人形戦争

かお

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姉妹戦争編

第3話 セリーヌ

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「あなたは?」
あたしが恐る恐る美咲ちゃんの人形に尋ねてみる。
「私の名前はセリーヌ。あなた達一体何なの?てか、その様子だとあなた達はお互いの事知ってるみたいね。」
どうやらセリーヌはあたしとリュシーがお互いの事を知ってる事に驚いているらしい。そしてリュシーに対して睨む。

「私達は人形なのよ。それが持ち主に正体バラして普通に会話してるなんて......」

まあ、確かに普通ではあり得ない光景だよね。

「これには深い訳があるのよ。」
リュシーは苦い顔をしながらセリーヌに反論した。

「深い訳って何よ?」
セリーヌがリュシーに問う。
「説明をする前に1つ確認したいのだけれどセリーヌ、あなたは他の人形達の動向については詳しいの?」
「ずっとこの家にいるから詳しくは無いわね。」

「そもそも他の人形と会った事も無かった。あなたが初めてね。」
「そう。なら簡潔に説明するわ。今この世界では人形達が争いを始めたわ。人間と人形の共存派(私達)と人間を憎み、人間に危害を加えようとしてる人形よ。あなたには私達と手を組んで欲しいのよ。」

「つまり、人間を守る派閥についてほしいって事ね。」
「そうよ。」
「断るわ。」
「!?」
セリーヌからは思っていた回答と真反対の回答が飛び出してきた。これにはあたしはともかく、リュシーも驚いた表情をしていた。

「理由を聞いても?」
直ぐに平静を装ったリュシーが聞く。
「今の所、私の元にはあなた達以外助力を求める人間や人形はいないわ。私はねどんな理由があろうとこの世の理からズレた事はしない方が良いと思っている。」

「この世界の普通を考えてみて?どこの世界に電池が入っている訳でもないのに喋ったり、自由に動き回る人形がいるの?人形は持ち主が飽きるまでボロボロになるまで遊ばれる。そして最後は捨てられる。それでいいのよ。歪んでるかもしれないけどそれこそが人形のあるべき姿じゃないかしら?」

「私はあなた達の派閥にはならないし、あなた達の敵にもならない。これでは駄目かしら?」
「分かったわ。残念だけど今はそれで納得するわ。」
セリーヌの言い分も確かに理解できないものではない。リュシーも説得は難しそうと判断し、引き下がる事にした。

「お待たせ。中々お菓子の方が見つからなくて。」
このタイミングで美咲ちゃんが戻ってくる。
セリーヌの方に顔を向けると既にただの人形に戻っていた。



その後適当にあたしは美咲ちゃんの家でお菓子を摘んだ後帰ることにした。

美咲ちゃん家を出ての帰り道、足取りは重かった。
あたしはあたしにとってのリュシーの様にセリーヌも美咲ちゃんの為に仲間となって協力してくれると心のどこかで思っていた。
それが実際はかなり現実主義な人形だった。
(美咲ちゃんの人形らしいけど。)



家に戻り、自室であたしはリュシーに聞いてみた。
「これからどうするの?美咲ちゃんならって思っていたのに当てが外れちゃったけど?」
「今はセリーヌが敵にもならなかった事だけで良かったと思いましょう。」
「ただ本当に困ったわね。」
リュシーもあたしも他に思い当たる仲間となりそうな人形が浮かばない。
あたし自身、別に美咲ちゃん以外にも仲の良い子はいるけどお互いの家に遊びに行くまでの仲かと言うとそれは微妙な子が多い。

「そもそも中学生にもなって未だに幼い時の人形を大切にしている人は果たして何人いるのだろう。」
人によっては幼い時の人形なんて中学生にもなればかなり古びてしまうので捨ててしまう人も決して少なくないだろう。

結局、その日は何も思いつかず寝る事にした。



翌日、あたしは学校でもこの先どうするかをずっと考えていた。
(無論、授業は上の空だったので毎時間叱られていたが......)

そのまま放課後になり、あたしは学校の校舎をブラブラと歩いていた。
特に目的がある訳ではない。ただ歩いていれば何か思いつくかもと思っただけである。
まあ、歩けば歩くほどただ当たり前の光景が見えるだけだけど。
例えば、美術室では美術部の男子生徒達が絵を描いているし、音楽室では吹奏楽部の女子生徒達が聞き覚えのある曲を演奏しているといった感じ。



「結局、特に何も思いつかなかったな。」
気づけば1時間位校舎内を行ったり来たりしていた。
しかし結果は散々、特にこれといった案も思いつかなかった。
「はあ......結局何も思いつかなかったなぁ。」
時間を無駄にした感じがして更に気分が落ち込む。
そんな時であった。
「痛!指に刺しちゃったぁ。」
たまたま近くの教室から女生徒の声が聞こえた。
あたしは教室のドアの隙間を覗くと指を咥えている女生徒が見えた。
どうやら裁縫の針を指に刺してしまったらしい。
その時、まつりの頭に天啓が舞い降りた。
「これだ!」
まつりはその後急いで家に帰る事にした。
「リュシーに早く確かめなきゃ。」



家に帰り、あたしは一目散にリュシーに尋ねた。
「あたしの手で人形を作るのはどう?」

あたしが思いついた事はあたし自身の手で人形を作る事だった。
元々、人形は誰かの手で作られるものである。ならばあたしが作ってもいいはずだ。
だったのだけど......
「......」
あたしの言葉にリュシーは難しい顔をしていた。

「え......っと......リュシー?」
「まつりの言う事は確かに一理あるけど問題点も多いのよ。」
「問題点?」
「あなた、人形を作れるの?」
「いや、やった事はないけど......」
「それでどうやって作るつもりなのよ?」

「......気合......とか?」
「まつり、人形も生きているのよ。あなたがかなりの腕前で人形を作れるなら問題は無かったけど、中途半端に人形に命を吹き込むと......」
「吹き込むと?」
「その人形が仲間になるどころか敵になるわ。」
「え!?」
「醜い姿で生み出されちゃ人形だって溜まったもんじゃないもの。」
「じゃああたしが考えたやり方じゃ駄目ってこと?」
「今のところはそういう事になるわね。」
「じゃあまた一から考え直し?」
「そうなるわね、ただ安心して。私も冷静に考えたら1つアイデアが浮かんだの?」
「アイデア?何それ?」
「明日もう一度私をセリーヌの所へ連れて行って頂戴。」
「え?セリーヌの所へ?でもセリーヌは仲間にはならないって......」

「いいから!あなたはさっさと美咲に連絡しなさい!」
リュシーに半ば強引に急かされ、まつりは美咲に連絡する。



翌日の放課後、まつりは再び美咲の家に上がり込む。
「......またすぐに遊びに来てくれるとは思わなかったよ。」
「何かごめんね、美咲ちゃん。」
「ううん、いいの。来てくれる事自体は別に嫌とかじゃないから。ただ、昨日のまつりちゃんの迫力が......」
「それは本当にごめんね。」
昨日、リュシーに言われまつりは美咲に連絡を取った。
余談だが、断られるの覚悟だったまつりはかなり必死に説得していた。
「こうも頻繁だと流石に美咲ちゃんも迷惑だよね......」
最も当の美咲は別に断るつもりなんて全く無かったのでまつりの必死さが少し怖かった訳だが......
そんな事があっての現在である。
更にまつりとリュシーには予め打ち合わせをしていた。
「あ、そうだ。」
ふと何かを思い出したかの様に茉莉は言う。
「美咲ちゃんさ、あたし部活どうするのか決めたよ。」
「え?そうなの?まつりちゃん何部にするの?」
「あたし、手芸部に挑戦してみようかと思う。」
「手芸部?でもまつりちゃんはスポーツ系の方が好きでしょ?」
「そうなんだけど......えと、ほらあたしって不器用じゃない?」

「それでさ色々物の準備からしようと思うんだけどまだ時間あるし来て早々ごめんだけど買い物付き合ってくれない?」
「......まつりちゃんってやっぱり凄いね。」
破天荒なのは昔から知っていたけどここまでの無茶振りは美咲も初めてであった。

そうしてあたしは美咲ちゃんを外に連れ出すことに成功した。
そう、昨日あたしがリュシーと打ち合わせをして決めた事はリュシーとセリーヌが2人きりで話せるようにあたしが美咲ちゃんを連れて外に出ることだった。

それは前日のこと。
「まつりには美咲を上手く外に連れ出して。その間に私はセリーヌと話をするから。」
そうリュシーに言われ、言われた通りあたしは今美咲ちゃんを外に連れ出して買い物へと向かう。

一方、美咲の部屋ではリュシーがセリーヌに対して向き合う。
「......また来たの?」
セリーヌが嫌そうな目でリュシーをベッドから見下ろす。
「安心しなさい。あなたを仲間に引き入れる件は諦めたから。それより今日は別に話があるの。」
(無論、嘘なんだけど。)

「話ねぇ......」
セリーヌは面倒くさそうにリュシーに目を向けた。
「セリーヌ、あなたは前に来たときにこの世の常識から外れた事はするべきで無いと言ったわよね?」
「言ったわね。」

「ならあなたが何もしないのは矛盾しているのではなくて?」
「どういうこと?」
「だって普通は人形が人間に対して明確に殺意を持って襲うなんてありえないでしょ?それはあなた的にこの世の理から外れているのではなくて?」

「この世の理から外れた事がセリーヌ、あなたのすぐ近くで起きているのは事実。それを放っておいたらその内あなたも今の生活を送るのは難しくなるのでは?」
「......」
(あと一息か?)
リュシーはセリーヌの顔色が変わった事に気が付いた。

しかし、予想に反してセリーヌはその後リュシーが何も言うことなくすぐにリュシーの手に落ちた。
「分かったわよ。というか何が仲間に引き入れる事を諦めるよ。仲間にするつもりで私に話していたんでしょ。」

「手段なんて選んでいられないもの。もう少し粘られると思ってたけど意外と素直なのね、あなた。」
「その物言いは腹立つわね。ただ協力すると言っても私は美咲に正体はバラす気は無いからね。」

「分かったわ。あなたにはあくまで遠隔で私達に協力してもらうわ。」
「具体的には?私はあなた達に何をすればいいの?」
「あなたにしてもらいたい事は今の所3つあるわ。」

「1つ、あなたにはこの戦いで表面上は中立派の立場を貫いてほしい。但し、実際は私達人間と共存派として手助けしてほしいこと。
2つ、どんなに些細な事でも気になる事があれば私に連絡すること。3つ、美咲の様子に何か変化が無いか観察すること。」

「1つ目は敵の目を欺くためね。2つ目は情報共有をする為でしょうけど、これについてはあまり私は当てにできないわよ?あなた達が来るまで人形同士が戦争してるなんて知らなかった位ですもの。」
「そう思ったから”どんなに些細な事でも”と言ったのよ。」

「必要無い情報かどうかは私が判断するからあなたには適宜、情報を私に流して欲しいの。」
「まあ、分かったわ。3つ目の美咲の様子を観察するというのは?」
「敵がいつ美咲と接触してくるか分からないから様子を見守って上げてと言うことよ。」
「分かったわ。」

リュシーはそう言ってセリーヌとの会話を終えた。
この日はその後すぐにまつりと美咲が帰ってきたのでお開きとなった。
今後もおそらく定期的に二人は連絡を取り合うのだろう。(まつりが美咲を毎回連れ出す必要が出てくるが......)

なにわともあれ、仲間にならないと思っていたセリーヌを仲間につけたまつりとリュシー。

一方、彼女達の様子を遠目から見ていた者がいた。
「あーあ。セリーヌは取られてしまいましたわね。でもまあ、それならそれでいくらでも対処はできますけど。」

カトリーヌである。
彼女はここ数日敵の視察をする目的でまつりとリュシーに気づかれないように細心の注意を払いながら2人の行動を見ていた。
「セリーヌの件は良いとしてあのまつりとかいう子の”人形を作る”案は個人的に少し興味がありますわね。」
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