藍は墓泣く

のんカフェイン

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二人の上司

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私が子供の頃に遊びに来ていた雰囲気と丸で違っていた。

もちろん、皆んな頑張ってはいるのだと思う。
そう思うけど、覇気が全く感じられないのだ。

実家に転がってある北口デニムの写真には社員一人一人が輝いて写っていた。
ピンボケやふざけた様な写真もあるけれど、確かに皆んな今を生きている様に見えた。

昔は良かったなんて言葉は使いたくないけれど、子供の頃に憧れたキタグチはもうここにはないんだ。
まだ分からない、まだ分からないけど、もう後悔している。
まだ東京にいたかった。恋人とも別れてきた。

やりたい仕事だってまだまだ沢山あった。全てが中途半端。

私は溢れ出る涙を堪えながら、独りアパートに着いた。


太陽は一日の良し悪しに耳を傾けず、今日も昇る。

「おはようございます。きたっ‥春奈さん」

「黒川君、おはよう。よく寝れた?」

「緊張して寝れなかったんですけど、いつの間にか寝てしまってました」

「どっちよそれ。今日も頑張ろうね」

「はい、よろしくお願いします」今日も朝礼と掃除から。
掃除終わりに営業の林主任から声がかかった。

「掃除終わったら、二人共第一会議室ね」

「分かりました」声が揃う。

第一会議室に着いてから数分後に林主任が来た。
「はい、じゃあこれから営業部の説明を始めます。営業の林です。よろしく」

「よろしくお願いします」

「会社概要は昨日の話にあったと思うから、営業部のとこだけを少し中心に話すね」

僕は話を聞き逃さまいと小さなノートを開いた。

「いいよ、ノートなんて取らなくて。マニュアルもあるし、特に覚えることなんてないよ。頭で覚えれると思うからさ。営業は効率よく行かなきゃ。黒川君」

「すみません」

「いいよ、入ったばっかりだし」自分のヘアセットに何分かかったのか分からないが、見た目に似合わないお洒落な髪型と効率主義に違和感を覚える。

「もっと北口さんを見習わなくちゃ。同期入社でしょ?同じ二十代なんだからさぁ、落ち着きっぷりが違うよ」

「ありがとうございます」

「春奈ちゃんだっけ?下の名前」

「はい」

「春奈ちゃんでもいいよね。社長というかお父さんももいるし」

「春奈か春奈さんでお願いしてもいいですか。ちゃん呼びはちょっと」

「そうかそうか、ごめんね。春奈さん。というところで場も和んだところだし始めますか」重苦しい第一会議室の話が始まった。

昔は日本各地に営業部署があったこと。年々営業部署がなくなってしまい、今は本社と東京支所の二つになってしまったこと。

自分が六年勤続で、有給が貯まっていること。貯金は貯まっていないこと。

途中には必要があるのか無いのかわからない話をしながらも、彼の演説会は二時間も続いた。

不意にノックの音がする。

「林君、まだ終わらんかね」立見常務の声がした。

「困るよ、時間は九十分って決まって」

「あー、ちょっと一回外で」林さんは、立見常務を押すようにして第一会議室を出た。

「分りました。すぐ終わりますから少し待っていて下さい。すぐに終わります」

何やら一悶着あったようだが、演説会は急に終わり、林主任はそそくさと部屋を出てしまった。

入れ替わるようにして立見常務が第一会議室に入室した。

「ごめんね、長かったよね。五分ぐらい飲み物やお手洗いの休憩で、午前中残り一時間製造部の話をするからね。残り三十分は間が悪いけど、お昼休み終わってからにするね」


「分かりました」僕はあまりしゃべっていないが、不思議とカラカラの喉を潤し、再び第一会議室の席に座った。

立見常務の資料はシンプルで分かりやすく、製造フロー等がイメージしやすかった。

午後からは午前中に聞いたフローの順番で社内見学させてもらった。

裁断や縫製、加工等改めて、デニムがこんなにも手間暇をかけて作っているのだと思うと、胸が熱くなってくる。

この大切さを丁寧に伝えることが営業ってものなのかと思う。僕はまた一つ、嬉しくなった。

製造部の説明の後は、商品開発部の説明が同じく九十分入っていた。

「この後は商品開発部の説明なので、担当の関東さんを呼んできますね」立見常務が部屋を出て五分後程に、関東さんが入室してきた。


「改めまして、関東といいます。よろしくお願いします」長い黒髪に凛とした顔立ちはいかにも仕事が出来そうな雰囲気である。
昨年の入社なのに、もう係長の役職に付いていることがそれを示していた。
説明も立見常務と同じくらい分かりやすく、テンポ良く続いた。

「来週以降は春奈さんは私のプロジェクトサポートをしていただくので、よろしくお願いしますね」

「はい、よろしくお願い致します。関東さんは今、どのようなプロジェクトをされているんですか?」

「そうね、少し時間が余ってるからついでに説明しちゃうわね。黒川君は退屈かもしれないけど、一緒に聞いててね」

「いえ!是非、聞かせてください」

「いいわね、若くて元気で」

「とんでもないです。すみません、あの、来週から、春奈さんは関東さんのサポートで、僕は来週から何をすればいいでしょうか」

「あら、黒川君も商品開発部に来ちゃう?」

「え?」

「冗談よ、黒川君は営業部でしょ?来週からは同じ営業部の林君のサポートって聞いてるけど、彼そう言ってなかった?」

「特には言ってなかったです」

「林さんの説明は最後急に終わっちゃったんですよ。私も聞いてないので」

「そうなのね、なら、今日帰る前に林君に来週からお願いしますって言っておけば大丈夫だと思うわよ。私から声かけとこうか?」

「いえ、自分から声を掛けてみます。ありがとうございます」ならいいわねといった表情で新しいスライドを私たちに見せてくれた。
タイトルには大きな文字で七十周年特別企画製品と書いてある。

「これは?」

「これね、私が北口社長から直々にお願いされたのよ。ほら、来年に七十周年でしょ?それに相応しい商品を作ってくれってお願いされちゃってさ。最近は色んなスピードが早くて、商品開発もスピードが命だって仰ってるわ。春奈さんにはOJTなんかをしつつ、私の商品開発のサポートに回ってもらえたらなって」

「凄いですね。分かりました、また来週から色々と教えてください」

「そうね、春奈さんは社会人経験もあるし、すぐ慣れてくれると思うわ。期待してるわね」

「恐れ入ります。宜しくお願いします」
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