悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

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第18話 色々な意味で頑張る 

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 ザガードは何とも言えない表情で、自分が引いたクジの文字に書かれている調理台に向かう。
 其処には、全員、一年の女生徒が三人程いた。
「……よろしくお願いします」
 ザガードはまずは挨拶した。それが初めてあう人にする礼儀だと教わったからだ。
 
 ザガードは深く息を吐いて切り替える事にした。
 そして、側にいなくてもフォローする様にしようと考えた。
 幸いなのは、隣の台なのでしようと思えば出来る距離だ。

「「「よ、よろしく」」」
 女生徒たちはこの部室に居る少ない男子生徒が目の前に居るので、ドキドキしていた。
 更に、ザガードはイケメンの部類に入る。
 黒い髪。この国では、あまり見られない上に、まるで、濡れた鴉の羽のような色をしていた。
 白哲の肌で、顎の線が細いので女性のような印象を抱かせていた。

 ザガードは女性達の視線を気にも留めず、部室の一番奥にある台に居る部長を見る。
「はい。皆さん。改めて初めまして、料理部部長のチゼッタ=ラクシーンと申します。今日はよろしくお願いしますね」
 そう言って、ニッコリと笑うチゼッタ。

 赤茶色の髪を腰まで伸ばし、パッチリとした目。緑色の瞳。
 制服の上から黒いエプロンを着ていた。
「今日は体験入部ですけど、もし料理に興味を持ちましたら、どなたでも入部をお待ちしますね」
 微笑みながら言うチゼッタ。
「本日はパウンドケーキを作ります。レシピはこちらです」
 チゼッタは黒板にレシピを張り付けた。
「では、作りますね」
 チゼッタは料理台に置かれていた材料を見せながら調理を始めた。

 パウンドケーキとは、同量の小麦粉、バター、砂糖、卵を混ぜ合わせて型に流し込み作るバターケ―キの一種。
 お菓子の中では材料が少ないので作りやすいお菓子だ。
 だが、ザガードの内心はしたら不安でいっぱいであった。
 チゼッタはまずはボウルに卵を入れて溶く、砂糖を少しづつ加えて混ぜていく。
 これは砂糖を完全に卵に溶かすためだ。
 一気に入れると、ボウルの底に溶け切らない砂糖が残るのを防ぐためだ。
「卵に砂糖を混ぜてますと、最初は黄色ですが。だんだんよ混ぜていくと」
 チゼッタが話しながら混ぜて行くと、最初は黄色だった卵がだんだんと白っぽくなっていった。

「ここまで白くなりますと、砂糖は完全に解けました。此処に振るった小麦粉を入れて更に混ぜます。目安は粉っぽさがなくなるまで」
 粉っぽさがなくなると、今度は溶かしたバターを卵と混ぜた小麦粉の中に入れて混ぜた。

「はい。バターを入れたら、それほど混ぜなくても結構です。軽く混ぜるだけ十分です。後は用意されている型にこの生地を流し込んで、軽く型を叩いてから、予熱したオーブンに入れて焼き上がれば出来上がりです。生地が出来ましたら、各々お好きなアレンジをしていいですよ」
 チゼッタが手で示した先には、色々な材料があった。
 アーモンド、チョコレート、ドライフルーツ、変わった所で食用花などのトッピングが沢山用意されていた。
 女子生徒達は、皆、黄色い悲鳴をあげていた。

「では、調理を始めてください」
 チゼッタがそう言うと、皆、調理台に置かれている自分の分のケーキの材料をボウルに入れて混ぜていた。
 混ぜながら、自分は何をいれるかなどを話していた。
「わたしはチョコかな。貴方は?」
「わたしも」
「じゃあ、スライスされたアーモンドを入れよう」
 と、自分のケーキに好きな物を入れる話をしている。

 ザガードはその話しを聞きながら、自分の分の材料を手早く混ぜていく。
 テンポよく無駄のない動きで。
(懐かしいな。師匠にもこうして、よくデザートを作っていた)
 ザガードの師匠であるイータ=アルカイドはいかつい見た目に反して、甘党でよくザガードに作らせていた。
 なので、料理は一通りできるザガード。
 
 本職の料理人に比べても遜色ない手つきに、料理などに慣れていない女子生徒達から黄色い悲鳴があがる。
「凄い。まるで、料理人みたいっ」
「同じ一年生よね。何処のクラスかしら?」
「確か、一年A組の人よ」
 自分の事を話されている中でも、ザガードは気にも留めず料理を作っていた。
 
 手を動かしながら、チラチラとリエリナを見ていた。
(お嬢様は大丈夫だろうか?)
 そんな思いが胸中を支配していた。
 そのリエリナだが、今の所、失敗らしい失敗はしていない。
 今回の料理は混ぜて焼くだけという簡単な料理だ。
 
 しかし、リエリナの手に掛かれば、何が起こるか分からない。
 ザガードは自分のパウンドケーキには何を入れるか考えながら、リエリナを注視している。
 
 ザガードの視線に気づいているのか、リエリナは顔にこそ出さないが、内心は不満そうであった。
(もう、わたしがそんなに失敗しないか心配なのね)
 リエリナは内心憤慨していた。
(見てなさい。今日こそ、料理下手の汚名返上してみせるわ)
 そんな思いで燃えるリエリナであった。


























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