悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

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第64話 とんでもない話を聞かされた

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「・・・・・・ふう~」
 ザガードは深く息を吐き、持っている訓練用の剣を見た。
 刃引きはされているが、刀身の部分が少し欠けていた。
「此処の所、身体を動かしていなかったからか訛ったようだ。この程度の鍛練で刀身が欠けるとは」
 ザガードは一人ごちる。
「この程度、ね・・・・・・」
 その言葉を聞いた公爵家護衛団の団長であるベルハルトは訓練場にうず高く積まれている物を見た。
 全部、人だ。
 公爵家で雇われて護衛団の団員であった。

 護衛団の訓練をしている所に、ザガードが入って来たので急遽、護衛団団員全員相手の鍛練をする事になった。
 ちなみに扇動したのはベルハルトであったが、彼は参加しなかった。
 子供の頃のザガードと鍛練していたので十分に強さが分かっているからだ。
 ベルハルトの予想通り、参加した団員達は全員倒れた。
「やれやれ、これでも選りすぐりの精鋭なんだけどな。お前に掛かったら赤子を捻る様なものだな」
「そうでもないと思うが?」
 ザガードは普段よりも砕けた口調でベルハルトと話す。
 小さい頃から兄貴分と慕っていた事とベルハルトが公式の場でなければフレンドリーで良いと言われているのでこのような口調で話す様になった。

「ふむ。暫く見てない間に、随分と力を付けたようだな。ザガード」
 訓練場の入り口から声が聞こえて来た。
 訓練に参加してない者達とベルハルトとザガードはその声が聞こえた方に顔を向けて、その声の人物を見るなり一斉に跪いた。
「ああ、そんなに畏まらなくて良い。自由にしろ」
「はっ」
 その声の人物にそう言われて、ベルハルトは直ぐに立ち上がり楽な体勢をとった。
 そんなベルハルトの態度を見ても周りの者達は跪いたままであった。
(((どうして、あんな気軽な態度を取れるのだろう?)))
 跪いている者達は心の中で思った。
 何せ、その人物はこのローレンベルト家の次期当主であるミハイル=フォン=ローレンベルトその人なのだから。
 淡い金髪の短髪。鋭い刃の様な目元。緑色の瞳。
 気品があり整った顔立ち。スラリとした長身。
 その貴公子然とした姿は女性であれば振り返る程だ。

「話したい事がある。ベルトハルト。ザガード。着いて来い」
「はいはい」
「はっ」
 ベルトハルトは気軽に、ザガードは畏まりながら返事をしてミハイルの後を追い掛けた。


 ミハイルが何処に行くのか知らないが、ザガード達はその後に付いて行く。
「御曹司。普段は領地に居るのに、今日は何かあったのですかい?」
「部屋に着いたら話す。それまで待て」
「了解」
 ベルトハルトとのやり取りを聞きながら、ザガードも思った。
 普段は領地で代官をしているミハイルが此処に居る事に。誰もが何かあったのではと思う。
「ああ、そうだ。ザガード」
「はっ」
「妹が迷惑を掛けてないか」
「いえ、何も」
「そうか。妹はお前を自分の専属の近侍にさせた事に喜んで、何かしら迷惑をかけていると思ったぞ」
「大丈夫です。リエリナ様はわたしに無体な事はしません」
「・・・・・・そうか。ふん、まだ何もしてないか。存外、あいつも臆病者のようだ」
「は?」
「いや、何でもない」
 ミハイルが何か言ったようだが、ザガードの耳には届かなかった。
 その後は三人は一言も話さなかった。


 そうして歩いていると、ある部屋の前に着いた。
 ミハイルがドアを開けて入って行ったので、ザガード達も入って行った。
 部屋に入ると、其処にはセイラやウェイン達やオイゲンとコウリーンも居た。
 ミハイルがオイゲン達の傍まで行くと、ザガード達はウェイン達の傍に寄った。
「御屋形様。皆、集まりました」
「うむ」
 ウェインにそう言われたオイゲンはザガード達を見る。
 何時もは柔和な顔を浮かべるのに、今は真剣な顔をしていた。

「・・・・・・今日、皆を呼んだのは他でもない。五日前ほどに国王陛下であられるィグリス様が御倒れになった」
 オイゲンの言葉を聞いて、皆言葉を失った。
「幸い発見が速かったので今は問題ないが、意識は無いそうだ」
 それを聞いて、皆の頭の中にはある言葉が浮かんだ。
 後継者問題という言葉が。
「ィグリス陛下は御隠れになってはいないが、この事は誰にも話さない様に」
「「「「はっ」」」」
 皆一礼した。
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