異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

文字の大きさ
上 下
49 / 103
第一章 日下部さん家の四姉妹

43.四女はエッチな悪魔ちゃん⑦

しおりを挟む
 この世界の隣にはもう1つの世界が存在する。

 僕が転移したような異なる時空にある世界とは違う。
 ここでいう『もう1つの世界』とはコインの裏表のことであり、僕達の世界と同じ場所でありながら、決して歩いていくことはできない異なる空間に『裏側の世界』は存在していた。

 裏側の世界の住人には、表側の住人と異なり実体がない。
 肉体を持たない魂だけの存在であり、それゆえに肉体に縛られた表の住人よりも大きな力を有していた。
 裏側の住人はたびたび表側にやってきている。肉体を持たぬがゆえに人々の身体に憑依して、様々な事件を引き起こしていた。

 表側の住人は、裏側の住人をこう呼んだ――『悪魔』と。


     〇          〇          〇


「私がこの世界にやって来たのは、もう7年近くも昔のことになります。ちょうど、日下部家の皆様が山にハイキングに訪れたときのことです」

 謎の怪物高校生の襲撃から十数分後。僕達は町はずれにある公園にやってきており、話をしていた。
『僕達』というのは僕と、美月ちゃん……日下部美月の名前と身体を借りた悪魔のことである。

「日下部家の皆様……四姉妹と両親が山に訪れたとき、ちょうど私はこの世界にやってきていました。そして、器となる肉体を探していたところ、偶然にも両親と末っ子の娘が崖から転落した場面を目撃しました。両親の身体は無数の骨折があって頭部もグチャグチャになっていましたが……奇跡的なことに、両親に抱きかかえられていた末っ子の娘は原形を留めていたのです」

 公園のブランコに腰かけて、美月ちゃんがぶらぶらと脚を揺らしながら説明する。
 俺はジッと黙り込み、いつもと異なり流暢な声で語られる説明に耳を傾けた。

「とはいえ……その娘もすでに魂が抜け落ちていました。心肺機能は修復可能な程度の損害でしたけど、魂が抜けている以上はもう助かりません。そこで……私は幼かったその娘の身体に憑依して、もらい受けることにしたのです」

「まさか……そんなことがあったなんて……」

 美月ちゃんが語っているのは、かつて起こったという両親の死についてである。
 華音姉さんからその話は聞いていたが……まさか、その時に日下部美月も絶命しており、悪魔が乗り移っていたとは思わなかった。

「ちなみにだけどさ、普段から無口なのはボロを出さないように演技してるってことかな?」

「いえ、悪魔のエネルギーである邪力を温存しているために感情の起伏が抑制されてしまっているのです。演技というわけではなく、あれは私の別人格……たとえるなら『スリープ美月』というところでしょうか?」

「ふうん……それは何というか、ホッとしたような?」

「私は「日下部美月」として3人の姉と共に生きてきました。悪魔であることを悟られぬよう、隠しながら」

「えっと……さっきの3人も悪魔ってことでいいのかな? 君の故郷であるというその……世界の裏側からやって来たっていう」

「はい、その通りでございます。彼らは『表世界』を侵略するためにやってきた尖兵。悪魔の雑兵です。私はこの身体を自由に動かせるようになったときより、彼ら……悪魔軍と戦い続けてきました。人間達が生きるこの世界を守るために」

「……何というか、その設定って大丈夫なのか? 昭和の名作マンガと一緒なんだけど?」

 その設定でいくとなると、美月ちゃんは最終的に守り続けてきた人間の手によって大切な存在を奪われ、絶望して全てを無に帰そうとするのだが……うん、メタいからこれ以上は考えるのをやめておこう。

「それにさ……どうして悪魔である君が人間サイドに立って戦っているのかな? 君が奴らと同じ悪魔だって言うのなら、アッチにつくほうが自然だろう?」

「……実のところ、最初はそのつもりだったのです。私は悪魔軍の上級兵士として人類を殺戮するために『表世界』に送り込まれました」

 美月ちゃんはキュッと唇を噛んで、「だけど!」と強い口調で言う。

「私は人間の美しさを、温かさを知ってしまったのです! 私が偽物であることを知らず、愛情を注いでくれる3人の姉と出会って、血のつながりもないのに全身全霊で私を愛してくれるお兄様と出会って……悪魔よりも人間のために戦いたいと思うようになったのです!」

「ふーん、そうなんだ……」

 血を吐くように辛そうな表情で語る美月ちゃんであったが……そんな顔を見て、俺は却ってホッと安堵した心境になっていた。

 ずっと大切な妹のように思っていた少女が実は偽物で、おまけに悪魔だった。
 うん、衝撃的なことだと思う。受け入れがたい真実のはずだ。
 しかし、僕が驚いていたのは最初だけ。事情を知った今では、『二度あることは三度あるって言うし、四回目もあるんじゃね? やっぱり美月ちゃんもそうだったのかー』という程度の感慨しかなかった。

 だって、そうだろう?
 僕と兄貴が日下部家の隣に引っ越してきたのは5年前。つまり、僕らが出会った頃には美月ちゃんはすでに悪魔だったのだ。
 幼くして亡くなってしまった本物の日下部美月は気の毒に思うが……僕にとって本物の美月ちゃんは目の前にいる幼女である。他にはいなかった。

「悪魔であろうと何であろうと……僕にとっては君が美月ちゃんだよ」

「お兄様……」

「理由や経緯は関係ないよ。君に僕の愛情が伝わっていたことが嬉しいよ」

 だから、僕は素直な感想を口にした。
 美月ちゃんはずっと無表情で言葉も少ない。僕の思いが伝わっているのか心配だったのだが……そんな思いがまさに成就した気分だ。

「やはりお兄様は敬愛すべき男性です。私の思った通り、聖人のように清らかで尊い御方……」

「そこまで言われるとちょっと照れるんだけどね。家族を愛していることを、そこまで褒められるのは大袈裟だよ」

 僕は肩をすくめて、「コホン」と咳払いをして説明の続きを促した。

「ところで……さっきの3人も悪魔に憑依されているってことでいいんだよね。元から悪魔だったわけではなくて」

「はい、先ほどの3人は間違いなく悪魔に憑りつかれていました。私は裏切り者として悪魔軍に命を狙われていますから。彼らはお兄様ではなく私を狙っていたのでしょう」

「その割には僕のことを「殺す殺す」言ってたけどなあ」

「彼らは『日下部美月』のように死亡して魂を失っているわけではありませんから。1つの肉体に人間と悪魔の2つの魂が同居しているため、人間としての感情や記憶に引っ張られてしまったのでしょう。あの3人に恨まれる覚えはありますか?」

「あー……無きにしも非ずかな? 完全な逆恨みだけど」

 あの3人がいつ悪魔に憑かれたのかは知らないが……悪魔の力を使ってまで復讐されそうになったのだから、迷惑な話である。

 溜息を吐いた俺を見て、美月ちゃんは申し訳なさそうに眉をへの字にする。

「おそらく、これからも悪魔軍は私に刺客を送って来ることでしょう。今回の3人は倒しましたけど、本体の悪魔は逃げてしまいました。場合によっては、私に助力したお兄様も狙われてしまうことになるかもしれません」

「オッケー。事情は分かったよ。それで……これからどうする?」

「どうすると言いますと……?」

「夕飯、寿司を食べに行くんだろ? 気分が変わってないのなら、風夏に連絡してこのまま行っちゃうけど?」

「フフッ……」

 シリアスな話から夕飯の話題にシフトチェンジすると、美月ちゃんが破顔する。

「食べに行きましょう。戦ったら、お腹がすいてしまいましたわ」

「ん、それじゃあ風夏に連絡するよ。あんまり連絡が遅いとまたツンデレ妹に怒られちゃうからね!」

 僕はおどけたようにアヒル口になりながら、ポケットのスマホを取り出した。
 風夏にMINEのメッセージを送って駅前で待ち合わせをする旨を伝えて、制服の胸ポケットにスマホを滑り込ませる。

「よし! それじゃあ、行こう。美月ちゃん!」

「はい、おにいさ……!?」

 美月ちゃんの表情が驚愕に染まった。
 普段は無表情だが、正体を明かしたことで感情が豊かになっている幼い美貌が戦慄に凍りついている。

「っ~~~~!?」

 理由を問おうとして口を開き……そこで僕は、ようやく声が出ないことに気がついた。
 遅れて、胸から痛みが込み上げてくる。恐る恐る視線を下ろすと、胸元から奇妙なオブジェが植物のように生えていた。

「ッ……!?」

 いや、違う。
 生えているんじゃない。刺さっているんだ。

 ナイフは明らかに心臓を貫いている。どう考えても致命傷である。
 身体から全ての生命力が抜け落ちていくのを感じ取り、僕は最期の力を振り絞って美月ちゃんに手を伸ばした。

「みつ、ちゃ……にげ、ろ……!」

 僕は辛うじてそうつぶやき、うつ伏せになって倒れたのであった。






 八雲勇治の次回作にご期待ください。

 DEAD END
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...