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第3話 9年後
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「…………あの時の事を夢で見るとは」
ザガードはそう呟き、ベッドから身を起こし、ベッドから降りた。
そして、クローゼットを開ける。そこに掛けられ沢山ある同じ種類の服の中から一着を取る。
寝間着から、その手に取った服に着替える。
着替えながら、ザガードは今までの事を思い出していた。
ローレンベルト家に拾われてからというものの、最初は今までの生活とのギャップの差に戸惑っていたザガード。
何せ、今までは闘奴という事で、人らしい扱いを受けてこなかった。
無論、全員が全員そう言う訳ではなかったが、大多数の人はザガードをそう扱った。
しかし、ローレンベルト家の人達は、ザガードをまるで家族のように扱うのだ。
その所為で、どうにも馴染むのに時間が掛かった。
現当主であるオイゲンが温厚で気の良い人のお蔭なのか、それともまだザガードが幼いという事で可哀そうだと思われたのか使用人の者達もザガードを可愛がっていた。
中でも特にザガードを可愛がっているのは、オイゲンの奥方であるコウリーン=フォン=ローレンベルトだ。
ザガードを一目見るなり気に入ったのと、娘を助けてくれた事に感謝しているのか、それともザガードの身の上を知ったのか、娘と同じ位にザガードを可愛がる。
生まれた時から、母親という存在に縁遠かったザガードはその可愛がりを苦手とし、少し距離を取っていた。
だが、その余所余所しい態度にコウリーンは自分の愛情が足りないのかと思い、更に可愛がるという悪循環になっている事にザガードは気付いていない。
コウリーンの愛情を受けつつもザガードはすくすくと成長した。
そして、九年の歳月が過ぎた。
「よし。こんなものか」
ザガードは姿見で、自分が着ている制服に変な所がないか、髪に寝癖がついていないか確認した。
そして、自分の姿を見る。
「……しかし、つくづく分からないものだな。奴隷だった俺が、貴族の家に拾われて、真っ当な暮らしをしているだけでも驚きなのに、学校にも通える様になるとはな」
昔、闘奴仲間が呟いていた『人生何が起こるか分からない』という言葉を身を持って実感しているザガード。
最もそう呟いた闘奴仲間は、その呟いた後にレッドボアという魔物との試合で食い殺された。
闘奴であったザガードはこの春から、リエリナの護衛兼同級生としてセフィロス王立総合魔導学園通称『王立学園』に通う事となった。
その話しを聞いた時は、ザガードは自分の耳を疑った。
思わず耳の中に指を入れて軽く掃除をしてから、もう一度聞いた。
それでもリエリナと共に学園に行く事を聞かされて驚愕した。
学費と学園を通う際の経費なども全て持ってくれると言われて、更に驚くザガード。
それなりの年月をローレンベルト家に雇われていたので、お金も結構ある。
そのお金で学費と経費などに当てようかとザガードが言うと。
『気にする事はない。君はもう我が家の一員なんだから、学校に行くぐらいの費用など問題ない』
『そうよ。ザガード。もう、貴方はわたくしにとってはもう一人の息子同然なのだから、息子の学識を高める為の費用なんて安い物よ』
と公爵夫妻にそう言って、学園に通う際の経費など諸々をポン! と出してくれた。
これにより、ザガードはローレンベルト家に足を向けて眠る事が出来なくなった。
「はぁ、……気が重い」
今日がその王立学園の入学式なのだが、ザガードは気分は楽しいというよりも憂鬱な気分であった。
自分は元闘奴という事で色々な視線に晒される。
なので、自分の一挙手一投足で自分を拾ってくれた公爵に迷惑が掛かると思うと、ザガードは楽しいと思うよりも憂鬱な気分であった。
そんな沈んだ気分でいると、ドアがノックされた。
『ザガード。そろそろ準備が出来た?」
「はい。終りました。セイラさん」
『そう。じゃあ早く食道に来なさい。お嬢様達が待ちくたびれているわよ』
「分かりました」
セイラは言い終えると、部屋の前から去って行った。
「……行くか」
ザガードは溜め息を吐き、部屋を出る。
自分の部屋を出たザガードは、食堂へと向かう。
この館には、使用人用の食堂と公爵家と客人が使う食堂がある。
ザガードが向かっているのは後者の方だ。
この家に来た当初から、ザガードは公爵家の人達と一緒に食事をしている。
何故そうなったのかと言うと、公爵家の人達がそう望んだからだ。
以来、ザガードは館に居る時は、公爵家の人達が使う食堂で食事をする事になった。
最初の頃は、借りて来た猫のように縮こまって椅子に座っていたザガードだった。
食堂の前には守衛が二人立っていた。
ザガードはその二人に頭を下げて一礼した。
守衛の二人も、返礼をしてくれた。
そして、二人は食堂の扉を開けてくれたので、ザガードは中に入る。
「遅れて申し訳ありません」
ザガードは食堂に入るなり頭を下げる。
「なに、いつも通りの時間だから問題ない。座りなさい」
オイゲンは笑顔を浮かべながら着席を促した。
「はい」
上座に座るオイゲンから少し離れた席に座るザガード。
その右隣には美少女が座っていた。
「おはよう。ザガード」
「おはようございます。リエリナ様」
「もう、そんな堅苦しい挨拶なんかしなくても良いのに」
「すいません。性分なので」
ザガードが頭を下げると、リエリナは頬を膨らませる。
「むぅ、何か他人行儀ですよ」
そう言われては、苦笑するしかないザガード。
「そうだな。公式の場では畏まるのは良いが、こういう場では畏まる事はないよ」
「ですが。旦那様」
「じゃないと、こちらも肩が凝るからな。それに娘が拗ねてしまうからな」
「もう、お父様ったら」
「はっはは」
リエリナは自分が揶揄われいると分かり、顔を赤らめる。
ザガードは顔を赤らめるリエリナの顔を見る。
(それにしても、元から綺麗だったからか、更に綺麗になったな)
リエリナの容姿を見て、そう思うザガード。
ゆるふわのハニーブロンドの長髪。整った顔立ち。垂れた目に、幼い頃は黒かったが今では、深緑色の瞳。
女性であれば平均的な身長で、メロンの様に大きい胸。くびれた腰。キュッと引き締まった尻。
幼い頃から一緒に過ごした所為か、余計にそう思うザガード。
「どうかしたの?」
「何でもない」
ザガードがリエリナを見ていたのを感じたのか、リエリナは訊ねてきたが、何でもない風にザガードは言う。
「さて、そろそろ。朝食を食べようか」
オイゲンがそう言うと、扉が開かれ食事が運ばれた。
ザガード達三人は朝食を取りながら話しをした。
「今日から、二人は王立学園に通う事になるのか。歳月は早いものだ」
「そうですね」
「自分もそう思います」
「私も妻も仕事で始業式には行けないが、二人だけで大丈夫かい?」
「はい。大丈夫です。ねぇ、ザガード」
リエリナにそう訊かれ、ザガードはスクランブルエッグを食べようとした手を止めて、リエリナを見る。
「はい。お任せください。お嬢様の身には傷を一つたりともつけません」
「私としては、君も傷つかないでくれると嬉しいのだが」
「は、はぁ。善処します」
「本来なら、妻が今日の始業式に行く予定だったのだが、急な仕事で行けなくなってね」
「仕事では仕方がありません。ねぇ、ザガード」
「はい。その通りです」
そう言いながら、内心、安堵の息を吐くザガード。
何せ、コウリーンは幼い頃からザガードをそれはもう可愛がっていた。
その可愛がりに、内心辟易していたザガード。
なので、今日は来てくれなくて良かったと思っている。
「私も仕事があるからいけないが、二人と御者のオロルフだけでも大丈夫かい」
「はい。大丈夫です」
リエリナが笑顔でそう言うので、オイゲンもそれ以上、何も言えなかった。
仕方がなくオイゲンはザガードを見る。
「ザガードも居るから、大丈夫だろうけど、無理はしない様に」
「承知しました」
ザガードはオイゲンの言葉に頭を下げて答えた。
朝食を食べ終えたザガード達は、一度自室に戻り準備を整えてから、エントランスホールで集まる事になった。
準備といっても、リエリナの化粧が終えるまで、ザガードは自室に戻り、変な所がないか確認して、それを終えたら、エントランスホールでリエリナが来るまで待つだけだ。
ザガードはリエリナが来るまで、目をつぶって待っていた。
待つ事三十分。
「お、お待たせしました」
膝丈まであるスカードを履いている以外はザガードと同じ制服を身を通しているリエリナが現れた。
「いえ、さほど待っておりません」
「そうですか」
リエリナはホッとした表情を浮かべた。
「では、お嬢様。そろそろ」
「ええ、参りましょう」
ザガードはリエリナの傍に立ちながら、玄関を出た。
ザガードはそう呟き、ベッドから身を起こし、ベッドから降りた。
そして、クローゼットを開ける。そこに掛けられ沢山ある同じ種類の服の中から一着を取る。
寝間着から、その手に取った服に着替える。
着替えながら、ザガードは今までの事を思い出していた。
ローレンベルト家に拾われてからというものの、最初は今までの生活とのギャップの差に戸惑っていたザガード。
何せ、今までは闘奴という事で、人らしい扱いを受けてこなかった。
無論、全員が全員そう言う訳ではなかったが、大多数の人はザガードをそう扱った。
しかし、ローレンベルト家の人達は、ザガードをまるで家族のように扱うのだ。
その所為で、どうにも馴染むのに時間が掛かった。
現当主であるオイゲンが温厚で気の良い人のお蔭なのか、それともまだザガードが幼いという事で可哀そうだと思われたのか使用人の者達もザガードを可愛がっていた。
中でも特にザガードを可愛がっているのは、オイゲンの奥方であるコウリーン=フォン=ローレンベルトだ。
ザガードを一目見るなり気に入ったのと、娘を助けてくれた事に感謝しているのか、それともザガードの身の上を知ったのか、娘と同じ位にザガードを可愛がる。
生まれた時から、母親という存在に縁遠かったザガードはその可愛がりを苦手とし、少し距離を取っていた。
だが、その余所余所しい態度にコウリーンは自分の愛情が足りないのかと思い、更に可愛がるという悪循環になっている事にザガードは気付いていない。
コウリーンの愛情を受けつつもザガードはすくすくと成長した。
そして、九年の歳月が過ぎた。
「よし。こんなものか」
ザガードは姿見で、自分が着ている制服に変な所がないか、髪に寝癖がついていないか確認した。
そして、自分の姿を見る。
「……しかし、つくづく分からないものだな。奴隷だった俺が、貴族の家に拾われて、真っ当な暮らしをしているだけでも驚きなのに、学校にも通える様になるとはな」
昔、闘奴仲間が呟いていた『人生何が起こるか分からない』という言葉を身を持って実感しているザガード。
最もそう呟いた闘奴仲間は、その呟いた後にレッドボアという魔物との試合で食い殺された。
闘奴であったザガードはこの春から、リエリナの護衛兼同級生としてセフィロス王立総合魔導学園通称『王立学園』に通う事となった。
その話しを聞いた時は、ザガードは自分の耳を疑った。
思わず耳の中に指を入れて軽く掃除をしてから、もう一度聞いた。
それでもリエリナと共に学園に行く事を聞かされて驚愕した。
学費と学園を通う際の経費なども全て持ってくれると言われて、更に驚くザガード。
それなりの年月をローレンベルト家に雇われていたので、お金も結構ある。
そのお金で学費と経費などに当てようかとザガードが言うと。
『気にする事はない。君はもう我が家の一員なんだから、学校に行くぐらいの費用など問題ない』
『そうよ。ザガード。もう、貴方はわたくしにとってはもう一人の息子同然なのだから、息子の学識を高める為の費用なんて安い物よ』
と公爵夫妻にそう言って、学園に通う際の経費など諸々をポン! と出してくれた。
これにより、ザガードはローレンベルト家に足を向けて眠る事が出来なくなった。
「はぁ、……気が重い」
今日がその王立学園の入学式なのだが、ザガードは気分は楽しいというよりも憂鬱な気分であった。
自分は元闘奴という事で色々な視線に晒される。
なので、自分の一挙手一投足で自分を拾ってくれた公爵に迷惑が掛かると思うと、ザガードは楽しいと思うよりも憂鬱な気分であった。
そんな沈んだ気分でいると、ドアがノックされた。
『ザガード。そろそろ準備が出来た?」
「はい。終りました。セイラさん」
『そう。じゃあ早く食道に来なさい。お嬢様達が待ちくたびれているわよ』
「分かりました」
セイラは言い終えると、部屋の前から去って行った。
「……行くか」
ザガードは溜め息を吐き、部屋を出る。
自分の部屋を出たザガードは、食堂へと向かう。
この館には、使用人用の食堂と公爵家と客人が使う食堂がある。
ザガードが向かっているのは後者の方だ。
この家に来た当初から、ザガードは公爵家の人達と一緒に食事をしている。
何故そうなったのかと言うと、公爵家の人達がそう望んだからだ。
以来、ザガードは館に居る時は、公爵家の人達が使う食堂で食事をする事になった。
最初の頃は、借りて来た猫のように縮こまって椅子に座っていたザガードだった。
食堂の前には守衛が二人立っていた。
ザガードはその二人に頭を下げて一礼した。
守衛の二人も、返礼をしてくれた。
そして、二人は食堂の扉を開けてくれたので、ザガードは中に入る。
「遅れて申し訳ありません」
ザガードは食堂に入るなり頭を下げる。
「なに、いつも通りの時間だから問題ない。座りなさい」
オイゲンは笑顔を浮かべながら着席を促した。
「はい」
上座に座るオイゲンから少し離れた席に座るザガード。
その右隣には美少女が座っていた。
「おはよう。ザガード」
「おはようございます。リエリナ様」
「もう、そんな堅苦しい挨拶なんかしなくても良いのに」
「すいません。性分なので」
ザガードが頭を下げると、リエリナは頬を膨らませる。
「むぅ、何か他人行儀ですよ」
そう言われては、苦笑するしかないザガード。
「そうだな。公式の場では畏まるのは良いが、こういう場では畏まる事はないよ」
「ですが。旦那様」
「じゃないと、こちらも肩が凝るからな。それに娘が拗ねてしまうからな」
「もう、お父様ったら」
「はっはは」
リエリナは自分が揶揄われいると分かり、顔を赤らめる。
ザガードは顔を赤らめるリエリナの顔を見る。
(それにしても、元から綺麗だったからか、更に綺麗になったな)
リエリナの容姿を見て、そう思うザガード。
ゆるふわのハニーブロンドの長髪。整った顔立ち。垂れた目に、幼い頃は黒かったが今では、深緑色の瞳。
女性であれば平均的な身長で、メロンの様に大きい胸。くびれた腰。キュッと引き締まった尻。
幼い頃から一緒に過ごした所為か、余計にそう思うザガード。
「どうかしたの?」
「何でもない」
ザガードがリエリナを見ていたのを感じたのか、リエリナは訊ねてきたが、何でもない風にザガードは言う。
「さて、そろそろ。朝食を食べようか」
オイゲンがそう言うと、扉が開かれ食事が運ばれた。
ザガード達三人は朝食を取りながら話しをした。
「今日から、二人は王立学園に通う事になるのか。歳月は早いものだ」
「そうですね」
「自分もそう思います」
「私も妻も仕事で始業式には行けないが、二人だけで大丈夫かい?」
「はい。大丈夫です。ねぇ、ザガード」
リエリナにそう訊かれ、ザガードはスクランブルエッグを食べようとした手を止めて、リエリナを見る。
「はい。お任せください。お嬢様の身には傷を一つたりともつけません」
「私としては、君も傷つかないでくれると嬉しいのだが」
「は、はぁ。善処します」
「本来なら、妻が今日の始業式に行く予定だったのだが、急な仕事で行けなくなってね」
「仕事では仕方がありません。ねぇ、ザガード」
「はい。その通りです」
そう言いながら、内心、安堵の息を吐くザガード。
何せ、コウリーンは幼い頃からザガードをそれはもう可愛がっていた。
その可愛がりに、内心辟易していたザガード。
なので、今日は来てくれなくて良かったと思っている。
「私も仕事があるからいけないが、二人と御者のオロルフだけでも大丈夫かい」
「はい。大丈夫です」
リエリナが笑顔でそう言うので、オイゲンもそれ以上、何も言えなかった。
仕方がなくオイゲンはザガードを見る。
「ザガードも居るから、大丈夫だろうけど、無理はしない様に」
「承知しました」
ザガードはオイゲンの言葉に頭を下げて答えた。
朝食を食べ終えたザガード達は、一度自室に戻り準備を整えてから、エントランスホールで集まる事になった。
準備といっても、リエリナの化粧が終えるまで、ザガードは自室に戻り、変な所がないか確認して、それを終えたら、エントランスホールでリエリナが来るまで待つだけだ。
ザガードはリエリナが来るまで、目をつぶって待っていた。
待つ事三十分。
「お、お待たせしました」
膝丈まであるスカードを履いている以外はザガードと同じ制服を身を通しているリエリナが現れた。
「いえ、さほど待っておりません」
「そうですか」
リエリナはホッとした表情を浮かべた。
「では、お嬢様。そろそろ」
「ええ、参りましょう」
ザガードはリエリナの傍に立ちながら、玄関を出た。
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