俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

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幕間 花咲く乙女

帝国の赤き薔薇⑧

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side ダゴン侯爵

「クソッ! あの愚かな小娘めっ!」

 帝都にある自分の屋敷で酒を飲みながら、私は忌々しげにテーブルを拳で殴りつけた。

 私の名前はサーグ・ダゴン。バアル帝国で古くから続く大貴族、ダゴン侯爵家の栄えある当主である。
 私を苛立たせている原因は、最近になって皇帝となった女のことである。
 彼女の名前はルクセリア・バアル。先帝の四番目の子であり、兄妹の中で唯一の皇女であった。

 本来、バアル帝国の皇位継承は男性優位とされており、歴史上に女帝が生まれた前例はない。
 にもかかわらず、他の三人の皇子がことごとく失脚するという偶然の産物によって、あの女が皇帝の椅子に座ることになってしまった。

 バアル帝国はもともと男尊女卑が著しく、その例にもれず私も女という生き物を下に見ている。
 男よりも劣った存在である女が皇帝として自分より上に立ち、偉そうに命令してくるなどハラワタが煮える思いであった。

「フンッ、女など子供を産む道具でしかないというのに、この私の意見を却下するとは・・・ああ、思い出しても憎たらしい! 顔と身体以外にとりえのない小娘の分際で・・・!」

 ゴクゴクと勢いよくワインをあおり、グラスを叩きつけるようにしてテーブルに置く。

 そもそも、私は第二皇子であるグリード・バアルに仕えていたのだ。
 グリードは長子ではないという欠点はあるものの、政略に深く通じており、金と権力の使い方が非常にうまい男だった。
 グリードのもとには多くの貴族や商人から賄賂が集まってきており、私もそのおこぼれを頂戴し続けていた。

(それがまさか、あんな愚かな暴走をするとは・・・!)

 しかし、そんなグリードも隣国との戦いにおける敗戦、第三皇子スロウス・バアルの謀反を受けて乱心してしまい、禁断の兵器を呼び覚ましてしまった。
 おかげで国土は荒廃して産業は衰え、私のもとに入ってくる金は大きく目減りした。
 グリードが失脚したときには、配下であった私までもが共謀を疑われて罪に問われてしまい、恩赦をもらうために方々に協力を要請することになってしまった。
 結果、貯め込んだ裏金はほとんどが底をついてしまい、ダゴン侯爵家の家名にも傷がつくことになった。

(おまけに・・・次の皇帝がよりにもよって女だと!? 女ごときが皇帝になるなど、帝国は落ちるところまで落ちたか!)

 さらに酒をあおり、再びグラスをテーブルに叩きつける。とうとう陶器製のグラスが耐えられず、大きなヒビが入ってしまった。

「このっ・・・!」

 私は力いっぱいグラスを壁に投げつけた。ヒビ割れていたグラスが限界を迎えて粉々に砕け散る。

「クソッ、輸入物のグラスが・・・いかん、いかんな。この私ともあろうものが・・・!」

 私は大きく深呼吸をして昂ぶりを鎮める。
 そうだ、怒りに任せてものに当たるなど、栄光ある貴族がすることではない。
 今は落ち着いて、あの女から権力を奪い取ることを考えるのだ。

「そうだ・・・悪いことばかりではないのだ。女が皇帝となったおかげで、私が帝位につける未来も生まれたのだから」

 私はクツクツとわらいながら、その未来を頭に描く。

 女帝であるルクセリア・バアルには妊婦であったが、夫がいない。
 そして、この国は男性優位の思想が浸透している。
 もしもうまい具合に私がルクセリア・バアルの夫となることができれば、女性である彼女を押しのけてそのまま帝位につくことができるかもしれない。
 腹に宿っている子供の問題はあるものの、赤子が原因不明の死を遂げるのは珍しくもないことだ。買収した使用人に毒でも飲ませて始末してしまえばいい。

(そうなれば・・・私が皇帝だ! この私が国の頂点に立つのだ! ああ、たまらん!)

 皇帝の椅子に座ることもそうだが、あの澄ました顔の女を無茶苦茶に犯してやるのを想像するだけで、下半身に血が集中してしまう。
 どうせ女など、それ以外に使い道はないのだ。せいぜい可愛がってやり、私の子供を孕ませてやろうではないか!

「その前に、きちんと腹の中を消毒してやらねばな!    ふんっ、まさか赤子の父親がマクスウェルだったとはますます忌々しいわ!」

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