俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 花咲く乙女

西方の向日葵⑥

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side ナーム・スフィンクス

 スフィンクス家の屋敷から抜け出してきた私は、馬車を乗り継いでトルク子爵領までやって来た。
 到着したときにはすでに近隣の町から義勇兵が集まってきており、スフィンクス家から派兵された討伐軍の陣地の一角を借りて天幕を張っていた。
 私はスフィンクス家に代々伝わる至宝の一つ、【未来天人スクルド】を使って大人の女性に姿を変えて、新たな義勇兵として戦いに参加することを願い出た。

「ああっと・・・本気で言ってるのか?」

 義勇兵のリーダーである男・・・アルバトロスと名乗ったその人物は、指先でこめかみを抑えて重々しく訪ねてきた。
 アルバトロスの眉間にはこれでもかとシワが寄せられていて、頭痛を堪えるように表情が歪んでいる。

「ええ、なにか問題あったかしら?」

 私は涼しげな口調で応えて、人差し指を口に添えて小首を傾げた。
 何気なさを装って放たれた言葉に、アルバトロスは呆れかえった様子で唇を歪める。天幕の中には他にも義勇兵のメンバーがいたが、彼らもまた一様に困惑した顔つきをしている。

「問題・・・いや、ないといえばないんだが・・・」

 アルバトロスはチラリと私のほうを見て・・・特に胸部や太もものあたりに視線を向けてきて、目のやり場に困った様子で顔を背ける。
 今の私は動きやすいように裾の短いズボンを履いており、両脚がかなり際どい部分まで露出してしまっていた。
 胸元はきっちりと肌を隠しているが、それでも指輪をつける前とは比べものにならないほど膨らんだ果実は、天幕の中にいる男の視線をこれでもかと誘ってしまう。

「いやな、嬢ちゃん。たしかに義勇兵は年齢、経歴問わず参加自由ということで募集をかけてはいたが、それでも戦う力のない人間まで受け入れることはできないぞ?」

「あら、私が戦えないなんて言ったかしら?」

「言ってないが、しかしなあ・・・」

 本人は気づかれていないつもりなのだろうか、私のことをチラ見するアルバトロスの頬は赤く染まっている。三十手前ほどの外見のアルバトロスであったが、その反応はかなり初心である。

「だったら構わないでしょう。私は戦えます。剣だって持ってます。だから、義勇兵に入れてくださいな」

「ああっと・・・なんて言えば諦めてくれるのかねえ?」

「おいおい、いい加減にしやがれ! ここは酒場でも娼館でもねえんだよ! 女がしゃしゃってんじゃねえぞ!」

 口ごもるアルバトロスの代わりに進み出てきたのは、大柄な体格のスキンヘッドの男性である。
 スキンヘッドは私の身体に舐めるような不快な目を向けて、ふんっ、と鼻を鳴らした。

「どうせ報奨金目当てだろう? 金が欲しいってんなら、その身体でも売ってみたらどうだよ。俺が高く買ってやるぜ?」

 言って、スキンヘッドが不躾な手をこちらに伸ばしてきた。その手が伸びる先は私の胸元。不埒な狼藉を働こうとしているのは明らかである。

「おい、ベイモンド!」

 アルバトロスが慌ててスキンヘッドを止めようとするが、それよりもわずかに早く邪な手が私の身体に到達する。

「うおっ!?」

「不愉快ですわ。触らないでくださいな」

 しかし――私はひらりとステップを踏んでその手を躱す。
 さらにクルリと回転しながらスキンヘッドの手を引っ張り、つんのめった男の足を爪先で刈った。
 スキンヘッドの巨体がふわりと浮き上がり、空中で一回転して地面に背中から叩きつけられる。

「うげっ! なにが・・・っ!?」

「戦う力がない者は受け入れられない・・・でしたわね?」

 私は腰に差していた細剣を引き抜き、身を起こしたスキンヘッドの首筋に切っ先を突きつけた。巨体の男の顔色が見る見る蒼褪めていき、禿げあがった頭部を汗のしずくが流れ落ちる。

「こんなもので如何かしら? それなりに腕は立つつもりなのだけれど?」

「恐れ入った、合格だよ。文句なしだ」

 横目でアルバトロスを見やって尋ねると、目の前で部下を倒された義勇兵のリーダーは降参するように両手を上げる。

「歓迎しよう。嬢ちゃん・・・じゃなくて、金髪の女戦士殿。活躍、期待させてもらおう」

「ええ、もちろんですわ」

 私は嫣然えんぜんと笑って細剣を鞘に納めた。
 笑顔を向けられた男達が・・・アルバトロスや他の義勇軍のメンバー、恥をかかされたスキンヘッドの男でさえも頬を真っ赤に染める。
 アルバトロスは赤くなった顔を隠すように明後日の方角に顔を逸らし、コホンと咳払いをする。

「やれやれ、どうやら戦乙女が舞い降りちまったみたいだな。負けられない理由が増えちまったぜ」

 揶揄うような言葉を背に受けて、私はドレスの裾をはためかせて天幕を後にした。

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