悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

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第55話 また巻き込まれた

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 リウンシュハイム家の者達と見物客達も居なくなると、ライアン達はザガード達に近付いてきた。
「お蔭で助かった。礼を言う」
「わたしからもお礼を」
 ライアンとカトリーヌも頭を下げて礼を述べた。
「いえいえ、この程度お気にしないでください。あの者達の無礼が目に余ったのでしただけですから」
 リエリナは当然の事をしたまでと言いたげに手を横に振る。
「だが、助けてもらったのは事実だ。この礼はいずれさせてもらう」
「別に大した事はしていませんので」
 ライアンが礼をすると言うとリエリナは丁重に断ろうとしたが。
「リエリナ様。どうかお願いします。御礼をさせてください」
 目に涙を溜めて祈る様に手を組みながら頼むカトリーヌ。
 
 それを見て、リエリナは顔を引きつらせる。
 純粋にお礼をしたいと言いたげな顔をする二人。
 下心が全くないのでリエリナは押されていた。
 相手との腹の探り合いを得意するリエリナは純粋な好意だけでする行為を苦手としている。
 リエリナはどうしようと思っている所にザガードが耳元で囁く。
「お受けなれば良いのでは?」
「でも」
「でなければ、またしつこくお礼をしたいと言って来ると思いますよ」
「やっぱりそう思う?」
 リエリナがそう尋ねると間違いないと言いたげに首を縦に振るザガード。

 信頼する腹心がそう言うのを見てリエリナは溜め息を吐いた。
「・・・・・・分かりました。では、楽しみにしていますね」
 リエリナがそう言うとライアン達は嬉しそうな顔をした。
 そして、二人はリエリナに度々頭を下げてからその場から離れて行った。
 
 二人が完全に見えなくなるとリエリナは重い溜め息を吐いた。
「・・・・・・わたし。あんな風に好意を前面にだされてお礼をさせるの苦手なのよね」
「下心がないのでどう対処すればいいのか分からないと?」
 その通りとばかりに頷くリエリナ。
「向こうは好意でしているのですから、気にしないでうければ良いと思いますが」
「あのね。普通の貴族ってのは御礼するって事は親しくなって何かの役に立たたせようという事をする為にするのよ。それを善意でされたらどうしたらいいのか分からないじゃない」
 貴族の駆け引きで慣れているリエリナからしたら純粋に好意だけというのは対処に困るようだ。
 
「まぁ、そう言わず。素直に受けてそして喜べばいいだけですよ」
「・・・・・・そうね」
 リエリナが息を吐いて気持ちを切り替えて歩き出したので、ザガードもその後に続いた。
 
 数日後。

 何故かザガードは学院にある教練場に居た。
 訓練用の剣を持って。
「・・・・・どうしてこうなった」
 ザガードはポツリと零した。
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