悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

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第16話 体験入部

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 オベランと共に講堂に向かうザガード達。
 ザガード達が講堂に着いて直ぐに、他のクラスもやってきた。
 あるクラスの中には、ティルズの姿がザガードの目に入った。
 ティルズもザガードの姿を見るなり、笑顔で手を挙げた。

 ザガードは返礼に頭を下げた。
 その後は、クラスごとに並んだ。
 流石にザガードの隣にはこれなかった。
 
 ザガード達が講堂で並んでいると、上級生達もやってきた。
 何となく見ていたザガードの目に昨日魔導剣闘術部室にやってきた剣術部の部員の者達を見た。
 向こうもザガードを見ると、一瞬だけ睨んだが、直ぐに目を反らして並んだ。
(う~ん。これは根に持たれているのか?)
 その視線から、何となくそう思ったザガード。
 
 とはいえ、向こうが言ってきて、更に引き分けになる所を食い下がって負けたのだ。
 これには文句をつけようもない。
 しかし、貴族階級の者達は自分達に泥を塗ったと思ったら、自分勝手な解釈する者達が多いという事を理解しているザガード。
 なので、出来るだけ関わらないようにしようと決めた。

 そうこうしていると、講堂に学生達が集まった。
 講堂は広いので、全学生と全教師が集まっても十分に収納できる。
 だが、人数が多い事でかなりの熱気があった。
 学生達はざわつきながらも、部活動が始まるのをまった。
 そうして待っていると、講堂にある壇上に男性の一人があがる。
 その人は、入学式の時に訓辞を述べていた教頭であった。

「おほん。これより、各部が新入生歓迎の活動を行う。その説明を聞いて、どの部に入るか考える様に」
 教頭がそう言って壇上から降りた。
 そして、部の説明が始まった。

 ザガード達が講堂に入ってから、三時間後。
 最後の部の活動の説明を終えると、皆教室へと帰って行った。
「凄かったわね。部活動の紹介」
「そうですね。わたし的に驚いたのは、弓術部と魔法研究部の説明でしたね」
 ザガードは講堂で見た事を思い出しながら言う。
 弓術部は部活紹介は、短弓で的に当てるというものであった。
 その演舞を見せたのは、ザガード達と同い年の子であった。
 黄緑色の髪をエアリーボブにして、緑色の瞳をしていた。
 目鼻立ちする顔立ち。身長はリエリナと同じ位だ。
 そんな女性が、演舞を始める前に、講堂にいる者達に一礼して、弓を構えた。
 レストに矢を乗せて、弦を引っ張る。
 そして、狙いを定めると、矢を放った。
 放たれた矢は、的の中心に当たった。
 観客と化していた学生達は「おおおおっ」と歓声をあげたり、拍手をしていた。
 
 だが、驚くべきことはそれだけではなかった。
 女性は次の矢をレストに乗せて、構える。
 構えたと思った瞬間、矢は放たれた。
 放たれた矢は、的に刺さった矢に当たる。当たった矢は先に的に刺さっている矢を貫いて、的に当たる。
 間髪入れず、女性は矢を放ち続ける。
 しかも、狙いは最初に矢を当てた場所。
 矢は次々と当たり、まるで勢いよく竹を破るかの様に裂けて行く。

 その演舞は射手の矢が尽きるまで続いた。
 矢が尽きると、射手は一礼して終わりとなった。
 それで、演舞が終ったと分かり、皆万雷の拍手で射手の腕前を称賛した。
 
 弓術部の部活紹介を終えると、次は魔術研究部であった。
 名前の通り、魔法の研究をする部だ。
 その部活動紹介では、研究の一つを見せてくれた。
 研究部の部員達が杖を持ち、何かの魔法を発動させた。
 
 部員の杖が動く度に、幾何学模様が現れる。
 その模様が陣となって、部員達の足元に浮かび上がる。
「・・・・・・・・・・・」
 部員の一人が何事か呟いていたが、壇上に居るので何と言っているか分からない。
 そうして見ていると、魔法陣が輝きだした。
 あまりに強い輝きなので、見ている者達は目を瞑った。
 
 やがて、光が止むと、生徒達と教師達も驚いた。
 壇上にある魔法陣の中に、大きな物体あるからだ。
 水晶の様に透明で堅そうなので、鉱物のようだ。
 誰かが、その鉱物を見て「あれは。ダイヤモンドか?」と呟いた。
 それを聞いてザガードは目をギョッとさせた。
 この世界でも硬い鉱物の中でも、上位に入る鉱物の名前だからだ。
 しかし、どちらかというと鉱物よりも宝石としての価値があるので、武器に使われるよりも、アクセサリーなどの装飾品に使われている。

 そして、研究部の部員が作った物はダイヤモンドと言った。
 皆、それを聞いて、驚愕していた。
 魔法でダイヤモンドを生み出せると聞いて、皆驚いているのだろう。
 だが、現段階の研究では商品としての価値があるダイヤモンドの製作は出来ていないそうだ。
 今生みだした物も、ダイヤモンドとしての価値はかなり低いと言うと、何人かの生徒が斬寝そうな顔をしていた。

 どうやら、ダイヤモンドを生み出す方法を知って、それで儲ける事でも考えていたのだろう。
 その後も、部活の紹介は続いた。
 しかし、ザガードの頭の中に強く印象に入っているのは、その二つだけだった。
 二人はそうして話しながら、クラスメート達と共に教室に戻った。
 教室に戻ると、クラスメート達は先程見た部活紹介を見て、何処の部に入るか話し合っていた。
 何処の部が良かったとか、色々な事を話している。
 そうして話していると。オベランが教室に入って来た。
「はい。皆さん。席に着いてくださいね。直ぐに済みますから」
 
 そう言って、生徒達に着席を促した。
 皆もそう言われて、自分の席に座りだした。
 皆が着席をするのを確認して、オベランは口を開いた。
「はい。皆さんは聞き訳が宜しくてうれしいですね。では、ホームルームを終えたら、今日は終わりにします。後は自分が行きたいと思った部に行って、体験入部に行くなり、そのまま入部届を出すなり好きにして下さい」
 そう言って、オベランは紙を前の列に居る者に渡して「一枚取ったら、他は後ろに回してください」と言う。
 生徒達は言われた通りに、一枚取って、後ろに回していく。
 ザガードもその紙を取り見ると『入部届け』とだけ書かれていた。
 
 オベランは生徒達に見える様に頭の所まで持ってくる。
「この紙にクラスと自分の名前を書いて、その部の部長に渡してください。そうしたら、その部に入る事に成ります。複数の部に入りたい者は、まずは一枚目をその部に出して、二枚目以降は、担任このクラスではわたしにこの紙を貰って、入りたい部の部長に渡してください」
 ようは、入部届の紙に自分のクラスと名前を書いて、入りたい部の部長に渡せば良いという事か。
 そう理解したザガードは隣にいるリエリナを見る。
「お嬢様は何処の部に入るのですか?」
「そうですね。体験入部してから決めようと思います」
「体験入部ですか。何処に行くか決めているのですか?」

 ザガードがそう尋ねると、リエリナは笑顔で言う。
「料理部に」
「・・・・・・えっ?」
 ザガードは耳を疑った。
「あ、あの、もう一度聞いても宜しいですか?」
「料理部ですけど?」
 リエリナは首を傾げる。
 何か、変な事を言ったのかしらという顔をする。
 ザガードは笑顔を浮かべながら、頬に冷や汗が流れていた。
 実は、リエリナは料理を作るのが下手なのだ。
 質が悪いのが、本人はそれを自覚していないという事だ。


















 


 
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