悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

文字の大きさ
上 下
50 / 88

第50話 話を聞いていると

しおりを挟む
 シオーネはその後も女子学生達をやんわりと苛めを止める様に言ったが、女子学生達は何とも言えない顔で了承はした。
 だが、シオーネの下から離れる時にちらりと見えた不満げな顔を見る限りだと、納得してない上に止めるかどうかも分からないなと思うザガード。
 シオーネも女子学生達と話していて、何となく聞き入れてくれるかどうか分からないなと思ったのか、溜め息を吐いた。
 そして、振り返ると、ザガードが隠れている物陰に目を向ける。
「そこに居るのは分かっているから、出て来てくれるかしら?」
 口調から、物陰に隠れている事は分かっていると言っているシオーネ。
 ザガードもその話し方を聞いて、隠れても無駄だなと思い、物陰から姿を見せた。
「済まない。立ち聞きするつもりはなかったのだが」
「あら、誰か居ると思っていましたが、貴方だったのね」

 物陰から出て来たザガードを見て、シオーネは少し意外そうな顔をした。
「女同士の会話を盗み聞きする人とは思わなかったわ」
「こちらとしても、立ち聞きするつもりはなかったのだがな」
 二人共、立場は同じ令嬢の護衛という身分なので、敬語ではなくタメ口で話している。
「まぁ、聞かれても問題ない話だから、別に良いのだけどね」
「盗み聞きしたようなものだから、口外するつもりは無いが、聞いても良いか?」
「どうぞ」
「どうしいぇ、ローザアリア様が直接止めろと言わないんだ?」
 ザガードはそれが不思議だった。
 幾ら女子学生達がカトリーヌが気に入らなくても、ローザアリアが一言言えば、苛めなどぱったりと止む筈だ。
 それなのに、どうしてローザアリアが言わないで、代わりにシオーネが女子学生達を止める様に言うのか分からなかった。

「お嬢様が直接言えば、自尊心を傷つける事になりかねなませんから」
「成程」
 それを聞いてザガードは納得した。
 貴族令嬢とは些細な事でプライドを傷つけられたと感じる者が多い。
 公爵家の令嬢が言えば余計にそう思う物が多いだろう。 

「なので、わたしがやんわりと止める様にしたのよ」
 理解したと言わんばかりに頷いたザガード。 
 シオーネはローザアリアの側近。
 ローザアリアが直接言うのと、側近のシオーネがローザアリアの言付けを伝えるだけでも、影響力はかなり違う。
(貴族と言うのは面倒なものだな)
 ザガードはシオーネの話を聞いてつくづくそう思った。
 
 シオーネはザガードと話をしていたが、不意にザガードの後ろに目を向けるとほくそ笑んだ。
「? どうかしたのか?」
「いえ、じゃあ、わたしはこれで。あまり、一緒に居てはご主人様がヤキモチ焼きそうだし」
「ヤキモチ?」
 どういう意味だと聞こうとしたら、シオーネは後ろを見ろと言わんばかりに指差した。
 ザガードは振り返ると、其処には目だけ笑っているリエリナが居た。
「げっ⁉」
「何が、げっ⁉ 自分の主の顔を見るなり、そんな事を言うなんて、良い御身分ね?」
「い、いえ、そんなことは」
「自分の仕事を放棄して、他家の使用人と話をするなんて、偉くなったものね」
「お嬢様。自分は、そんなつもりは」
「じゃあ、どうして、トイレの前に居なかったの?」
 
 笑顔で訊ねるリエリナ。
 その笑顔を見て、タジタジになるザガード。
 そして、何時の間にかシオーネは居なくなっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...