16 / 103
第一章 日下部さん家の四姉妹
15.三女は可愛いサイキッカー⑦
しおりを挟む「ゆ……勇治? どうしてここに……?」
「……とりあえずはゴメン。助けるのが遅くなった」
僕は謝罪しつつ、風夏を縛りつけている触手を手刀で切り裂いた。勇者である僕ならば、刃物がなくてもこれくらいのことは余裕で出来るのだ。
粘液をまとわせた触手をブチブチと切断して、倒れてきた風夏の身体を抱きとめる。
「助けるつもりでいたんだよ。いたんだけど……すごい話が盛り上がってきてタイミングを逸してしまったみたいだ。許してくれ」
車に乗り込んでラブホに入っていった風夏を追いかけて。
何やらおかしな格好をした仲間と合流して。
ラブホに潜んでいた敵と謎の異能力バトルがはじまって。
何やら因縁があるらしい敵との決戦が始まって。
風夏まで正体不明の能力を発動させるのを目の当たりにして……もう途中から完全に戦いを見守るだけの観客になってしまっていた。
色々と予想外の展開が起こり過ぎて思考停止してしまい、風夏が触手プレイにさらされるまでの間、ポップコーンを抱えて映画を見ている気分で魅入ってしまったのだ。
媚薬を塗られて喘ぎはじめた風夏の姿にようやく自分の目的を思い出し、遅れながらも助けに入ったというわけである。
「決してエッチな姿になってる風夏に見惚れてたわけじゃないんだ。うん、本当に。確かにベトベトトロトロになって乱れた制服は下着姿よりもエロかったし、媚薬で赤くなった肌はすげえ色っぽくて、触手に締めつけられて胸が強調されて『ああ、風夏も成長期なんだなあ』とか思ったりしたけど……僕は絶対に、これっぽっちもゲスい気持ちになんてなっていないのである!」
「い、言い訳すればするほど逆に怪しいんだけど……ンンッ!」
風夏が非難がましくこちらを睨みながら、プルプルと小動物のように身体を震わせる。
「おっと……スキル発動――『解毒』」
「ん……!?」
風夏の身体が緑色の光に包まれた。
毒を浄化するスキルを使った。これで天童に盛られた毒も消えてはずだ。
「ついでに……こっちも片付けておこうかな」
僕はさらに戦闘スキル――『魔弾』を発動させた。
アイテムボックスから取りだした小石を指で弾き飛ばし、風夏の仲間……トレンチコートとキャリアウーマンさんを抑えつけているシルバーナイトの頭部を吹き飛ばす。
「勇治。その力はいったい……?」
「誰なんだ、アンタは? 敵じゃあないよな……?」
パチクリと瞬きをして困惑する風夏。起き上がってきたトレンチコートの男が警戒を込めた眼差しを向けてくる。
僕はそんな中年のオッサンをギロリと睨みつけた。
「……正直、アンタらにはちょっと怒っている」
「は……?」
「風夏とアンタらがどんな関係かは知らない。超能力者とか、サイキックとかいう力が何なのかも知ったことじゃない。だけど……僕の可愛い妹を危ない場所に連れてきて、あげくに触手プレイにさらさせたことは許せないな」
「妹、ですか? 日下部さんにお兄さんがいるというのは初耳ですけど……」
同じく、起き上がったキャリアウーマンさんが怪訝に尋ねてくる。
「血のつながりだけが兄妹の条件じゃあない。僕と風夏は……」
『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
階下から響いてきた轟音。
大怪獣の鳴き声のような声とともに、下から巨大な『腕』が飛び出してきた。
「ん……?」
「きゃあっ!」
床を突き破って現れた銀色の巨腕を躱して、風夏を抱いたままラブホの窓から外に出る。
『飛行』スキルを使って空を飛びながら……僕はラブホの屋根を突き破った『それ』を目の当たりにした。
「よくもよくもよくもっ! よくもボクと愛する人との逢瀬を邪魔してくれたな!? ぶち殺してやるぞおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
現れたのは、先ほどの『人型』である。外見だけは。
だが、サイズが段違い。ラブホの屋根を突き破って現れたのはビルのようなサイズがある銀色の巨人の上半身だった。
その肩の上には、目を血走らせてこちらを睨みつける天童の姿がある。
「へえ……わりと殺すつもりで殴ったんだけど、思いのほかに丈夫じゃないか。どうやって生き残ったんだか」
先ほど、天童の頭を殴って床の下まで落としてやったのだが……何故か天童は無傷のようである。
頭蓋骨が粉々になってもおかしくない威力で拳骨を落としたつもりなのだが、身体能力を強化する力まで持っているのだろうか。
「それとも……あれも『創造』とやらの力なのかな? 自分の身体を通常よりも頑丈に造り直していたとか?」
「許さない、許さないぞ……! 僕の花嫁を、イヴを返せええええええええええっ!」
天童の瞳は完全に狂気の色で染まっていた。
頭蓋骨は無事のようだが、気取った髪の毛はざんばらに乱れており、仕立ての良いスーツもホコリやら何やらでグチャグチャに汚れている。
そして……銀色の『巨人』を操り、風夏を抱きかかえた僕に向かって攻撃を仕掛けてきた。
「叩き潰せ! 『キング・アーサー』!」
「うおっと」
「ひゃんっ!」
『キング・アーサー』と呼ばれた巨人の拳が迫ってくる。
悲鳴を上げる風夏の身体を抱き直して、空中移動して攻撃を躱す。
「それなりに速い攻撃だけど……この程度なら、問題なく避けられるかな?
スキル発動――『魔弾』」
キング・アーサーの巨腕を躱して、カウンターで石の弾丸を放った。
天童の頭部にまっすぐ突き進む弾丸であったが……キング・アーサーの肩の一部が盾のように形状を変えて防がれてしまう。
「クフフフフッ、これでもう手出しはできまい!」
天童の身体が底なし沼に沈むようにしてキング・アーサーの中に埋もれていき、姿を消した。
どこにいるのかサッパリわからない。これでは攻撃のしようがなかった。
「へえ、考えたじゃないか。身を隠されると手が出せないな」
「感心してる場合じゃないでしょ!? んんっ……勇治、これからどうするつもりなのよっ!」
「どうするって……わっ!」
キング・アーサーが右腕で殴りつけてきた。
当然、向かってくる巨腕は躱してやるが……空振った二の腕部分から無数の針が突き出してきて、僕達の身体を貫こうとする。
「うわわわわっ!? 今のはちょっと危なかった!」
「勇治! 前、前!」
「わあっ!?」
針をすんでのところで躱したものの、今度はキング・アーサーの左腕が迫ってきた。
しかも左腕の手首から先の部分がテニスラケットのような形状になっており、攻撃面積が広がっていたのだ。
「スキル発動――『鉄壁』!」
攻撃を回避しきれないと判断するや、僕は防御スキルを発動させる。ハチの巣状の模様の緑色の球体が僕達を包み込んだ。
「きゃああああああああああああっ!」
風夏が悲鳴を上げながら僕に抱き着いてくる。
防壁に守られた僕達の身体に変形した巨腕が叩きつけられ、まさにテニスボールのように弾き飛ばされた。
そのままラブホテルを覆っていた結界のようなものに衝突してバウンドするが、防御スキルのおかげでダメージはない。
「とはいえ……このスキルは連続では使えないんだよな」
『鉄壁』スキルはあらゆる攻撃を1発だけ完全防御することができる代わりに、発動後にクールタイムが存在する。連続発動はできなかった。
『ボクのイヴを返せ! 下等な旧人類めが!』
銀色の巨人は身体を変形させながら僕達を追い詰めてくる。
変態イケメン男の異能によって生み出されたその怪物は決まった形があるわけではなく、粘土のように形を変えることができるのだろう。
反撃する暇もなく、次々と放たれる攻撃に防戦一方に追いやられる。
「うーん……ひょっとしたら、これって結構ピンチなのかも」
そんなことをボヤキながら『飛行』スキルを駆使して攻撃を回避していると、腕の中にいる風夏が服を引っ張ってくる。
「はあ、はあ……勇治、ここからは私が戦うわ」
「風夏?」
「アイツに近づいてちょうだい。私の能力で消滅させて見せるから」
風夏はかなり疲労しているらしく荒い呼吸をつきながら言ってくる。
いや、無理だろ。
風夏の使っている異能がどんな力かは知らないが……とてもではないが戦えるようなコンディションではなさそうだ。
「はあ、はあ、はあ……アイツはここで倒さなくちゃいけないのよ。あの男はサイキッカー以外の人間を皆殺しにしようとしている。異能者のための世界を創るためになら、手段を選んだりしない……だから、ここで倒さなくっちゃみんなの犠牲が無駄になってしまう……!」
「人類滅亡ね……中二臭い目的だけど、それを聞いて安心した。そういうことなら勇者の力を使っても大丈夫そうだな」
「え……?」
キョトンとした顔の風夏に、力強く頷いた。
もっと早く全力を出せよって話だが……僕はスキルではなく、『勇者の力』を解禁して戦うことを決めた。
どうやら、あの天童とかいう変態イケメン野郎は僕が勇者の力を出して潰すだけの『悪』であるらしい。
僕は片腕で風夏を抱いたまま、もう一方の手を頭上に掲げる。
「ここからは遠慮なしだ! 女神の加護――『正義の聖剣』!」
僕の叫びに応えて、掌から1本の剣が出現した。
勇者の力。女神の加護。かつて魔王の身体を打ち砕いた絶対無敵の武器が現れたのである。
280
お気に入りに追加
762
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる