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第一章 日下部さん家の四姉妹
31.次女はキュートな魔法少女⑥
しおりを挟む「うわあああああああああああああっ!?」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
壁から飛び出してきた異形のモンスターが真緑の触手を伸ばして攻撃してきた。
飛び退いて攻撃圏内から離れた僕はともかく、その場で硬直していたヤリサー男は触手に絡めとられて捕まってしまう。
「ヤリサー男!」
「た、たすけ……ぎゃあああああああああああああっ!?」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
ヤリサー男が触手に飲み込まれていく。
手足を無茶苦茶にふり回して抵抗するも、触手モンスターにはまるで効力がなく、ズブズブとその身体が消えていった。
「ヤリサー男……なんてこった!」
体長2メートルほどの触手モンスターはどうやら見た目以上に厚みがあるらしい。ヤリサー男の身体は触手の中に完全に飲まれて見えなくなってしまった。
ようやく良い奴かもしれないと認めはじめたというのに……何ということだろう。
「……お前のことは忘れないよ。ヤリサー男」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
どうやら、次は僕にターゲットを移したらしい。
触手モンスターが今度はこっちに触腕を伸ばしてきた。
「クッ……!」
ヤリサー男に攻撃しようとしていたことで、『忍び歩き』の効果は解除されている。再発動まではクールタイムがあった。
仕方がなしに、僕はアイテムボックスから取り出した剣で触手を切り裂いた。
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
触手を斬った途端、紫色の煙が傷口から発される。そのガスを吸い込んでしまうと、甘い匂いと共に強烈な痺れに襲われた。
「毒……!」
慌てて『解毒』スキルを発動させて、体内に吸い込んだ毒物を除去する。
危ないところだった。わずかに吸い込んだだけでもあの痺れ……もしも大量に吸い込んでいたら、横隔膜や心筋まで麻痺して呼吸困難や心筋梗塞に陥っていたかもしれない。
「厄介だな……これじゃあ、迂闊に攻撃できないじゃないか……!」
襲いかかってくる触手を躱しながら、僕は大きく舌打ちをした。
僕が吸い込んだ毒はスキルによって除去できる。しかし、空気中に拡散した毒を施設内にいる他の人達が吸ってしまったら、どれだけの被害が出るかわからない。
「この建物には飛鳥姉だっている……いったい、どうすれば……!」
「キャアアアアアアアアアアッ!」
「何だコイツら!?」
「化け物だ! うわあああああああああ!?」
「これは……!」
壁に空いた穴から、次々と目の前にいるのと同じような触手モンスターが現れた。
数は10体以上。うねる粘性の腕を使ってゲームセンターで遊んでいた若者を次々と捕まえて、触手の中に取り込んでいく。
「日本はいつからこんな危険地帯になったんだ!? アッチコッチに化け物ばっかりじゃないか!」
あまりにも理不尽な出来事に叫んだ。
危険な異世界で魔王を倒して帰ってきたはずなのに……どうして、こんなに危ない目にばかり遭わなくてはいけないのだろう。
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
「クソッ!」
こちらに伸ばされた触手を蹴り飛ばして、触手モンスターから距離をとった。
そうしている間にもあちこちから悲鳴が上がっている。悲鳴の中に飛鳥姉の声はないが……いつ大切な家族の叫び声が聞こえるかわからなかった。
「迷っている時間はない……全身全霊、全力で潰す!」
僕は女神の加護を発動させた。
発動させた能力は『正義の聖剣』。世界に仇なす、人類の敵を討ち滅ぼすことができる聖剣である。
この能力を使うことができたということは、目の前にいる触手モンスターは『世界の敵』あるいは『人類の敵』ということになる。
「宇宙からの侵略者か、それとも異世界からやってきた漂流者か……どっちにしても、僕の家族を傷つけるかもしれないヤツを生かしてはおかない!」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
「滅びろ! 神の怒りを喰らいやがれ!」
光り輝く刃を叩きつけると、触手モンスターがサラサラと砂のように崩れ落ちて消滅した。
『正義の聖剣』は目の前にいる世界人類の敵に対して特攻を有する剣。この剣で斬られれば、毒ガスすら発することを許さず滅殺することができる。
「う……」
消滅した触手モンスターの体内から、取り込まれたはずのヤリサー男が倒れ出てきた。
生きていたようだが……その身体は酸性の薬品をかけられたように、全身が爛れてしまっている。
体内を毒ガスで満たした怪物に喰われたのだ。これくらいで済んだだけマシと言えるかもしれない。
「……ちゃんと助けられなくて悪いね。だけど、生きていただけマシだと思ってくれ」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
「1匹たりとも逃がしはしない! どいつもこいつも消し飛べ!」
フロア内で暴れている触手モンスターを次々と聖剣で斬り裂いていく。倒された怪物の中から哀れな被害者が転がり出てくる。
誰も彼も火傷のような傷を負っているが、食べられてから間もなかったためか、ヤリサー男ほど酷い傷を負っている者はいなかった。
「やだやだやだっ! こないでよう!」
「ッ……!」
甲高い悲鳴にふり返ると、コインゲームの陰で襲われている女の子がいた。
小学生くらいの女の子のすぐ前には触手モンスターが迫っており、今にも食べられてしまいそうだ。
「くっ……不味い!」
僕はすぐさま女の子を助けようとするが、直線状に2体の触手モンスターが立ちふさがる。
間に合わない。このままでは女の子が食べられてしまう。
「この……邪魔をするな!」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
「きゃああああああああああっ!」
目の前にいる2体の怪物を最短時間でやっつける。
だが……その時にはすでに女の子が触手モンスターに捕まっており、体内に取り込まれようとしていた。
すぐに助ければ死にはしないだろうが……身体に火傷を負ってしまうのは避けられない。
「クッ……!」
「やだやだやだああああああああああっ!」
女の子の悲痛な叫びがフロア内に響き渡る。
僕は1秒でも、一瞬でも早く女の子を怪物の体内から救い出すため、床を強く蹴った。
だが……次の瞬間、さらに予想外の事態が発生する。
「マジカル・サンダー!」
「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!?」
突如として轟音が生じて、紫色の稲妻が怪物を撃ち抜いた。
触手に捕らえられていた女の子が床に転がり落ちて、真っ黒な炭の塊になった触手モンスターが残される。
「今のは……魔法だって!?」
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それは僕が異世界で何度となく目の当たりにして、時には苦しめられる原因になった『魔法』と呼ばれる技術である。
「いったい、誰が……!?」
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そこにいたのは……黄色くて派手なフワッフワッなドレスに身を包んだ幼女である。
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こんな小さな幼女があの怪物を倒したのか……それも驚きだったが、それ以上に僕の心を揺さぶる事実があった。
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