あの頃の僕らは、

のあ

文字の大きさ
1 / 13

第一話 出さない手紙

しおりを挟む
 薄暗い部屋で机に向かい、デスクライトにあかりを灯した健人けんとは、便箋の横に置かれたペンに手を伸ばした。

「テレビやドラマにたまに出てくる『出さない手紙』ってやつ、あれって何のために書くんだろうな」

 大学一年の頃に、親友の裕斗ゆうとが唐突に言った言葉を不意に思い出した。

「確かに何でだろうな。出さないのにわざわざ紙に書くなんて、考えただけでも何だか恥ずかしいよな」

「二人とも本当にお子様だよね。文字にすることで自分の気持ちを整理できるんだよ」

「これだから男子は」と呆れ顔の真理まりは、健人と裕斗の幼馴染だ。大学で再会してからは何かにつけて二人を男子代表に仕立て上げ、女子代表として責め立ててくる。

 そんな真理に「別に男子を代表してない」と反論し、どうでもいいことで、ああでもない、こうでもないと盛り上がるのがこの頃の日課になっていた。

「そんなの現実にやるやついないって。ドラマの観すぎだよ」と笑い飛ばした自分の言葉が、十二年経った今、特大のブーメランとなって心にダメージを負わせていた。

 健人はこの三日間、大学時代のことを思い出しては頭の中がグチャグチャになる感覚に襲われている。過去の自分の気持ちが現在の自分を責め立てて、考えがまとまらない。そして、そんな自分にほとほと嫌気がさしている。

 長い時間をかけて少しずつ忘れていった罪悪感と後悔は、不意に訪れた旧友との再会をきっかけに容易く息を吹き返し、思考を蝕む。こんな気持ちを振り払おうと、「ドラマの観すぎ」だと馬鹿にした行為を今まさに実行しようとしているのだ。

「はぁー」と少し大袈裟にため息を吐き、意を決したように便箋にペン先を下ろして、出さない手紙を書き始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい恋に酔いながら

すずかけあおい
BL
一途な攻め×浅はかでいたい受けです。 「誰でもいいから抱かれてみたい」 達哉の言葉に、藤亜は怒って――。 〔攻め〕藤亜(とうあ)20歳 〔受け〕達哉(たつや)20歳 藤の花言葉:「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」「忠実な」

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

透きとおる泉

小貝川リン子
BL
 生まれる前に父を亡くした泉。母の再婚により、透という弟ができる。同い年ながらも、透の兄として振る舞う泉。二人は仲の良い兄弟だった。  ある年の夏、家族でキャンプに出かける。そこで起きたとある事故により、泉と透は心身に深い傷を負う。互いに相手に対して責任を感じる二人。そのことが原因の一端となり、大喧嘩をしてしまう。それ以降、まともに口も利いていない。  高校生になった今でも、兄弟仲は冷え切ったままだ。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

蒼と向日葵

立樹
BL
梅雨に入ったある日。新井田千昌は雨が降る中、仕事から帰ってくると、玄関に酔っぱらって寝てしまった人がいる。その人は、高校の卒業式が終わった後、好きだという内容の文章をメッセージを送って告白した人物だった。けれど、その返信は六年経った今も返ってきていない。その人物が泥酔して玄関前にいた。その理由は……。

処理中です...