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第一章 星降りの里
第二話「流れ星を探しに」
しおりを挟む先程のテーブルに向き合って座り、エマはうーんと唸った。
「手伝うといっても、手がかりがないと探すことは難しいですよ」
「ないものはないのだ。仕方ないだろう」
「開き直られましても」
しばらく困った顔をするエマだったが、ふと何かを思いついたように目を瞬かせる。クラウスは「ん?」と言葉を促すように目線を送った。
「たそがれの丘に行けば、何かわかるかも知れません」
「たそがれの丘?」
「ええ、早く行きましょう! 今ならまだ間に合います」
「時間制限でもあるのか」
「いいえ。でも、せっかくなので」
怪訝そうな顔をするクラウスに、エマはふふっと笑った。
たそがれの丘に到着する。小高い丘に、家が一軒ぽつんと建っていた。機嫌のよさそうなエマと違い、クラウスは不審そうな目をしている。扉をノックして、エマが声をかけた。
「こんにちは、エマです」
「……入れ」
「おじゃまします」
家の中に入っていくエマにクラウスは続く。特に何もない、小さな家だ。部屋の真ん中に老人がひとり座っている。
「元気じゃったか、エマ」
「ええ、おかげさまで。おじいさまもお元気ですか?」
「この通りじゃ。腰が辛くてなかなか立ち上がる気になれん」
「まあ」
老人は笑い、クラウスに目を移した。
「誰じゃ?」
「こちらの方は月の王子様です」
「クラウスだ」
「えっと、こちらのおじいさまは、前の村長さんのコリントさん」
「ふーん」
興味無さそうに返事をするクラウスから視線をコリントへ戻し、エマが真剣な顔をする。
「おじいさま、実はわたしたち探し物をしているんです」
一通り話し終えると、エマは期待した眼差しをコリントに向ける。クラウスはきょろきょろと家の中を観察している。コリントは「うむ」と相槌を打ち、しばらく考えるように腕を組む。
「そうじゃな。流れ星といえば、星降りの里が考えられる」
「星降りの里、ですか?」
「その名の通り、流れ星のよく降る里じゃ。そこの本棚に地図があるじゃろう。行ってみるといい」
エマは横の本棚を見て、立ち上がる。お借りしますね、と言って本棚から地図の本を取りだす。中を開いて見てみると、付近の町村が載っていた。その中には、確かに星降りの里もある。
「ありがとうございます、おじいさま。あの、お菓子と紅茶を持ってきたのでよろしければ召し上がってください」
「おお、ありがたい」
「また今度一緒にお茶しましょうね」
「いつでも歓迎するぞ」
改めて礼を言い、ふたりは家を出る。視線を動かすと、茜色に染まる空が見えた。ふたりは同時に空の方へ身体を向ける。その美しい景色に、エマとクラウスは目を細めた。
「いい景色だな」
「ふふ、間に合ってよかったです」
「間に合えばって言っていたのは、このためか?」
「はい! ぜひお見せしたいなって思ったんです」
「そうか」
クラウスは再び空を見る。しばらくふたりで眺めていたが、クラウスはエマの方を向いて声を掛けた。
「その星降りの里ってところへ行けばいいんだな」
「そうですね。今はこれしか手がかりがありませんし」
そう言ってエマは手に持っていた地図の本を広げ、村からの距離を確認する。
「流れ星でしたら、夜行った方がいいですよね。明日、朝から出発すれば夜には着くはずなので」
クラウスはエマの言葉を遮った。
「何を言っている。今から行くに決まってるだろう」
「え?」
そのままエマの腕を掴み、クラウスは空高く飛び上がった。
「えぇっ」
驚くエマの声に、クラウスは楽しそうに笑う。エマは慌ててクラウスにしがみついた。
「王子様って何でもできるんですね……」
「当たり前だ。俺様だからな」
「ふふ」
茜色の空に向かって進んでいく。エマは目を輝かせながら、クラウスに支えられている。そんなエマを見て、クラウスはまた笑った。
星降りの里につくと、空はすっかり暗くなっていた。静かな空間が広がっている。エマとクラウスはきょろきょろと周りを見回す。星降りの里と呼ばれる地は、森の中だった。木々に囲まれた道を進んでいく。ゆるやかな坂道になっていて、上へと向かっている。
「おい」
しばらく進んでいると、クラウスがエマの足を止めた。エマが不思議そうな顔を向けると、クラウスは顎で上を指す。空を見上げると、木々の隙間からちょうど流れ星が一筋落ちていくのが見えた。エマは興奮したようにクラウスの顔を見る。
「落ちた先に向かおう。そこにきっと、夢の欠片があるはずだ」
「はいっ」
ふたりはさらに星降りの里をのぼっていく。空を見上げると、流れ星の数が増えていた。きっともうすぐだ。
「ちっ面倒だな」
不意にそう呟いたかと思うと、クラウスはしゃがみ、エマの膝下と背中に手を当て抱き上げた。
「へぁっ」
驚きで不思議な声を出すエマに見向きもせず、クラウスは上に飛ぶ。木の上まで飛ぶと、より鮮明に流れる星の姿が見えた。
「わぁ……!」
楽しそうな声を出すエマ。クラウスはゆっくりと木々の上を進む。たくさんの星がふたりを見下ろしていた。時折降ってくる星から、エマは目が離せない。
「……あった」
その声にクラウスの顔を見る。ふわりと地上に降りると、森の中にも関わらず、一ヵ所だけ木の生えていない丸い空間があった。そしてその中心に、光り輝く何かを見つける。
ふたりはゆっくりとそれに近付いていく。クラウスはしゃがみ、それを拾った。エマは隣から覗き込む。クラウスの手に握られたのは、青い小さな鉱石のようなものだった。しかし普通の鉱石と違い、強い光を放っている。眩しそうに目を細めながらも、エマは石をじっと見る。
「夢の欠片、ですか」
「ああ。間違いない」
「意外と小さいんですね」
「欠片だからな」
そう言ってふたりで光り輝く夢の欠片を見つめる。そしてお互い顔を見合わせ、頬を緩ませる。その光は、ふたりの小さな冒険の終わりを告げていた。
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