悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

文字の大きさ
上 下
25 / 88

第25話 何とも言えない終り

しおりを挟む
 実技テストは順調に進んで行った。
 参加した者達は、皆LEVELをティルズよりも下に設定したが、それでも勝ったり負けたりしていた。
 中には、LEVEL設定を三十以上に設定して、勝つ者が居た。
「なぁ、あいつ。どう思う?」
 ティルズも気になったのか、ザガードに訊ねる。
「そうだな。同じ学生と考えても、かなりの実力者と考えて良いだろうな」
「だよな」
 ザガード達は、その者を見る。
 ちなみに設定したLEVELは四十だ。

 角刈りにした藍色の髪。端正な顔立ち。身長は二メルト(二メートル)あるが。ティルズみたいに筋骨隆々という訳ではなく、細身だがガッチリとした体格をしていた。
「あいつが誰か知っているか?」
「何だ。知らないのか? あいつはな王国騎士団の一つで『こう騎士団』の団長ドルドラ=フォン=ファーレンの息子で名前をゴルドファ=フォン=ファーレンだよ」
「成程。騎士団長の息子か」
 ザガードはそれで納得した。
 
 王国には騎士団が六つある。
 『赤獅子騎士団』
 『青熊騎士団』
 『黄竜騎士団』
 『緑鹿騎士団』
 『紫鮫騎士団』
 『銀虎騎士団』
 の六つだ。
 全ての騎士団は、貴族だろうと平民だろうと資格審査を受けなければ入団できない。
 その騎士団の団長の息子という事で、かなり鍛えられているのだなと思ったザガード。
 
「さて、次の人は、……と言っても、残りは二人ですか」
 オベランがそう言うので、生徒達を見ていると、テストに参加して受けていないのは、ザガードとライアンだけだという事に気付いた。
 オベランがそう言うので、ザガードはライアンの方を見た。
(どっちが先、行くかな?)
 と思いつつ見ていると、ライアンはどうかというと。
「という訳なんだ」
「ふっふふ、殿下ったら」
 ライアンはカトリーヌと楽しく談笑していた。
 授業中だというのに、其処だけは何故か華が咲いた様な雰囲気をだしていた。
 皆、それを見て羨ましそうな妬んでいる様な目で見ていた。
 それを見たザガードはと言うと。
(何だ? 何かモヤモヤとするぞ? いや、違う。イラッとしているのか?)
 何故か、イライラしている気持ちになっている自分に不思議に思った。

 どうも、ライアンとカトリーヌが話している姿を見て、こんな気持ちになっているのだと分かった。
 何でそんな気持ちになっているのか分からないが、とりあえず先にテストを受けるザガード。
 ザガードは箱の中から、得物を探していた。
「……これは」
 箱の中を探していると、ある物を見つけた。
 ザガードはそれを手に取った。ザガードが手に取った物は剣だった。
 いや、剣と言うよりも、それは刀身は細く、長く、反っていた剣であった。
 よく見ると、片刃なので剣というよりも、刀と言えた。
 しかし、鍔の部分や握りの部分がこちらの国風であった。
「サーベルか。鞘付きか。これにしよう」
 ザガードはその剣を持って、人形の近くまで行く。
「準備が整いましたね。では、LEVEL設定はどれくらいにしますか?」
「……最大で」
 ザガードがそう言うと、周りがどよめきだした。

「ほぅ、つまりLEVEL五十という事ですが、良いのですか?」
 オベランがそう言う。それは確認の為に訊いているようだ。
「はい。お願いします」
「……良いでしょう。分かりました」
 オベランが人形をLEVEL最大にさせて起動させた。
 人形は起動すると、赤い目を輝かせた。
 そして、剣と盾を構える。
 その構え方は、ティルズやゴルドファが相手にした時よりも、更に隙が無かった。
「これがLEVEL五十か。これは流石にキツイな」
 ティルズが人形の構えを見て呟いた。
 今の自分では、勝てるか勝てないか分からないという感じであった。
 思わず、生唾を飲み込んだ。
(さて、あいつはどうやって勝つのやら)
 ティルズはザガードがどう戦うか楽しみにしていた。

 ザガードはサーベルを抜かず、生ける人形と対する。
「それでは、始めっ!」
 オベランが開始の声をあげても、ザガードは剣は抜かなかった。
 皆、何で抜かないんだと思いつつ見ていると、人形が駆けだした。
 その速さ、他の生徒達が戦って時よりも速かった。
 盾で自分を守りつつ駆けている。
 これでは、普通に攻撃しても盾で防がれると皆は思っていた。
 しかし、ザガードはまだ剣は抜かなかった。
 人形はそれでもザガードに向かって来る。
 そして、後、十歩という所まで人形が来ると。ザガードは身体の重心を前に傾けた。

覇極はきょく始天してんりゅう抜刀ばっとうじゅつ――――――『疾風はやて』」
 その呟きと共に、ザガード・・・・姿が消えた。 
 いきなり、姿が見えなくなった事で、人形は動きを止める。
 チャリン。
 そんな涼やかな音が人形の背後から聞こえて来た。
 人形が振り返ると、其処にはザガードが居た。
 
 人形は標的を見つけて、攻撃をしようと剣を振り上げようとしたら、その剣・・・持っている・・・・・無かった・・・・
 ドチャッという音と共に、剣を持っている手が地面に落ちた。
 その音が聞こえだしたと思ったら、人形の至る所に線が走った。
 次の瞬間、人形がバラバラになった。

「「「………………っ⁉」」」
 観戦していた者達は目を見開らかせて驚いていた。
 ザガードの姿が消えたと思ったら、人形の背後に現れたと思ったら、人形が斬られていた。
 あまりに速いので、目を追う事が出来なかったのだ。
 それは、ティルズもゴルドファも同じであった。
「なんて、速さだ。俺の目でも追い切れなかったぞ」
「斬った回数は全部で五回。俺の目でも三回までしか見えなかった⁉」

 二人は驚愕していた。
 自分では、あんなに速く五回も斬る事は出来ないからだ。
「見事。流石は覇極始天流ですね」
「ありがとうございます」
 オベランが称賛したので、ザガードは頭を下げる。
 パチパチパチ。
「わぁ、凄いですね」
 カトリーヌが拍手してきた。
 女性からも褒められたので、ザガードは礼儀として頭を下げた。

 カトリーヌが褒めた事で、ライアンの顔を顰める。
 ザガードがサーベルを箱の中に仕舞う。
 それを見て、ライアンが前に出た。
「では、次はわたしの番だな」
 そう言うライアンを見て、皆心の中で、もう、お前だけだよと思った。
 口に出せば、不敬と思われるので口には出さなかった。
 ライアンは箱の中に手を入れて、剣を手に取った。
「では、ライアン君。LEVELはどれくらいにしますか?」
「そうですね。・・・三十で」
 ライアンのLEVEL設定を聞いて、皆、ホッとした。
 まさか、ザガードみたいにLEVEL最大にしないか、皆不安だったようだ。

 ライアンと人形は対峙した。
「殿下。頑張ってください!」
 カトリーヌが励ましの言葉を掛ける。
 ライアンは手を振って答えた。
 そうしている間に、オベランは人形を起動させた。
「では、初めてください」

 オベランがそう声を掛けると、人形はライアンに向かって行く。
 ライアンは剣を構える。
 人形が剣を振りかぶり、袈裟切りを見舞う。
「くっ」
 ライアンはその攻撃を防ぎ、反撃の逆袈裟を見舞うが、人形は盾で防いだ。
「くそっ、ならっ」
 ライアンは剣を叩きつける様に連撃を見舞う。
 その必死に剣を振るう姿を見て、ティルズはザガードに訊ねる。
「どう思う?」
「五分、いや下手したら負けるな」
「お前もそう思うか?」
 ザガードは無言で頷いた。
「……あの皇子は馬鹿なのか?」
「ゴホン。それについては、何も言えないが、ティルズ。不敬だぞ」
 ザガードは話を聞いている者は居ないか見たが、誰も聞いている者は居ないようだ。
「ああ、思わず出ちまったな」
 ティルズは口を抑える。
「しかし、そろそろ決着つくな」
「だな」
 二人の予想通り、防戦一方であったライアンが人形の攻撃で剣をふっ飛ばされた。
「あっ⁉」
 手から離れた剣は、ライアンから離れた所に落ちた。
 ライアンは剣が落ちた所に行こうとしたら、人形は容赦なく剣を振り下ろした。
「「「っっ⁉」」」
 皆、声にならない悲鳴を上げた。
 カトリーヌにいたっては手で顔を覆う。
「そこまでっ」
 オベランが大きな声をあげると、人形は止まった。
 剣は後少しで、ライアンに当たると言う所で止まった。
「はい。では、これで実技テストを終了とします。お疲れ様でした」
 オベランが手を叩くと、人形は止まっていた体勢から動き、元居た位置に戻り停止した。オベランが片付けをしていると、ライアンはその場に座り込んだ。
「…………」
 そして、身体を震わせた。
 自分が提案した事で、自分が恥を掻いたので羞恥で震わせているようだ。
 ライアンのその姿を見て、何とも言えない顔をしだした。
 しかし、カトリーヌはそんな空気を読む事無く、ライアンに声を掛ける。
「き、今日は調子が悪かったのですよね? じゃないと、こんなにあっさりと負ける訳ないですよっ」
 励ます為にそう言っているつもりだろうが、それなら、何であんな事を言ったのだろうと皆思った。
「大丈夫です。今日は駄目でも、次はちゃんとこなせますよっ」
 カトリーヌは分かっているのか、励ませば励ますほどに、ライアンが落ち込んでいる事に。
 このままでは、可哀そうだと思い、誰か止めさせてやれと、目で見ているが、誰も行く気配はない。
 どうしたものかと思っていると。
「殿下。何かあったのですか?」
 其処に、ローザアリアが現れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

その聖女は身分を捨てた

メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

処理中です...