俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
271 / 317
幕間 花咲く乙女

帝国の赤き薔薇⑥

しおりを挟む
side レイン・ハルファス

 私の答えを聞いて、ルクセリア陛下は瞳を大きく見開いて驚きの表情になった。そして、すぐに興味深そうに私の顔を覗き込んできた。
 女神のごとき美貌がすぐ目の前に近づいてきて、思わず身体をのけぞらせてしまう。

「ひゃっ!」

「どうしてそう思うのですか!? どうやってその答えを導きだしたのでしょう!」

「へ、陛下っ、ちかい・・・近いです!」

「おっと・・・失礼しました」

 ルクセリア陛下は興奮してしまったのを恥じているのか、照れっぽく笑いながら口元を抑える。
 浮世離れした美しさを持つルクセリア陛下の年相応に可愛らしい姿を見て、私は自分の中での陛下に対するイメージが書き換えられていくのを感じた。

(やっぱり陛下も十代の女の子なのね・・・ちょっと誤解してたかも・・・)

 皇帝という高い身分についていても、お腹の中に赤ん坊を孕んでいても、陛下が私と年齢の変わらない女性であることに違いはなかった。
 ルクセリア陛下はコホンと咳払いをして、改めて私に問いかけてくる。

「それで・・・どうしてディンギル様がこの子の父親だと思ったのでしょうか。貴女の考えを聞かせてください」

「・・・・・・」

(ディンギル様・・・ですか)

 すでにその呼び方からしてただならぬ関係であることを匂わせているのだが・・・それはとりあえず置いておくことにした。
 私もまた一度深呼吸をして心を落ち着かせて、そこまで至った思考の経路について説明をする。

「私がどうしても気になったのは、ルクセリア陛下にお仕えしている二人の従者についてです」

「従者?」

 私は軽く湯殿を見渡した。
 広い皇族専用の広い浴室の中には大勢の侍女が控えているが、そこにはルクセリア陛下にとって最も心許せる人物の姿が欠けている。

「陛下の専属侍女であるルーナ様。そして、護衛騎士のエスティナ様。そのお二人がこの場にはいらっしゃいません」

 騎士のエスティナは別として、専属侍女であるルーナは仕える女帝の入浴に同行してその手伝いをしているはずである。
 しかし――この場に彼女の姿はない。
 それもそのはず。彼女は現在、長期休暇をとっていて宮廷にはいないのだから。

「ルーナ様だけではありません。エスティナ様も仕事を休んでおられますよね。確かその理由は・・・産休であると伺っております」

「・・・・・・」

「ルクセリア陛下にルーナ様。エスティナ様。一緒に行動をとることが多い三人の女性が同時に妊娠をされているのですから、そこになんらかの関係があるのではないかと思いまして」

「・・・そうですねえ。二人とも出産ギリギリまで休まずに働くつもりだったみたいですけど、ルーナは悪阻がひどくて、エスティナは肉体労働ですし、さすがに休んでもらっています・・・それはそうと、説明を続けてください」

「わかりました」

 私は頷いて、さらに言葉を重ねていく。

「もしも、仮に三人の女性のお相手が同じであるとしたら、その男性はどなたでしょうか。三人の美女を同時に孕ませるような殿方とは何者でしょうか」

 真っ先に私の頭に浮かんだのは、敵の兵士や山賊などの暴漢だ。
 戦乱の混乱の中で何者かの手に落ち、三人が乱暴にあったのではないか。そんな最悪の予想が頭に浮かんだ。

「でも・・・三人とも子供を堕ろすことはなく、それにルクセリア陛下はとても幸せそうに見えます。自分がその男性の子供を宿していることを誇りに思っているような・・・そんな印象を受けました」

「そうですねえ・・・その通りだと思います」

「つまり、その男性は三人の女性を一度に口説き落として心を奪い、さらに押し倒して子供を妊娠させたということになります。当時、御三方が接触をした男性の中で、それほどのプレイボーイはただ一人。ディンギル・マクスウェル様その人であると判断しました」

「なるほど・・・おおむね正解ですね」

 ルクセリア陛下は満足そうにうなずいて、「だけど」とはにかんで笑う。

「ディンギル様が口説き落としたのは三人ではありませんよ? あのお方が帝国に滞在した一週間の間に、この場にいる侍女全員が彼に抱かれていますから」

「ええっ!?」

 さすがにそこまでは予想外だった。
 私は思わず声を上げてしまい、湯殿にいる侍女を順繰りに見る。
 湯着を身に着けた侍女達はある者ははにかんで笑い、ある者は恥ずかしそうに目を逸らしている。

「全員が同じ男性に抱かれ、その秘密を共有している。だからこそ、この場にいる女達の結束は固い。秘密の流出なんてありえません。そのはずなんですが・・・」

 ルクセリア陛下は真剣な顔つきになった。
 右手を軽く胸元に添えて大きな乳房を隠し、湯船から立ち上がる。

「この秘密に感づいている人間が、貴女のほかに少なくとも一人はいるようです。それは誰だかわかりますか?」

「へ・・・・・・あっ!」

 私は先ほどの会議室で繰り広げられた口論を思い出して、思わず立ち上がった。
 一糸まとわぬ裸体を――同年代と比較してかなり貧相な体つきをこの場にいる全員の目にさらされてしまうが、構わず棒立ちになってしまう。

『もしも仮に御子の父親が帝国にとって受け入れがたい人間・・・たとえば敵国の武将や貴族であったとしたら、帝国の基盤を揺るがすスキャンダルになりますぞ!』

「ダゴン侯爵・・・サーグ・ダゴンが秘密を知っている・・・?」

 私は茫然とつぶやいた。
 陛下に叛意を抱いている大貴族が、麗しの女帝にとって急所となる秘密に勘づいている。はたして、それはこの国の行き先にどれほどの影響を与えるのだろうか?

(ただでさえ不安定な時世なのです。最悪の場合、内乱だって・・・)

 そこまで考えたところで、ぐらりと視界が揺れた。
 景色が回っているような錯覚を感じながら、私の身体が後方へと倒れる。

「ちょ、ハルファスさん!?」

 周りの侍女が慌てて駆け寄ってきて、私の身体を支えてくれる。
 頭が熱くてなにも考えられない。まるで大酒を飲んだようにクルクルと世界が回っていた。

「ふああ・・・やつがひみつを・・・はわ・・・」

「ええと、陛下。のぼせているみたいです。外に運び出したほうがよろしいのでは?」

「そうして頂戴・・・うーん、お風呂場で頭を使わせすぎたかしら?」

 陛下と侍女の会話をもうろうとする意識で聞きながら、私は浴室の外へと引きずられていくのであった。

しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。