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第二章 クラスメイトは吸血鬼
10.狼さんは不良少女①
しおりを挟むその日の授業は何事もなく過ぎていった。
授業中はもちろん、休み時間も特別用事がなければ月白さんに話しかけることはしない。
僕達はあくまでもただのクラスメイト。それ以上でも以下でもない関係なのである。
「そして、やってきました放課後。人狼ギャングとの決戦の時……!」
放課後になって、僕は人気のない校舎裏にやってきた。
事前に月白さんと話し合い、ここで合流する手はずになっていたのだ。
「八雲さん、あくまで目的は説得ですよ。抗争を回避するために彼女と交渉に行くのが目的であると忘れないでください」
「わかっている、冗談だよ……ところで、人狼ギャングの娘さん――伏影ナズナがいる場所はわかっているのかな?」
「はい、ナズナさんは放課後、仲間と一緒にある場所に行くことが習慣になっているようです。そこに行けば会うことができると思います」
月白さんはそう言って、僕にスマホを見せてきた。
「ここは……クラブってやつかな?」
スマホに表示されていたのは地図アプリで、とある施設にピンが刺さっている。
ピンが示しているのはクラブ……部活動という意味ではなく、酒と音楽、ダンスなどを嗜む娯楽施設だった。
「高校生が入っていい場所じゃないと思うんだけど……本当にここに伏影ナズナがいるのかい?」
「はい。このお店は人狼ギャングが経営している店なのです。夜から開店するのですが、店が開くまでの間、ナズナさんと御友人がたまり場にしているようです」
「ふうん……まあ、場所がわかっているのなら話が速いね。さっさと行ってみようか」
校舎裏で簡単な打ち合わせを終えて、僕と月白さんは連れ立って裏門から外に出た。
目的としているクラブは駅のすぐそば。町の繁華街にあたる場所にある。
時間にして徒歩で30分ほどかけて、僕達は目的の場所へとたどり着いた。
「閉店中……店が開くのは夜からみたいだね?」
僕は店の入り口にかかった『closed』の札を見ながらつぶやいた。
その店はちょっとしたホールのような大きさであり、方形の建物の上に半球状の屋根が載った不思議なデザインになっている。
入口の押し戸に触れてみるが……やはり開く様子はない。開店前なのだから別に不思議はないだろう。
「入口には鍵がかかっているみたいだけど……どうする? 壊そうか?」
後ろにいる月白さんに尋ねるが、彼女はフルフルと首を振った。
「私達はカチコミに来たのではありません。話し合いに来たのです。暴力沙汰は無しにしましょう」
「カチコミね……そういう単語を知ってるあたり、やっぱり月白さんもギャングの娘だよね」
「ッ……! 言わないでください……」
どうやら、無意識にそういう専門用語を使ってしまったのだろう。月白さんは顔を赤くしてうつむいた。
「インターフォンは無さそうだし……それじゃあ、仕方がないね。ナーズーナーちゃーん! あーそびーましょー!」
僕はガンガンと入口の扉を叩きながら、大声を張り上げた。
「や、八雲さん?」
「ナーズーナーちゃーん! 伏影ナズナちゃーん! いるよねー、出ておいでー!」
僕の大声を聞き、道行く人々が怪訝な目を向けてくる。
「何の騒ぎだ? アレって高校生だよな?」
「伏影ナズナって…………誰?」
騒ぎを聞いて、通行人も不思議そうにしている。
ここは未成年者が入るような場所ではない。そんなところで名指しで呼ばれたら、さぞや迷惑なことだろう。
「や、八雲さん! そんなに騒いだら迷惑が……私達だって目立ってしまいますよ?」
「問題ないよー。僕らは隠形系のスキルを使用しているからね」
僕は現在進行形で【忍び歩き】のスキルを使用している。
このスキルは自分の姿を消すものだが、応用技で自分と月白さんの存在を認識しづらくしているのだ。
通行人には高校の制服を着た男女が騒いでいるのは見えても、僕達の顔などははっきりと認識できていないはずである。
「ちょ……何騒いでんだ、ガキども!」
そのままドアを叩いて叫んでいると、店の中からバタバタと足音を鳴らして若い男性が現れる。
バーテンダーのような服装をしていた。ここで働いている店員だろう。
「ここはガキが来る店じゃねえんだよ! さっさと散りやがれ!」
「いやいや、僕の1個上の先輩が来ているはずだけど? 伏影ナズナさん……もちろん、知っているよね?」
「テメエ……その名前、軽々しく口にしてんじゃねえぞ……!」
店員が声を潜めて脅しつけてきた。
どうやら、正解のようである。ここに伏影ナズナがいるらしい。
さて……これからどうしたものか。
店員を説得して通してもらうか。それとも、一発殴って無理やり入るか。
僕は別にどっちでもよかったのだが……月白さんが前に進み出てくる。
「こんにちは。私が誰だかわかりますよね?」
「アンタは……まさか、月白の?」
「ナズナさんに話があって参りました。通していただけますか?」
「…………!」
どうやら、店員も月白さんのことを知っているようだ。
ひょっとしたら、人狼ギャングが彼女を拉致しようとしていることだって知っているのかもしれない。
「いいだろう……通りな」
「へえ? やけにあっさり通してくれるな。確認しなくてもいいのかい?」
「『月白真雪』が来たら店の奥に通せ』……お嬢からそう命じられている。さっさとついてきな」
店員が親指で店の奥を指差し、ついてくるように言ってくる。
「……入りましょう、八雲さん」
「オッケー。行こう」
僕と月白さんは顔を見合わせて頷き合い、敵地であるクラブの中に入っていくのだった。
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