異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

文字の大きさ
上 下
58 / 103
第一章 日下部さん家の四姉妹

50.日下部さん家の四姉妹⑦

しおりを挟む

「やっ……これって勇治の……!?」

「んんっ……弟くんとの間で強いつながりを感じちゃうっ!」

「変な声を出さないでもらえるかな!? 別にエッチなことはしてないからね!」

『智慧の王冠』を発動させると、姉妹がピクピクと身体を震わせて頬を赤く染める。
 まるでエッチな悪戯でもされているような甘い表情に、こっちの方が恥ずかしくなってしまう。

 この加護の能力は自分と信頼しあう人間との間に『リンク』を構成して、心と魂をつなげるというもの。
 少なくとも3人以上の仲間がいなければ使えない能力なのだが……異世界でこの力を使う機会は少なかった。

「5年間も異世界にいたのに、信頼できる仲間と戦ったこと……ほとんどないんだよな」

 異世界で出会った人達は、勇者である僕に従ってくれたり手伝ってくれたりはしたものの、心からの信頼関係を築けた人間は少ない。
 仲間はいた。いたのだが……誰も彼も変わった奴ら。心から信頼できるかどうかわからないような変人奇人ばかりだった。まともな奴もいるにはいたのだが……常識的に見える奴にかぎって僕を勇者として利用したがっている人間だったりして、背中を預けるに値しなかった。
 異世界で『智慧の王冠』を使ったのはほんの数回。せっかく『仲間がいればいい』というわりと制約が軽い能力なのに、宝の持ち腐れにも程がある。

「ユウ? すっごいヘコんでるのが伝わってきてるんだけど? これってすごい変な感じ……」

「お兄様……元気を出してくださいませ。美月がおりますよ?」

「……うん。ありがとう、みんな。色々と言いたいことはあるけど……そろそろ来るぞ!」

 時間経過によって『節制の巨鎧』が解除される。
 絶対防御のバリアーが消えた途端、金色の刃が殺到してきた。

『みんな、避けて』

「ッ……!」

 僕が心に念じると、すぐに四姉妹が動いた。
『智慧』の副次効果による高速演算――そこから攻撃の軌道を算出。殺到する無数の刃の間を縫うようにして姉妹を誘導し、見事に回避させる。

『なんだと!? あの攻撃を躱した!?』

 悪魔王から驚愕の声が漏れる。
『智慧の王冠』によってリンクがつながったことにより、会話をすることなく一瞬で四姉妹に意思を伝えることになる。
 もちろん、効果はそれだけではない。

『華音姉さん、術を使って風夏のサポートを』

「わかったわー、花弁よ舞い散れ――式神『花宴』」

「消えなさい……『破壊』」

 華音姉さんの手から桜吹雪のように無数の花弁が放たれた。
 その術は本来であれば、敵の目を晦ませるだけの攻撃力のない術のはずだったが……舞い散る花びらに触れた敵の攻撃が跡形もなく消滅する。
 僕と姉妹に向けられた攻撃は『消滅の花びら』によって破壊され、僕らを傷つけることは叶わない。

『飛鳥姉、美月ちゃん、合わせて!』

「わかったわ、マ・ジ・カ・ル・サンダアアアアアアアアアアッ♪」

「お兄様の御心のまま……突進せよ、爆炎の山羊よ!」

 飛鳥姉と美月ちゃんが同時に敵を攻撃する。
 飛鳥姉のマジカルステッキから放たれた雷撃が、美月ちゃんの手から放たれた炎の山羊が、合わさって1つの攻撃に変わる。
 圧倒的な攻撃力を持った魔力と邪力の一撃が、一瞬で空に浮かんでいた無数の悪魔を消し去った。

『馬鹿な! 人間ごときがどうしてこんな威力の攻撃を……!?』

「家族の絆ってやつだよ。美月ちゃんと違って、血も涙もない悪魔には理解できないかな?」

 愕然とした悪魔王を嘲り、僕は顔に浮かんだ笑みを深めた。
 これが『智慧の王冠』の力。信頼しあう人間同士の力をかけ合わせることで、本来の能力以上の力を発揮することができる。
 華音姉さんの『陰陽術』は技の効果範囲が広くて汎用性が高い代わりに威力が弱い。そこに一撃必殺でありながら攻撃範囲に乏しい風夏の『超能力』をかけ合わせることで、お互いの弱点を補うような技に変わった。
 飛鳥姉と美月ちゃんはいずれも間接攻撃を得意とするアタッカー。2人の攻撃力をかけ合わせ、互いの長所をさらに引き立てることにより、破壊力と攻撃範囲を爆発的に上昇させたのだ。

「1人1人は弱くても、お互いが力を合わせることで大きな力を発揮することができる。それが人間の強さなんだ。家族のために強くなれる。家族がいるから強くれる。悪魔や妖怪変化、異世界の魔王には決して得られない人間の力だ」

『下等生物が……調子に乗るなアアアアアアアアアッ!!』

 創造の力で生み出した刃を消され、裏世界から呼び出した大勢の悪魔を消し飛ばされ、悪魔王が怒りの方向を上げて4本の腕を振るった。
 黄金の剣が、槍が、斧が……僕達に向けて襲いかかってくる。

『みんな、力を貸してくれ!』

「もちろん! 頑張って、弟くん!」

「やっちゃいなさい、ユウ!」

「負けたら承知しないわよ、勇治!」

「お兄様! 愛してます、抱いてくださいませ!」

 一部、おかしなところがあったが……四姉妹の声援を受けて、僕は悪魔王に向かって飛びかかった。
 スキルにより身体能力の向上。それ以上に、日下部家の四姉妹が持っているさまざまな力が僕に流れ込んでくる。

「式神――『若紫』」

 華音姉さんの力を借りて生み出したのは紫色の剣。陰陽術によって生み出された、武器の形をした式神である。

「『マジカルサンダー』そんでもって『爆炎の山羊』」

 雷光を身に纏い、炎の山羊に跨って……まっすぐに悪魔王に向かって突き進む。
 振り下ろされた黄金の武器を雷撃で弾き飛ばして、爆炎で吹き飛ばす。そんな生半可な攻撃では今の僕を止めることはできない。

『このおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 下等な人間がアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

「ああ、下等な人間だよ。下等で弱くてちっぽけで……そんなただの家族だよ」

 敵の攻撃をかいくぐい、刀剣の式神である『若紫』を悪魔王の身体に叩きつけた。瞬間、風夏の超能力である『破壊』の力を上乗せする。
 先ほどのように仕留め損なうような間抜けなミスは侵さない。一撃で金色に輝く相手の身体を、その奥深くにある魂までもを斬り裂き、確実に消滅させる。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ……』

 地獄の底から響いてくるような絶叫を上げながら、悪魔王が消滅していく。
 悪魔の頂点に君臨する王であるはずの男が、誰にも看取られることすらなく孤独に消えていった。

 彼らはこの世界に、表世界に侵略なんてするべきではなかったのだろう。
『家族の絆』という人間の最大の武器を知らないくせに、僕達に挑んでくるべきではなかったのだ。

 黄金の巨人は欠片すらも残さずに消滅していき……後には、破壊された公園と僕ら家族だけが残されたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...