悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

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第59話 百勝は伊達ではない

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「「「うああああああああああっ」」」
 声を張り上げながら駆け出すリウンシュハイム家の者達。
 皆一斉に動いた事で、連携も仕掛ける順番も何もなかった。
 ただ、一緒に駆け出したとしか言えなかった。
 相手が剣の間合いに入ると構えて攻撃してくるが、ザガードは半身反らしてその攻撃を躱す。
 ひらりひらりと蝶のように舞いながら躱していく。
(狙いも何もあったものじゃないな。攻撃すれば当たると思っているのか?)
 ザガードはそう思いながら迫りくる相手の攻撃をタイミングよく躱していく。

 相手全員の攻撃を躱すと、ザガードはチラリとリエリナを見る。
(どれくらいの怪我で済ませますか?)
(二度とこんな事をしないように、当分病院生活する程度の怪我を負わせなさい)
(御意)
 アイコンタクトを交わす二人。
 主人の最終確認を聞いたので、ザガードは遠慮なくいく事にした。
「何処を見ているっ」
 ザガードがリエリナを見た事で侮辱と取ったのかそれとも隙が出来たと勘違いしたのか、相手の一人が駆け出してた。剣を振り上げ、ザガードの身体を狙う。
 振り下ろされた剣撃は容易に躱された。更に躱しながらザガードは相手の腹に一撃をくらわせた。
「・・・・・・っ」
 刃引きされているとは言え鉄製の剣が腹に当たる。そして、耳障りな音を立てた。
 攻撃を受けた者は声にならない悲鳴をあげ、そのまま気を失った。
「ひいいいいっ」
 味方の一人が倒れた事で相手が恐怖しているのが分かった。
 ザガードはそれを見て好機と思い駈け出した。

 数分後。
「ぐううう・・・・・・」
「いたい、いたいいたい・・・・・・」
「ありえない・・・・・・」
 リウンシュハイム家の者達十人中九人が床に倒れいた。
 皆、痛みで立ち上がる事が出来ないか腕や足が曲がってはいけない方向に曲がっていたりと様々だが、皆、痛みと恐怖で顔を歪めていた。
 そんな阿鼻叫喚の中でザガードは息を漏らす事無く立っていた。
「ふぅ、残るは一人か」
 ザガードからしたらこんな素人集団にそんなに時間を掛けた事が内心ショックだった。
 昔、闘奴だった時は今の状況よりも遥かにきつくそれでいて時間制限があった試合など幾つも経験していた。
 それが今では、こんな碌に戦う事も出来ない口先だけ達者な集団を倒すのに数分も掛かった事に、身体が訛っているという事が分かりショックだったようだ。
(帰ったら、少し身体を鍛えるか。此処の所、あまり身体を動かしていなかったからな)
 そう決めたザガード。
 そんな事など考えていない真面目な顔で剣の切っ先を相手に向ける。

「残るは貴方一人だ。ギブアップしても構わないぞ」
 ザガードの言葉を聞いて相手はいきり立った。
「ふ、ふざけるな! 誰が貴様に何ぞっ」
 相手は剣を構えて遮二無二駈け出した。
 その構えと駆け出すのを見て、自棄になっているなと思うザガード。
「せああああああっ」
 狙いも適当な攻撃をザガードは受け止めて押し返した。
「うおっ」
 押された事でバランスを崩した相手の隙を見逃さず、ザガードは剣を弾き飛ばした。
 返す刀で相手の首筋に剣を突き付けるザガード。
「それまえ」
 審判のガリアンが制止の声をあげた。
「勝者。ザガード」
 審判の宣言を聞いてザガードは剣を収めた。
「やった。勝った、勝ちましたっ」
 カトリーヌは跳び上がりながらザガードが勝った事を喜んだ。
 リエリナも微笑み、そして立ち上がった。
「わたしの勝ちで良いわね?」
 リエリナが最後に負けた相手に訊ねた。
 相手は悔しそうな顔をして、顔を背けた。
「・・・・・・くっ。そうだ」
「じゃあ、約束通りにさせてもらうわ」
 リエリナはザガードに目配せする。それを見たザガードは一礼して剣を片付けに向かう。
「さぁ、カトリーヌ様。向かいましょうか」
「? どちらに行くのですか?」
「決まっています。リウンシュハイム家の次期当主の下にですよ」
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