からない・・・。
そんな僕に彼女は突進してきた。
「うッ・・・・メリッサ・・・・痛いです」
「うわぁーーーーん!!!アルトのばかぁ~!!!なんでもっと早く言ってくれないの!!!!」
いきなり泣き出すメリッサに僕は慌てた。
「そんな・・・無茶なこと言わないで下さいよ。いきなり、『生まれ変わりだ』とか『ずっと愛してた』とか軽いノリで言えませんよ・・・・」
「そりゃ・・ぐすッ・・そうだけど・・・ぐすッ・・」
「僕も黙っていてすみませんでした。だから、ほら泣き止んで?」
「うん・・・あのね、私もね話さないといけない事があるの・・・・」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
【完結】巻き戻してとお願いしたつもりだったのに、転生?そんなの頼んでないのですが
金峯蓮華
恋愛
神様! こき使うばかりで私にご褒美はないの! 私、色々がんばったのに、こんな仕打ちはないんじゃない?
生き返らせなさいよ! 奇跡とやらを起こしなさいよ! 神様! 聞いているの?
成り行きで仕方なく女王になり、殺されてしまったエデルガルトは神に時戻し望んだが、何故か弟の娘に生まれ変わってしまった。
しかもエデルガルトとしての記憶を持ったまま。自分の死後、国王になった頼りない弟を見てイライラがつのるエデルガルト。今度は女王ではなく、普通の幸せを手に入れることができるのか?
独自の世界観のご都合主義の緩いお話です。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる