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第一章 日下部さん家の四姉妹

36.次女はキュートな魔法少女⑪

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 エルダーと呼ばれる侵略者との戦いが終わり、レジャー施設の屋上に平穏が戻ってきた。
 壊れた建物は飛鳥姉――エクレア・バードの魔法によって修復されている。
 ダメージを負っていたエクレア・バードであったが、僕がアイテムボックスから取り出したポーションによって魔法が使えるまでに回復したのだ。

「……ユウのすけべ」

「何というか……最近はこんなことばっかりだよね」

 修復された屋上の片隅。変身を解いて元の姿に戻った飛鳥姉が、こちらを半眼になって睨みつけてくる。
 飛鳥姉が着ていた服はボロボロになって黒い下着が丸出しになっていた。
 今は僕の上着をむしり取って羽織っているが、つい先ほどまで見えてはいけない場所まで露出しており、さすがに恥ずかしそうにしている。

 以前、僕に着替えを見られた時はそれほど動揺していなかったと思うのだが……どんな違いがあるというのだろうか。

「何というか……建物とか人は治せるのに、自分の服は治せないのかな?」

「魔法少女に変身している間は着ていた服は消えちゃうから、治しようがないのよ。変身を解いたら魔法が使えないし」

「なるほど……魔法って便利なようで、意外と使い勝手が悪いよね」

 僕は溜息を吐きながら、両手の指を握ったり開いたりして手の感触を確かめる。
『滅殺術』の自爆攻撃によって傷ついた両腕だったが、これもエクレア・バードの魔法で治してくれた。
 ポーションを使っても完全治癒するまでには1週間以上はかかると思ったのだが……本当に大した魔法使いである。

「飛鳥姉はさ、1年前からずっとエルダーと戦っているのかな?」

 屋上の床に腰を下ろして身体を休めながら……僕はポツリと尋ねた。
 先ほど、飛鳥姉は言っていた。魔法少女になったきっかけがエルダーに襲われた僕を助けるためだと。
 もしも自分のせいで飛鳥姉が危険な道を選んでしまったというのなら、激しく責任を感じてしまう。

「そうだけど……別にユウが気にする必要はないわ。アタシには魔法の才能が有るらしいから、たとえユウが襲われずとも、いずれは魔法少女になってたと思う」

「それでも……僕がきっかけなのは変わりない。気にしないとか無理だってば」

 飛鳥姉が危険な目に遭う原因になってしまった。大好きな姉を危ない道に引き込んでしまった。
 それは僕にとって許しがたい失態である。もしもその時の記憶が残っていたら、自分で自分を絞め殺したくなるだろう。

「せめて償いはさせて欲しい。もしもこれからもエルダーと戦うのならば、僕にも手伝わせてよ」

「ユウ……」

「僕はもう、お姉ちゃんの背中に隠れて守ってもらうだけのいじめられっ子じゃない。これからは僕も戦う。僕が飛鳥姉を守るよ」

「…………」

 飛鳥姉はしばし目を瞬いて固まっていたが……やがて悪戯っぽく微笑んだ。
 それはいつもの飛鳥姉の顔だったが、心なしか頬が朱に染まっているような気がする。

「それは殺し文句でしょ。まったく……生意気な弟ね」

「わっ!」

 飛鳥姉が僕の首を掴み、自分の胸元に引き寄せてくる。黒いブラジャーに包まれた豊満なバストに顔が吸い込まれてしまう。

「いいわよ! これからも子分としてこき使ってあげるから覚悟しなさい! ユウは一生、アタシの召使いなんだからね!」

「ムグッ……」

 深い谷間に押しつけられて、抗議の言葉は言葉にならずに消えてしまう。

 寄り添って抱き合うような形になった僕達を、魔法みたいに綺麗な夕焼けが照らしているのだった。

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