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幕間 花咲く乙女
帝国の赤き薔薇①
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さかのぼること半年前。大陸最大の版図を誇るバアル帝国に未曽有の危機が来襲した。
その危機は帝国第〇代皇帝であるゼブル・バアル帝の病没から始まった。
いくつもの国を滅ぼして帝国の領土を拡大し、覇王とまで呼ばれた皇帝の死。その跡目を狙う三人の皇子の争いは、隣国をも巻き込んで戦乱を巻き起こした。
隣国ランペルージ王国の東方辺境へと侵略をした帝国であったが、マクスウェル辺境伯家の激しい抵抗によって敗戦。その戦いによって次期皇帝の有力候補であったラーズ・バアルが戦死してしまった。
残された候補者の一人であるグリード・バアルは封印されていた神器を呼び起こし、東の煌王朝の力を借りて帝位を簒奪しようとしていた腹違いの弟スロウス・バアルを撃破。そのまま力づくで皇帝の椅子をもぎ取った。
しかし――そんなグリードの強引な即位は大きな反発を生み、神器の力を使った一方的な圧政によって国土は荒廃。民衆、貴族を問わず多くの人々を苦しめることになった。
多くの者が嘆きと怨嗟の声を上げて慈悲を求めたが、グリードは一向に聞き入れることはなく、帝国は果実が腐り落ちるように衰退していった。
このまま帝国は滅亡してしまうのではないかと人々の心によぎったが・・・突如としてグリードは討ちとられた。
後の時代に『偽帝』と称されることになるグリード・バアル打ち倒し、帝国を救ったのは誰も想像もしていない人物である。
それこそが、亡きゼブル・バアル帝の四番目の子にして唯一の皇女。
帝国の歴史上、最初の女帝である『賢美帝』ルクセリア・バアルであった。
バアル帝国、王宮にて。
王宮内部にある会議室には、国の要職に就いている重臣達がテーブルに書類を並べて座っていた。
そこには宮廷内部で働いている大臣や文官のみならず、国軍の責任者や、教会関係者まで集められている。
国の運営の中心であるその会議の参加者は、新たに皇帝となったルクセリア帝の意志によって集められた者達であった。
ルクセリア帝は皇女であった時分、表立った公務を与えられることなく後宮で生活をしていた。そのため、政治や軍事には疎い面があり、重要な決定を行う際には必ずと言っていいほど合議による話し合いを経たうえで帝国の方針を決めているのだ。
「それでは次の案件に入らせていただきます」
若い女官が緊張した固い面持ちで口火を切る。
彼女もまたルクセリア帝によって才能を見出されて取り立てられた者であり、皇帝の目に留まらなければこの場に居合わせることはなかったであろう下級貴族の出身である。
「うむ・・・その考えはわかるが、予算がかかりすぎではないか?」
「それだけの意義があるでしょう。金額の問題ではありません!」
「いや、しかし・・・」
女官が手に持った書類を読み上げると、その内容をめぐって参加者達が活発な議論を交わされる。
「・・・・・・」
最も奥のテーブルについたルクセリア帝は、議論を交わす参加者達を無言で見守っている。
最高決定権を持つルクセリア帝であったが、会議中はほとんど自分の考えを表明することはなかった。全員に発言の機会を与えたうえで、それでも意見がまとまらなかった場合にのみ最終的な決定を下すのだ。
皇帝としてあくまでも権力の頂点に立ちながらも、臣下の自由な意見を押し殺すことのない度量をもって行われる政――それが硬軟を巧みに使い分けるルクセリア帝のやり方であった。
バアル帝国の現・皇帝――ルクセリア・バアルに対する国民の評価は、大きく二種類に分かれている。
一つは、美しく聡明な女帝陛下に期待を寄せる声。
ルクセリアは、かつて恐るべき兵器を使って強引に帝位を簒奪した『偽帝』グリード・バアルを討ちとり、この国を救って皇帝の座についた。
そんな彼女を救世主として崇め、慕っている者達は下層階級を中心に数多くいる。
皇女であった頃から、ルクセリアは公の場に出ることこそ少なかったものの、自分に割り当てられている公金の一部を孤児院に寄付したり、失業者救済を目的とした公共事業を起こしたりしていた。
もともと民衆の支持は厚く、国民の大部分が帝国初の女帝の即位を好意的に受け止めていた。
もう一つは、女であるルクセリア陛下を侮っている声。
帝国は男尊女卑が強く、女性が王宮内の要職につくことはほとんどなかった。
『たかが女』に皇帝が務まるものか――そんな風に考える者は、貴族などの上流階級を中心として少なからずいた。
もちろん、たとえ頭の内でなにを思っていようと、反抗的な行動に移すことがなければ特に問題はなかっただろう。
しかし、ルクセリアを侮る貴族の中には、若き女帝を傀儡にして権力を握ろうとする者や、彼女を殺めて帝位簒奪を企んでいる者までいた。
多くの民衆の支持と、一部の特権階級の謀略を内に含み、女帝ルクセリアを頂点としたバアル帝国は新たな時代を迎えつつあった。
そんな中、ルクセリアに従う民衆と反する立場にいる貴族達。彼らがそろって疑問を抱いていることが一つある。
それは――ここ最近になって目立つようになったルクセリアの腹部。
ぽっこりと膨らんだそのお腹。女帝の身の内に息づいている子供の父親は、はたして何者なのだろうか?
その危機は帝国第〇代皇帝であるゼブル・バアル帝の病没から始まった。
いくつもの国を滅ぼして帝国の領土を拡大し、覇王とまで呼ばれた皇帝の死。その跡目を狙う三人の皇子の争いは、隣国をも巻き込んで戦乱を巻き起こした。
隣国ランペルージ王国の東方辺境へと侵略をした帝国であったが、マクスウェル辺境伯家の激しい抵抗によって敗戦。その戦いによって次期皇帝の有力候補であったラーズ・バアルが戦死してしまった。
残された候補者の一人であるグリード・バアルは封印されていた神器を呼び起こし、東の煌王朝の力を借りて帝位を簒奪しようとしていた腹違いの弟スロウス・バアルを撃破。そのまま力づくで皇帝の椅子をもぎ取った。
しかし――そんなグリードの強引な即位は大きな反発を生み、神器の力を使った一方的な圧政によって国土は荒廃。民衆、貴族を問わず多くの人々を苦しめることになった。
多くの者が嘆きと怨嗟の声を上げて慈悲を求めたが、グリードは一向に聞き入れることはなく、帝国は果実が腐り落ちるように衰退していった。
このまま帝国は滅亡してしまうのではないかと人々の心によぎったが・・・突如としてグリードは討ちとられた。
後の時代に『偽帝』と称されることになるグリード・バアル打ち倒し、帝国を救ったのは誰も想像もしていない人物である。
それこそが、亡きゼブル・バアル帝の四番目の子にして唯一の皇女。
帝国の歴史上、最初の女帝である『賢美帝』ルクセリア・バアルであった。
バアル帝国、王宮にて。
王宮内部にある会議室には、国の要職に就いている重臣達がテーブルに書類を並べて座っていた。
そこには宮廷内部で働いている大臣や文官のみならず、国軍の責任者や、教会関係者まで集められている。
国の運営の中心であるその会議の参加者は、新たに皇帝となったルクセリア帝の意志によって集められた者達であった。
ルクセリア帝は皇女であった時分、表立った公務を与えられることなく後宮で生活をしていた。そのため、政治や軍事には疎い面があり、重要な決定を行う際には必ずと言っていいほど合議による話し合いを経たうえで帝国の方針を決めているのだ。
「それでは次の案件に入らせていただきます」
若い女官が緊張した固い面持ちで口火を切る。
彼女もまたルクセリア帝によって才能を見出されて取り立てられた者であり、皇帝の目に留まらなければこの場に居合わせることはなかったであろう下級貴族の出身である。
「うむ・・・その考えはわかるが、予算がかかりすぎではないか?」
「それだけの意義があるでしょう。金額の問題ではありません!」
「いや、しかし・・・」
女官が手に持った書類を読み上げると、その内容をめぐって参加者達が活発な議論を交わされる。
「・・・・・・」
最も奥のテーブルについたルクセリア帝は、議論を交わす参加者達を無言で見守っている。
最高決定権を持つルクセリア帝であったが、会議中はほとんど自分の考えを表明することはなかった。全員に発言の機会を与えたうえで、それでも意見がまとまらなかった場合にのみ最終的な決定を下すのだ。
皇帝としてあくまでも権力の頂点に立ちながらも、臣下の自由な意見を押し殺すことのない度量をもって行われる政――それが硬軟を巧みに使い分けるルクセリア帝のやり方であった。
バアル帝国の現・皇帝――ルクセリア・バアルに対する国民の評価は、大きく二種類に分かれている。
一つは、美しく聡明な女帝陛下に期待を寄せる声。
ルクセリアは、かつて恐るべき兵器を使って強引に帝位を簒奪した『偽帝』グリード・バアルを討ちとり、この国を救って皇帝の座についた。
そんな彼女を救世主として崇め、慕っている者達は下層階級を中心に数多くいる。
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もともと民衆の支持は厚く、国民の大部分が帝国初の女帝の即位を好意的に受け止めていた。
もう一つは、女であるルクセリア陛下を侮っている声。
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もちろん、たとえ頭の内でなにを思っていようと、反抗的な行動に移すことがなければ特に問題はなかっただろう。
しかし、ルクセリアを侮る貴族の中には、若き女帝を傀儡にして権力を握ろうとする者や、彼女を殺めて帝位簒奪を企んでいる者までいた。
多くの民衆の支持と、一部の特権階級の謀略を内に含み、女帝ルクセリアを頂点としたバアル帝国は新たな時代を迎えつつあった。
そんな中、ルクセリアに従う民衆と反する立場にいる貴族達。彼らがそろって疑問を抱いていることが一つある。
それは――ここ最近になって目立つようになったルクセリアの腹部。
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