異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

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第一章 日下部さん家の四姉妹

33.次女はキュートな魔法少女⑧

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「ううっ、どうしてユウがこんな所にいるのよ……見られた、見られちゃった……もう死ぬ。死んじゃう。恥ずか死ぬ……」

 彼女はその建物の屋上にいた。
 日下部家の次女――日下部飛鳥は、エクレア・バードに変身したままの状態で、屋上の隅っこで頭を抱えて項垂れている。
 マウントゼロの屋上は施錠されており、関係者以外は立ち入り禁止になっていた。
 エクレア・バード以外の誰の姿もない。隠れて落ち込むにはうってつけの場所と言えるだろう。

「それにしても……ユウの手にあった剣は何だったのかしら? 魔力は感じなかったけど、不思議な威圧感があったし……ひょっとして、ユウにもアタシと同じような魔法の力が……」

「いや、ないよ。そんなもの」

「そうよね、ないわよね。魔力があったらアタシが気がつかないわけが……!?」

 エクレア・バードが弾かれたように顔を上げた。
 金色の瞳に、再び僕の顔が映し出される。

「ヒイッ!? どうしてここにっ!?」

「いや、僕は魔力が少ないからほとんど魔法は使えないけど、探索系のスキルはあるから。こんな大きな魔力の塊を見逃すわけないし」

「え、ええっ!? き、記憶を消去されてない!? どうしてアタシの魔法が利かないの!?」

「いや、精神魔法を妨害するスキルを持ってるし」

「スキルって何!? ワケのわからないこと言わないでー!?」

「いや、訳のわからない格好してる人に言われたくないんだけどね」

 僕は呆れながら……できるだけゆっくりと、言い含めるように話す。

「飛鳥姉……申し訳ないんだけど、僕はあなたの正体に気がついている。どうしてそんな恰好をして化け物と戦っているのか……説明する気はあるかな?」

「…………」

「そっか。説明したくないのなら無理には聞かないよ。話してくれない場合、僕の中で飛鳥姉は休日に魔法少女のコスプレをしてステッキを振り回し、「バビッ!」とかポーズ決めて『♪』マークを連発するのが趣味ってことになるけど……まあ、家族だから受け入れるよ」

「説明する! お願いだから説明させて!」

 エクレア・バードが慌てて悲鳴のような声を上げる。
 どうやら、魔法少女をやっていることを恥じ入る気持ちはあるようだ。

「ちゃんと説明するわよ……変身解除」

「おおっ!?」

 エクレア・バードの身体が黄色い光に包まれ……次の瞬間、ロングパーカーとショートパンツという服装の飛鳥姉の姿があった。

「ん? そいつは……?」

 幼女から20歳の大学生の姿に戻った飛鳥姉だったが……その肩の上には、イルカをデフォルメしたような黄色い生物がフワフワと浮かんでいる。

「この子は『エクレア』。地球の自浄作用によって生み出された、雷の精霊よ」

「精霊……?」

 飛鳥姉の諦めたような説明に、僕は何度も瞬きを繰り返す。

 精霊というのは炎や水のような自然物から生み出された生命体のことである。
 異世界に召喚された際にその存在について知識として知っていたが……実際に見たことはなかった。
 精霊は人見知りで気に入った人間の前にしか現れない。そして、精霊に気に入られるのは魔法の才能に溢れた選ばれた人間だけ。

 僕は女神の加護を得ていたものの、魔法の才能は全くなかった。
 スキルと加護で魔王と戦っていたが……実のところ、魔力はほとんどないのだ。

「1年ほど前ね、エクレアがアタシの前に現れた。『地球を守るために魔法少女になって戦って欲しい』ってね」

「1年前……」

 というと、飛鳥姉が19歳の頃からか。
 思ったより最近だ。大学生になってから魔法少女になったのかよ。

「地球は侵略を受けている。さっきアタシ達の前に現れた『エルダー』という地球外生命体によって。そして、エクレアはそんな外敵の侵入に立ち向かうため、地球が生み出した『自浄作用』なのよ」

「つまり……外から入ってきたバイ菌を倒す免疫ってことかな?」

「ええ、そうね。その理解で正しいと思うわ。風、水、炎、氷、大地、そして……雷。エルダーの侵略から地球を守るために、自然から生まれた精霊がアタシ達を魔法少女にしたのよ。アタシ以外の魔法少女には会ったことないけど」

 飛鳥姉が頷いた。
 彼女の話をまとめると――地球が『エルダー』という侵略者に襲われており、彼らから世界を救うためにエクレアという精霊が飛鳥姉を含む女性らを魔法少女にした……ということだろう。

『アスカ、この男……おかしな力を持っていますよ!』

「しゃべった!?」

 突然、黄色いイルカが口をきいた。
 低くて威厳がある男性のバリトンボイスである。イルカをデフォルメした可愛い外見には似合わぬ渋い声だった。

『私には魔力以外の力を感知する力はありませんが……おそらく、『神力』か『邪力』の持ち主です。神か悪魔の恩恵を受けています』

「ええっ!? ユウ、そうなの?」

「えーと……たぶんね。神様から加護を貰っている」

 今度はこちらの事情を説明したほうがよさそうだ。
 僕は自分が異世界に召喚されて勇者をしていたことを、かいつまんで説明した。

「ユウがそんな目に遭っていたなんて……全然、気がつかなかった」

「そりゃあ、こっちの時間的には1分も経っていないからね。むしろ、飛鳥姉が1年前から魔法少女をやってたことが驚きだよ……19歳で魔法少女になるのを同意したんだね」

「……年齢のことは言わないでよ。アタシだって気にしてるんだから」

「……そうなの?」

 わりとノリノリだったような気がするのだが……その辺りは指摘しないであげたほうがいいのだろう。
 飛鳥姉は表情を引きつらせて、ゆっくりと首を振った。

「魔法少女全員が持っている能力として、『時間を戻してエルダーの被害をなかったことにする』、『エルダーに襲われた人の記憶を消す』という魔法があるのよ。覚えてないと思うけど……アタシが魔法少女になったのは、ユウがエルダーに襲われちゃったのを助けるためなんだけど?」

「え、そうなの!?」

 だとしたら……かなり申し訳ないことである。
 僕がエルダーに襲われて、それを助けるために飛鳥姉が精霊と契約して魔法少女になってしまったのなら、かなり責任を感じてしまう。

「言ってよ……そういう大事なことは」

「巻き込みたくなかったんだってば! ユウだって勇者をしてたこと、黙ってたでしょ?」

「そりゃあ、ねえ……ところで、飛鳥姉は『陰陽師』とか『超能力』とかについては知ってるのかな?」

「……急に何を聞くのよ? 陰陽師とか超能力とか……そんなのあるわけないじゃない」

 どうやら、飛鳥姉は自分の姉妹が抱えている秘密については知らないようだ。
 恐らくではあるが、華音姉さんや風夏も飛鳥姉の秘密には気がついていないだろう。

『陰陽師というのは『霊力』という力を使う者達。超能力者は生まれつき『異能』を持った者達を指すものです。神の加護を得た『神力』、悪魔と契約した『邪力』と同じく、精霊や魔法少女とは無関係な存在です。私も存在は知っていても会ったことはありませんね』

「そうなの? ユウはどうしてそんなことを聞くのかしら?」

「それは……」

 エクレアの説明、そして飛鳥姉に問い詰められて、僕は言葉を噛んだ。
 風夏と華音姉さんの秘密について明かすことは簡単だが……僕の口からそれを話すのはフェアではない気がする。
 秘密を明かすのであれば、それは彼女達自身の口から語られるべきではないだろうか?

 僕はどうにかして誤魔化そうと言葉を選ぶが……その必要はなかった。

『RYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!』

「ッ……!」

「なっ……!?」

 突如として、頭上から建物の屋上に何かが落下してきた。
 ドカンと派手な音をあげて屋上の床に大きな罅割れを作ったのは、巨大なカマキリのような形状の怪物である。
 3メートルほどの大きさの巨大カマキリは顔の部分が細かい触手によって覆われており、左右の手には鋭い鉤爪のようなものを有していた。
 触手に覆われた頭部には目も鼻もないのだが、『ソレ』が自分達を見ていることはハッキリとわかる。

『RYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEY!!』

 鼓膜を突き破るような高い鳴き声を放って、奇妙な触手を生やした巨大カマキリがこちらに向けて襲いかかってきたのである。

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