異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

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第一章 日下部さん家の四姉妹

22.長女は美人な陰陽師④

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「ううっ……自分が情けない……」

「弟くんは恥ずかしがり屋ですねえ。お姉ちゃんに抱き着いたって良かったんですよ?」

 どうやら……僕は自分が思っていた以上のヘタレだったらしい。
 服を脱ぎ捨ててルパンダイブを決めようとした僕であったが……すんでのところで思いとどまり、おっぱいに飛び込もうとする身体を停止させた。
 死んだ兄貴の顔。風夏と飛鳥姉、美月ちゃんの顔が頭をよぎり、四姉妹の長姉である華音姉さんに飛びかかるのを躊躇させたのである。

 結局、僕と華音さんは服を脱いだだけで抱き合うことはなかった。庵にあった縄を2本の柱につなぎ、そこに服をかけて乾かすだけに留まったのである。

「それで……事情を話してもらえるんですよね?」

 裸で毛布に身体を包み、僕は炉端に挟んで対面に座っている華音姉さんに問いかけた。

「もしも話したくないというのなら、説明しなくてもかまいません。家族の秘密を無理に聞き出したくはありませんから。ただ……華音姉さんが何かトラブルに巻き込まれていて、危ない目に遭っているのなら話してください。あなたの力になりたいんです」

「弟くん……」

 真摯に訴えかけると……華音姉さんが感極まったように両目に涙を浮かべて、両手を合わせた。
 その拍子に身体を覆っている毛布がずれて色々と丸見えになっていたが、それくらいは見ても許されるだろう。

「……ちゃんと説明しますよ。すでに私は弟くんを巻き込んでしまいましたから。説明させてください」

 華音姉さんが真剣な顔になって言ってくる。
 オレンジの炎に顔を照らされながら、意を決したように語り始めた。

「弟くんは知らないと思いますけど……この世界には悪霊や妖怪と呼ばれる普通の人には視ることができない魔物がいて、人間に害をなしています。お姉ちゃんはそんな闇の世界の住人を退治することを生業としている『陰陽師』なの」

「陰陽師って……」

 え、マジで?
 陰陽師って安倍晴明とかのことだよね。結構前にブームになって、映画とかドラマにもなったというあの『陰陽師』のことか?

「厳密に言うと、陰陽師を統括している『陰陽寮』という組織は大昔に解体されていますから。あくまでもその流れを汲んでいる退魔師ということになりますね」

「えっと……いつから陰陽師をやっているんですか?」

「母方の祖母が陰陽師をしていて、お姉ちゃんはその後を継いだんですよ。母や妹達は素質がなかったからそのことを知らないのだけど。陰陽師としての活動は高校生の頃からやっていますよー」

「高校生……」

 僕と兄貴が日下部家の隣に引っ越してきた頃からだ。
 つまり、華音姉さんと出会ったときには、すでに陰陽師として悪霊やら妖怪やらと戦っていたのか。

「……そのことを兄貴は知っていたのかな?」

 1年前に死んだ兄は華音姉さんの秘密を知っていたのだろうか?
 知らないままに結婚して亡くなってしまったというのなら、ちょっとだけ憐れな気もする。
 僕の問いかけに、華音姉さんはコクリと頷いた。

「知っていた……というよりも、玲さんも退魔師の才能を持っていたのよ。私の仕事を手伝ってくれていたの」

「兄貴が!?」

 完全に初耳である。
 兄貴――八雲玲一とは15年の歳月を一緒に過ごしたが……そんなそぶりは全くなかった。悪霊や妖怪が見えていることも聞いたことがない。

「玲さんは嘘をつくのが上手だったから。お姉ちゃんのおっぱいにバブバブしてたのも、弟くんは知らなかったでしょう? 時々、おしゃぶりだって口にくわえてたんですよ?」

「知らなったし、知りたくなかった……クールな顔して何やってんだよ兄貴」

 僕は肩を落としながら、身振りで話の先を促した。

「今回、弟くんがこんな目に遭っているのも、お姉ちゃんが巻き込んじゃったせいなの。弟くんをこんな場所に連れてきて、怪物に襲わせたのは『狛老鬼はくろうき』という名前の妖魔。かつて私と玲さんが戦って、倒しきることができずに封印した相手なのです。封印を解いて、復讐のために戻ってきたみたいです」

「僕が襲われたのは兄貴の弟だからですか? 死んだ兄貴の代わりに僕を殺して、恨みを晴らそうとしてるってこと?」

「それもあるかもしれませんけど……弟くんと玲さんって、魂の気配がすごく似ているんですよ。たぶん、狛老鬼は玲さんを襲ってるつもりで、弟くんをこの結界の中に閉じ込めたのだと思うわー」

「兄貴の……似てるって、そんなこと初めて言われたけど」

 僕と兄貴は正真正銘、血のつながった兄弟である。
 しかし、顔立ちはまるで違う。兄貴がクールな顔立ちのイケメンであるのに対して、僕は平凡で特徴のない顔立ち。人から似ていると言われたことは1度もなかった。

「魂の気配と外見は関係ないのよ。弟くんも、玲さんも、どちらもとっても柔らかくて力強くて安心する魂の色をしているわ」

 華音姉さんはそう言って、懐かしむような瞳で僕を見つめてくる。
 僕を通して兄貴のことを思い出しているのだろうか。自分を見ているはずなのに遠くを見ているような眼差しには、何故か胸がチクリと痛む感触がした。
 おそらく傷ついた顔になっているであろう僕の表情に、華音姉さんは何を勘違いしたのか力強く自分の胸を叩く。

「弟くん、心配しないで。狛老鬼は必ず私が倒すから! どんなことがあったって、弟くんには指1本触れさせたりはしないわ!」

「華音姉さん……」

 決死の覚悟を決めているであろう華音姉さんの姿に、僕はグッと唇を噛みしめた。

 このままでは、華音姉さんは僕を守るために命懸けで戦うことになってしまう。
 狛老鬼とやらのことは知らないが……兄貴と2人で戦って封印するのがやっとという敵だ。華音姉さんだけでは勝ち目はあるまい。

 刺し違える覚悟で強敵に挑もうとする華音姉さんを止める方法はただ1つ。
 即ち、僕が守られる必要がないと明かすこと。僕が異世界に召喚されて勇者をしていたことを打ち明けることである。

「姉さん。僕だったら大丈夫だよ。だって僕は……」

 迷うことなく秘密を打ち明けようとするが……次の瞬間、予想外の衝撃に襲われた。

「きゃあっ!?」

「ッ……!?」

 轟音が響き、再び雪原の中へと放り出された。
 何の前兆もなく……突如として、僕達がいた庵が粉々に砕けて吹き飛んだのである。

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