あの頃の僕らは、

のあ

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第四話 悲しい横顔

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「泣きたくなったら俺のところに来いよ」

 健人けんとのその言葉は、張り詰めていた裕斗ゆうとの心を多少なりとも解きほぐしたのかもしれない。喫煙所を出た後も、人目を気にせず泣き続ける子供のような健人の姿に、自然と頬が緩む。

「笑いたくなったらお前のところに行くよ。だからお前ももう泣くな」

 そう言いながら勢いよく頭を撫でてくる裕斗の顔は、健人がよく知る子供っぽい笑顔だった。

 それ以来、裕斗は健人の家に頻繁に来るようになった。大学の近くで一人暮らしをしている健人の家は、溜まり場としては打って付けだ。

 一緒に課題をする日もあれば、ゲームをしたり、ただゴロゴロしたり。二人で過ごすそんな時間が、裕斗にとっても心地よかったのだろう。

「最近二人とも仲良すぎない?私の存在忘れてるよね」

 唯一、二人の幼馴染の真理まりだけはご機嫌斜めだった。

「真理も来ればいいじゃん」

「男子の部屋に?年頃の娘が?そう言うところ、本当に男子はデリカシーがないよね」

「デリカシーが無いのは健人だけな。世の男子に失礼だぞ」

「お前は俺に失礼だぞ」

 この頃には以前と変わらない裕斗に戻ったように見えた。変わったことと言えば、タバコを吸うようになったことと、健人の家によく泊まるようになったことくらいだろう。休みの前日は健人の家で酒を飲み交わし、そのまま泊まるのが恒例になった。

 二十歳を過ぎ、酒が飲めるようになったことがこの変化の理由なのかもしれない。一緒に酒を飲み、くだらないことを話しながら笑い合う時間は、健人にとってもかけがえのない時間になっていた。

 そんな日々がしばらく続き、健人は「裕斗はもう大丈夫」そう思い始めていた。

「ちょっとタバコ吸ってくる」

「おう。その間に布団を用意しとくな」

「サンキュー」

 いつものように家で酒を飲み、そろそろお開きだろうと布団の準備に向かう健人の目に、ベランダにいる裕斗の姿が映った。

 空を見上げてタバコを吸う裕斗の「悲しい横顔」が、健人の胸を締め付け心をざわつかせる。
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