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幕間 花咲く乙女
西方の向日葵⑫
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「カアアアアアアアッ⁉」
トルクが血を撒き散らして絶叫を上げる。
人間の両手で顔を抑えるが、深く斬り裂かれた傷口からは依然として激しい血が流れ落ちる。
「わたしの、かお、カオガアアアアアアアアッ!」
「なんだ、口が利けるなら最初からしゃべりなさい。怪物」
「よくもよくもよくもヨクモオオオオオオオ!」
「ヤアッ!」
トルクが脚の爪を振るってくる。鋭い刃物のような爪を、ナームは細剣を使って受け流した。
「カアアアアアアアアアアアッ!」
トルクは蜘蛛の巨体を後ろの四本脚で支え、前の四本脚をナームに向けて振りかざす。
間断なく連続して放たれる斬撃。ナームはそれを細い剣で巧みに捌いていく。細身の女性と蜘蛛の怪物との間で、無数の火花が散っていく。
「美しい・・・」
その言葉を漏らしたのは兵士の生き残りか、それともサイードだったのか。
一撃でも身体に受ければ半身が千切れてしまうであろう攻撃を、ナームは細剣一本で受け切っていた。
その姿は死に寄り添い、敵に立ち向かう戦乙女そのもの。
サイードを含めて、その場にいる者達は助太刀することも忘れてナームの戦いぶりに見入っていた。
「シネエエエエエエエエエッ!」
「危ないっ!?」
トルクが振り下ろした渾身の一撃によって、幾度も攻撃を受け続けた剣に限界がやってきた。
細剣が半ばで折れて、剣先がクルクルと回転しながら飛んでいく。
「フッ!」
「ガアアアアアアアアアアッ!?」
しかし、武器を失ってなおナームは諦めない。
手に残った剣の柄を鋭く投げつけ、トルクの左目に突き刺した。
そして、一瞬だけ生まれた隙に地面を転がって敵の攻撃を躱し、倒れた兵士が持っている剣をかすめ取る。
「ヤアアアアアッ!」
トルクの側面へと回り込んだナームは横薙ぎに剣を振り、大蜘蛛の身体を支える脚の一本に剣を叩きつけた。
脚の関節部分へと正確に刃が吸い込まれ、大蜘蛛の脚の一本が切り落とされる。
「ギイイイイイイイイイイッ!?」
「ヤアッ!」
身体を支えていた脚を切り落とされて、トルクの蜘蛛の身体が地面に沈む。
敵が体勢を崩したのを見過ごさず、ナームは次々と追撃を放つ。
「ヤアアアアアアアアアアアアッ!」
「ガアアアアアアアアアアアアッ! やめろおおおおおおおおおおっ!」
大蜘蛛の脚が次々と切り落とされる。
トルクも必死に抵抗して爪を振るうものの、ナームは風のような速さでトルクの周囲を駆け回りながら斬撃を見舞っていく。
先ほどの質実剛健、巌のごとき守りの剣から一変して、まるで燃え盛る炎のようにトルクを無数の斬撃が包み込む。
「私は負けない! 良い女は、惚れた男にしか負けないから!」
ナームは剣を握る手を休めることなく、猛然と叫ぶ。
圧倒的な攻め。暴力の嵐。
その戦いぶりは、まるでディンギル・マクスウェルが乗り移ったようだった。
「ヤアアアアアアアアアアアアッ!」
「あ、が、あああああああっ・・・」
とうとう大蜘蛛のすべての脚が切り落とされる。
最後にナームは大きく跳躍して、重力の勢いのままに蜘蛛の頭部へ剣を突き立てた。
「あ・・・か・・・は・・・」
がっくりとトルクの人間部分が崩れ落ちる。
地面に横たわっている男の身体は微動だにすることはなく、生きているかどうかすらも定かではなかった。
「勝ったあああああああああああっ!」
ナームは戦いの興奮のままに叫んだ。
両手を天へと突き上げて、高々と勝利の声を上げる。
『オオオオオオオオオオオオオオッ!』
ナームの勝鬨に応えて、兵士達が一斉に手を突き上げる。
「戦乙女の勝利だ!」
「我らが女神! 勝利の女神よ!」
喝采に包まれる討伐部隊の陣地。誰もが死闘を制したことを喜び、虫の死骸を踏みつけて歓喜の雄叫びを上げている。
その中心に立っているナームへ、サイードが歩み寄っていった。
「見事な勝利でしたぞ」
「あ、先生! 私、勝ちましたよ! 勝利です!」
初陣を大将首で飾ったナームは、有頂天になって剣の師へと飛びついた。
豊満なバストが壮年の男の顔へと押しつけられて、サイードはなんともいえない難しい表情になる。
「そうですな・・・いや、本当にお見事です。ナームお嬢様」
「はい! やりました・・・って、あ・・・?」
ナームは己の失言に気がついて、顔をひきつらせた。
おずおずと師匠の身体から離れて、上目遣いにサイードの顔を窺う。
「・・・・・・」
サイードは無言。しかし、その咎めるような両目が万の言葉をよりも能弁に語りかけてくる。
「ええと、わたしはこれで・・・」
「逃がしませんぞ。ナームお嬢様。このままご当主様の下へと連行させていただきます」
「・・・・・・はい」
ギリギリと指が食い込むほどに肩をつかまれ、ナームは涙目になった。
その後、戦後処理もそこそこにスフィンクス家の屋敷まで連行されたナームは、父親と師匠から涙が枯れるまで説教を食らうことになるのであった。
トルクが血を撒き散らして絶叫を上げる。
人間の両手で顔を抑えるが、深く斬り裂かれた傷口からは依然として激しい血が流れ落ちる。
「わたしの、かお、カオガアアアアアアアアッ!」
「なんだ、口が利けるなら最初からしゃべりなさい。怪物」
「よくもよくもよくもヨクモオオオオオオオ!」
「ヤアッ!」
トルクが脚の爪を振るってくる。鋭い刃物のような爪を、ナームは細剣を使って受け流した。
「カアアアアアアアアアアアッ!」
トルクは蜘蛛の巨体を後ろの四本脚で支え、前の四本脚をナームに向けて振りかざす。
間断なく連続して放たれる斬撃。ナームはそれを細い剣で巧みに捌いていく。細身の女性と蜘蛛の怪物との間で、無数の火花が散っていく。
「美しい・・・」
その言葉を漏らしたのは兵士の生き残りか、それともサイードだったのか。
一撃でも身体に受ければ半身が千切れてしまうであろう攻撃を、ナームは細剣一本で受け切っていた。
その姿は死に寄り添い、敵に立ち向かう戦乙女そのもの。
サイードを含めて、その場にいる者達は助太刀することも忘れてナームの戦いぶりに見入っていた。
「シネエエエエエエエエエッ!」
「危ないっ!?」
トルクが振り下ろした渾身の一撃によって、幾度も攻撃を受け続けた剣に限界がやってきた。
細剣が半ばで折れて、剣先がクルクルと回転しながら飛んでいく。
「フッ!」
「ガアアアアアアアアアアッ!?」
しかし、武器を失ってなおナームは諦めない。
手に残った剣の柄を鋭く投げつけ、トルクの左目に突き刺した。
そして、一瞬だけ生まれた隙に地面を転がって敵の攻撃を躱し、倒れた兵士が持っている剣をかすめ取る。
「ヤアアアアアッ!」
トルクの側面へと回り込んだナームは横薙ぎに剣を振り、大蜘蛛の身体を支える脚の一本に剣を叩きつけた。
脚の関節部分へと正確に刃が吸い込まれ、大蜘蛛の脚の一本が切り落とされる。
「ギイイイイイイイイイイッ!?」
「ヤアッ!」
身体を支えていた脚を切り落とされて、トルクの蜘蛛の身体が地面に沈む。
敵が体勢を崩したのを見過ごさず、ナームは次々と追撃を放つ。
「ヤアアアアアアアアアアアアッ!」
「ガアアアアアアアアアアアアッ! やめろおおおおおおおおおおっ!」
大蜘蛛の脚が次々と切り落とされる。
トルクも必死に抵抗して爪を振るうものの、ナームは風のような速さでトルクの周囲を駆け回りながら斬撃を見舞っていく。
先ほどの質実剛健、巌のごとき守りの剣から一変して、まるで燃え盛る炎のようにトルクを無数の斬撃が包み込む。
「私は負けない! 良い女は、惚れた男にしか負けないから!」
ナームは剣を握る手を休めることなく、猛然と叫ぶ。
圧倒的な攻め。暴力の嵐。
その戦いぶりは、まるでディンギル・マクスウェルが乗り移ったようだった。
「ヤアアアアアアアアアアアアッ!」
「あ、が、あああああああっ・・・」
とうとう大蜘蛛のすべての脚が切り落とされる。
最後にナームは大きく跳躍して、重力の勢いのままに蜘蛛の頭部へ剣を突き立てた。
「あ・・・か・・・は・・・」
がっくりとトルクの人間部分が崩れ落ちる。
地面に横たわっている男の身体は微動だにすることはなく、生きているかどうかすらも定かではなかった。
「勝ったあああああああああああっ!」
ナームは戦いの興奮のままに叫んだ。
両手を天へと突き上げて、高々と勝利の声を上げる。
『オオオオオオオオオオオオオオッ!』
ナームの勝鬨に応えて、兵士達が一斉に手を突き上げる。
「戦乙女の勝利だ!」
「我らが女神! 勝利の女神よ!」
喝采に包まれる討伐部隊の陣地。誰もが死闘を制したことを喜び、虫の死骸を踏みつけて歓喜の雄叫びを上げている。
その中心に立っているナームへ、サイードが歩み寄っていった。
「見事な勝利でしたぞ」
「あ、先生! 私、勝ちましたよ! 勝利です!」
初陣を大将首で飾ったナームは、有頂天になって剣の師へと飛びついた。
豊満なバストが壮年の男の顔へと押しつけられて、サイードはなんともいえない難しい表情になる。
「そうですな・・・いや、本当にお見事です。ナームお嬢様」
「はい! やりました・・・って、あ・・・?」
ナームは己の失言に気がついて、顔をひきつらせた。
おずおずと師匠の身体から離れて、上目遣いにサイードの顔を窺う。
「・・・・・・」
サイードは無言。しかし、その咎めるような両目が万の言葉をよりも能弁に語りかけてくる。
「ええと、わたしはこれで・・・」
「逃がしませんぞ。ナームお嬢様。このままご当主様の下へと連行させていただきます」
「・・・・・・はい」
ギリギリと指が食い込むほどに肩をつかまれ、ナームは涙目になった。
その後、戦後処理もそこそこにスフィンクス家の屋敷まで連行されたナームは、父親と師匠から涙が枯れるまで説教を食らうことになるのであった。
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