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第一章 日下部さん家の四姉妹

32.次女はキュートな魔法少女⑦

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「出たわね、宇宙からの侵略者! みんなをイジメる悪い子は、エクレア・バードがお仕置きしちゃうぞ♪」

 飛鳥姉……改めてエクレア・バードが『稲妻』のオブジェ付きのステッキを振るうと、稲光がバチバチと音を鳴らす。
 ステッキから放たれた雷撃が暴れている触手モンスターを次々と撃ち抜き、その数を減らしていく。

「すごっ……『魔導師』いや『賢者』クラスか?」

 かなり強力な攻撃魔法である。
 アチラの世界でも使うことができる人間が限られているような強力な魔法だった。

 エクレア・バードが現れてから1分と経たぬ間に、フロアに侵入していた触手モンスターは残らず殲滅されてしまった。

「エクレア・バードちゃんの大・勝・利♪ 今日も地球を守っちゃったぞ♪」

「…………何やってんの、飛鳥姉」

「何度やってきたって、宇宙からの侵略者は…………へ?」

 ステッキをかざして奇妙なポーズをとっているところに声をかけると……エクレア・バードがキョトンとした顔でこちらを振り返る。
 黄色の髪が揺れて、金色の眼に僕の姿が映し出された。

「へ…………ゆ、ユウッ!? 何でここに……いや、そうじゃなくってっ!?」

「…………」

「あ、アタシは飛鳥なんかじゃないぞ♪ 私の名前はエクレア・バード。悪い侵略者から地球を守る愛と魔法の戦士で……」

「……でも、飛鳥姉だよね?」

「ッ……!」

 冷静に指摘すると、魔法少女の格好をした飛鳥姉……エクレア・バードがダラダラと顔から汗を流す。

 その姿は何というか……非常に痛々しい。

 だって、飛鳥姉って今年でもう20歳だよ?
 幼女化しているからそれっぽく見えなくもないけれど、実年齢を知っているこちらとしては見ていられない。
 変身して戦う魔法少女のアニメは数多いが……不老不死で年を取らない人とかを除いて、20歳の魔法少女ってさすがにいないのではないだろうか?

「飛鳥姉……そんな恰好をして可哀そうに……。今年、成人式だったのに。もうお酒も飲める年頃なのに……!」

「ま、マジ泣きしないでくれる!? アタシだって好きでこんな服装は……いや、そうじゃなくって!」

 エクレア・バードがステッキを振りかざす。再び魔力が彼女の身体から放出される。

「みんな、みんな……元に戻っちゃえ♪ 時の流れをボカンと粉砕、ターイム・ボンバー♪」

「わあっ!?」

 瞬間、僕は周囲の時間が停止するのを感じた。
 時計も、生きている人間も、動いているゲームセンターのマシンも。
 あらゆるモノの時間が停止して……次の瞬間、まるでDVDを逆再生したかのように巻き戻っていく。
 壊れていた建物や機械が修復されていった。触手モンスターに食べられた人達の火傷が治癒されていく。まるで怪物の襲撃なんてなかったかのように。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 そして、再び時間が動き出す。
 ゲームセンターのマシンが動き出して、スピーカーからは軽快なBGMが流れ出す。
 あらゆるものが触手モンスターの襲撃前に戻された。違うことと言えば、僕とエクレア・バードが向かい合って立っていること。
 そして、このフロアにいる人間の表情がぼんやりと、まるで白昼夢でも見ているかのようになっていることである。

「じ、事件はバビュッと解・決♪ それでは……さらばっ!」

「あっ!」

 バチリと雷光が走り、エクレア・バードがどこかに消えてしまった。
 転移魔法でも使ったのだろうか? 目にも止まらぬほどのスピードである。

「うわっ! ゲームオーバーだ!」

「ママ―、このゲームやっていい?」

「ねえねえ、あの人形とってよ」

 エクレア・バードが消えると、ぼんやりしていた人々の表情に理性の色が戻ってくる。
 どうやら、何らかの魔法によって施設内の時間が戻されたようである。自分達に起こった事実にすら気がついていない。

「時空魔法、それに精神魔法も応用されているのか? どうして、こんな超高等魔法を飛鳥姉が……」

「クックック……このコーヒーを飲ませれば、あのデカ乳は僕のものに……揉んでやるぞ、吸ってやるぞ、噛んでやるぞ……!」

「…………」

 僕は手に握っていた聖剣を消して、自動販売機の前で馬鹿をやっている男の背中に蹴りを叩き込んだのであった。
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