俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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第5章 聖地崩落編

15.湯煙の攻防

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 俺が睨みつける先……木々の中から一人の男の影が現れる。

 否、男であるかどうかはわからない。
 その人物は黒いフードを頭までかぶっており、おまけに顔には白い仮面まで付けているのだから。

「貴様、何者だ……」

 仮面の人物が俺を見ながら、静かに問う。
 俺は皮肉そうに唇を歪めて聞き返す。

「百パーセント、俺のセリフと思うんだがな。そっちこそ何者だよ」

「……私が何者かなど知る必要はない。今すぐその娘から離れて去るならば見逃す。要求に従わぬのならばお前も殺す」

「……へえ、標的以外は殺さないってか? なかなか親切な殺し屋じゃねえか。」

 てっきりどこぞの貴族が俺の命を狙ってきており、ドロシーのほうが巻き込まれたのかと思っていだのだが、実際は逆のようだった。

 この仮面フードの標的はドロシーのほうであり、俺こそが巻き込まれた側だった。

(まずいな……さすがにこの状況はちょっと面倒だ)

 フード仮面に気がつかれないようにそっと荷物がある方を一瞥する。

 剣が置いてある場所までおよそ5メートル。
 俺ならば一息でたどり着くことができる距離だったが、その間にドロシーが無防備になってしまう。

 名前も思い出すことができず、しかも俺のことを敵視しているらしいドロシーを救ってやる義理などどこにもない。
 しかし、裸の女を背後から殺そうとするような奴の要求に従うなど俺の信義に背く行為である。

「さっさと去るが良い、男」

「……ありがたい申し出だが、ちょっと従えねえな。いい男を知らないまま女が死ぬのは不幸だからな。余計なお世話を焼かせてもらうぜ!」

「つまらぬ正義感。愚かな男……ならば望み通りに死ぬがよい」

「うおっと……!?」

 森の中から複数の殺意が膨れ上がる。
 フード男の背後から十数本の矢が一斉に放たれて降り注いでくる。

「チッ……敵は一人じゃなかったってことかよ!」

 攻撃される瞬間まで気配に気がつかなかった。森に潜んでいる殺し屋たちは決して素人ではない。
『鋼牙』と同じか、それに近いレベルの熟練の暗殺者に違いない。

「舐めんなっ!」

 しかし、相手が誰であろうと無抵抗に殺されてやるつもりはない。
 俺は全力で拳を湯に叩きつけた。

「らああああっ!」

「ぬっ……!」

 打撃の衝撃によって大きな湯柱が上がり、俺の身体を射抜かんと向かってきていた弓矢を下から跳ね飛ばす。
 同時に、立ち昇った湯煙のカーテンを目くらましにして逃走を図る。

 温泉の中に押し込んでいたドロシーを引っ張り上げて、剣が置いてある場所に向けて駆けだした。

「ぷはあっ……ひあ、はあ……ぼくはいったい……!」

「しゃべるな。舌を噛むぞ!」

 ドロシーの腰を片手で荷物のように抱き、俺は温泉から飛び出した。
 荷物が置いてあるのはすぐ傍の木の根元。立てかけてある剣へと手を伸ばす。

「フッ!」

「っ……!?」

 しかし、同時に頭上から冷たい殺気を感じた。
 とっさに急停止をすると、樹上から小柄な影が飛び降りてきて荷物への道を阻む。
 先ほどの相手と同じく黒色のフードに仮面を被った襲撃者は、左手に持った短剣をこちらに突き出してきた。

「はっ、何人いやがるんだか! ガキ一人に大げさなことだぜ!」

「ハアッ!」

「喰らうかよっ!」

 俺は短剣を突き刺してくる小柄な人物の腹を蹴り飛ばした。
 同時に、その手から短剣を奪い取って背後に放る。

「がっ……!」

 後ろ手に投げた短剣が、今まさに背後から襲いかかろうとしていた別の仮面の頭部へと吸い込まれる。
 バタリと倒れる後方の敵を確認して、俺は今度こそ剣を手に取った。

「さて……これで形勢逆転。言っておくが、獲物を持った俺はすこぶる強いぞ?」

「……何者だ、貴様。ただの旅行者ではあるまい。その娘の護衛か?」

「なに、裸の付き合い。お互いの全裸を見せ合った仲さ。さーて、どうする? 引くんだったら見逃してやるぜ?」

「…………」

 得意げに笑いながらうそぶいてやると、フードを被った人物はしばし黙り込んだ。
 白い仮面の向こうからじっと俺を見つめる視線を感じる。

 そのまま引くかと思われたが、温泉を挟んで殺気が膨れ上がるのを感じた。

「こちらも依頼ゆえに引くことはできん。全身全霊をもって……」

「全身全霊で、どうかしましたか?」

 しかし、フード仮面は最後まで言い切ることはできなかった。
 刺客の頭上――完全な真上から、恐るべき速さで斬りかかった人物がいたのだ。

「ぬっ!?」

 その人物が放った斬撃によってフードが斬り裂かれ、一歩、二歩と刺客が後退する。
 紙一重で躱したのか出血は少ない。致命傷には程遠いダメージだ。

「お前は……」

「随分と危ないところでしたねえ、ディンギルさん? 感謝の言葉を口にしても構いませんよー」

 道化のようにニマニマと笑って剣を肩に乗せる人物に、俺は怪訝に眉をよせた。

 フード仮面に斬りかかり、俺達を助力したのは当代の剣聖であるベナミス・セイバールーンであった。



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お知らせ

新作小説『学園クエスト~現代日本ですがクエストが発生しました~』を「小説家になろう」に投稿いたしました。よろしければこちらの作品もよろしくお願いします!

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