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第一章 日下部さん家の四姉妹
20.長女は美人な陰陽師②
しおりを挟む「スキル発動――『武闘術』!」
「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
地鳴りのような鳴き声を上げて、一つ目の雪男が襲いかかってきた。
僕は格闘系統のスキルを発動させて、次々と飛びかかる雪男を迎撃する。
「フンッ!」
「グギャッ!」
正面にいた雪男の胴体にボディブローを喰らわせてやると、後方に吹き飛んで雪原に頭から突っ込んだ。
続いて左右から雪男が挟み撃ちにしてくるが上方に飛んで攻撃を回避。そのまま両脚を左右の雪男の頭部に叩きつける。
「「ギャンッ!」」
「うん、どうやら物理攻撃はちゃんと効くみたいだね。安心したよ」
「グガッ!」
「よっと」
掴みかかってくる雪男を躱して足払いをかけた。
バランスを崩した雪男の腕を掴んで投げ飛ばし、別の雪男にぶつけてやる。
「ギャウンッ!」
「うん、問題なし。1体1体は大した力のない雑魚キャラだな」
実際には、言うほど弱い敵ではないだろう。
襲いかかる雪男の動きは機敏そのもの。攻撃にも迷いはない。
腕力だって外見通りゴリラ並にあるようで、まともに攻撃を喰らえば骨折は免れない。打ちどころが悪ければお陀仏だ。
僕が優位に戦いを進めることができているのは、あくまでも異世界での身体能力向上とスキルがあるからだ。
生身の肉体だけで戦っていたら、これまでに10回以上は死んでいる自信がある。
「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」
「とはいえ……この数の差はかなりリスキーかな?」
しかし、倒しても倒しても雪男が減る様子はない。
打撃や投げ技では決定打に欠けており、タフな大猿を殺害するにはいたらなかった。
一つ目の雪男は倒してもすぐに起き上がってきて、僕に飛びかかってくるのだ。このままでは、いずれ体力が尽きて追い詰められてしまうだろう。
「武器が欲しい……どうしてアイテムボックスが使えないのかな?」
先ほどからアイテムボックス内にある剣などの武器を取り出そうとしているのに、何故か出てこなかった。
『武闘術』のスキルが使えるため、スキルそのものが封じられているわけではないのだが……いったい、どうしたというのだろう?
「僕は攻撃魔法は苦手だし……女神の加護が使えれば瞬殺なんだけどな」
「グゲッ!」
「ギャアッ!」
2体の雪男の攻撃を避けて同士討ちをさせつつ、僕は歯がゆい気持ちで表情を歪める。
女神から与えられた加護――『七つの祝福』
つい先日、『正義の聖剣』によって巨大ロボット的なヤツを倒したように、その力は絶大。世界を滅ぼす魔王でさえも討ち滅ぼすことができるほどのものだった。
しかし、こちらの力も使うことはできない。アイテムボックスとは違う理由で力を制限されている。
女神の加護は強力ではあったものの、使用することができる場面が限られているのだ。
例えば、『正義の剣』は『世界または人類の敵』にしか使用することができない。同様に、他の6つの武器も使うことができる敵や状況が限定されており、一つ目の雪男はそのいずれにも該当していなかった。
何故、わざわざそんな『枷』が架けられているかというと、あえて縛りを設けることによって能力の底上げができるからだと女神が説明していた。
能力の使用にルールを設け、それを遵守することによって加護の力を底上げすることが目的である。そんなハン○ー·ハン○ー的なことを説明していた。
「とはいえ……今考えたら、それも怪しいところだけどね」
雪男を投げ飛ばし、肘鉄を腹にぶち込み、金的を蹴り上げ……襲いかかってくる蹴散らしながら皮肉そうに唇を歪める。
今になって思うことだが……ひょっとしたら、女神は僕が暴走することを恐れていたのではないだろうか?
異世界召喚もののライトノベルやネット小説でたまに見かける展開。勇者が魔王を倒した後、その力を私利私欲に利用するパターン。
権力を求めて国を滅ぼしたり、大勢の女を力ずくで自分のものにしたり……酷いものだと、人間の醜さに絶望して世界を破滅に追いやろうとすることさえある。
あの女神は僕がそうなるかもしれないと警戒して、わざと人間や世界に害を与えることができないように『枷』を付けたのかもしれない。
「ま……それは今言っても仕方がないな。それよりも、この場を切り抜ける方法を考えなくちゃな」
このままではジリ貧である。
逃げるにせよ、戦い続けるにせよ、状況を打開する方法を考えなくては。
「仕方がない……ちょっとリスキーだけど、強力なスキルを使うとしよう」
「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」
覚悟を決めた僕に対して、一つ目の雪男が周りを囲んで一斉に飛びかかってくる。
「超攻撃スキル――『滅殺術』!」
諸刃の剣。捨て身の必殺技。
威力が高い代わりに自分の身体まで傷つけてしまう、自爆攻撃のスキルを発動させる。
僕の両手を灼熱のような赤い光が包み込む。まるで溶岩を握りしめたような熱を拳に纏い、渾身の一撃を一つ目の雪男に向けて振り上げて……
「弟くうううううううううううううううううんっ!!」
「へ……?」
叩きつけようとしたその瞬間、頭上から聞き覚えのある声が響いてくる。
戦闘中であることも忘れて頭上を仰いだ視線の先、真っ白な雪雲を突き破って1人の女性がこちらに向かって落ちてきた。
「お姉ちゃんが助けにきたわよおおおおおおおっ!」
「か、華音姉さんっ!?」
まるで隕石のように落下してきたのは日下部家の長女さん。
僕にとっては兄嫁にして、子供の頃から世話になっている実姉のような存在――日下部華音その人であった。
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