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プロロ−グ

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 わたし天塚茜は今、暇を持て余している。
せっかくの日曜日だというのに私は今、家のソファでうつ伏せで寝ている。友人は今日は用事があるからとメ―ルが来てから着信が無い。
 親は仕事でいない。だから今はこの家には誰も居ない完全な1人という訳である。

「あぁ、なんて暇時間なんだろう」

 今の気持ちを声に出してみるが当然の事ながら誰一人として返答をすることはない。
 この完全な1人の世界でなにを思ったのかソファから音もなく立ち上がり、リビングから出て玄関の前で立ち止まった。これは私の無意識の行動といえるだろう。

「... 」

 終始無言で玄関を見つめていると、何処からともなくきこえた。そう、それはまるで機関車の汽笛のような、あの甲高い音にそっくりだった。
 その音は私に大きな衝撃を与えた。この家の前には駅も無ければ線路もない。ましてやその音をならすようなものが、未だ一般で走っているとも考えられない。
 ならば、今家の前いる音の正体は一体なんだというのか。
 私は恐る恐る玄関の戸に耳をあてる。聞こえるのは蒸気が漏れるような音と大勢の人が行き交うような足音、そしてそれに不釣り合いな程小さな話声が戸を伝ってきこえる。その事実に身震いし私は逃げるように後退る。

「な、何よこれ...」

 胸に手を当てればすぐにわかるほど私の心臓は脈を打っていおり、過呼吸を起こしている。         
 気を抜けばすぐに失神してしまいそうな中私はドアノブをにぎる。私は確かめたいのだ。この先になにがあるのかを。

「行かなきゃ」

 手の震えとまらない。
 行こうか、行かないかを迷っている自分に気付き、それをなだめるように息をはく。何を今更躊躇っているのかと。何度かそうしてるうちに徐々に落ち着きを取り戻す。
 そして、私はこの先にあるものを必ずや確かめるのだと改めて決心する。
 少しの恐怖心と多大な好奇心が私を突き動かし玄関の戸を勢い良く開けた。
  
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