俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
264 / 317
第4章 砂漠陰謀編

74.最後の陰謀

しおりを挟む

side マリアンヌ・ロサイス

 ランペルージ王国王都にあるロサイス公爵家の屋敷にて。
 公爵家の権威を象徴するがごとく豪奢な邸宅の奥。その部屋には、私を含めて三人の人間が集まっていた。
 一人は私の敬愛するお父様。グレイ・ロサイス。
 幼いスレイ王陛下の摂政であり、中央貴族の穏健派閥である『主流派』の盟主でもある人物だった。

「ねえ、お父様。聞いてくださいませ。またマクスウェル家が私の計画を邪魔したんですよ?」

「・・・・・・」

 私は椅子に深々と腰かけた父の背後に回り、耳元にそっとささやいた。
 お父様はその言葉に答えることなく無言。可愛い娘が甘えるように首に手を回しているというのに、眉一つ動かすことなく泰然と座っている。
 私は無反応な父の様子を少しだけ残念に思って眉尻を下げ、しかし、さらなるささやき声で父の鼓膜を震わせる。

「マクスウェル家が私達の害にしかならないことは明白。すでに帝国との間で和睦が成立している以上、もはや彼らに利用価値はありませんわ。どうにかして、つぶしてしまったほうがよろしいのではなくて?」

「・・・そうか」

 ようやくお父様の口から短い返事が発せられた。
 お父様は背後の私を振るかえることはなく、まっすぐ目を向けたまま言葉を続ける。

「・・・すべて、お前に任せる。好きにせよ」

「はい、お父様ならそう言ってくださると思っていましたわ」

 私は望み通りの返事に満足げにうなずき、父を抱きしめていた両腕をほどく。

「お父様の許可もいただいたことですし、そろそろディンギル・マクスウェルには消えていただきましょうか。毒も使い方しだいと生かしておきましたけど、どうやら彼は劇薬過ぎたようです」

 今回、私達は四方四家の一つであるスフィンクス家を弱体化させるためにナーヒブ・マッサーブを操り、『恐怖の軍勢』を国内へと侵入させた。
 しかし――その渾身ともいえる一手はディンギル・マクスウェルの手によって阻まれてしまった。
 ディンギル・マクスウェルは王家から援軍を入れないように通達されたにもかかわらず、単騎によって西方辺境へと向かい、スフィンクス家に勝利をもたらした。
 その英雄的活躍は、地方貴族を田舎者と蔑んでいる中央貴族の中にさえ称賛する者もいたくらいだ。

「・・・ディンギル・マクスウェルはこの戦いでよりいっそう武名を轟かせ、おまけにスフィンクス家に多大な恩を売ってしまった。さすがにこれ以上は放置できませんね」

 王国の中でも特に力を持つ大貴族である『四方四家』。そのうち、東方のマクスウェル家と、西方のスフィンクス家が強い絆で結ばれてしまった。
 南方のサンダーバード家は拝金主義を掲げており中立の立場をとっているが、当主同士は古くからの友人であり、後継者であるディンギル・マクスウェルとエキドナ・サンダーバードは幼馴染だ。明らかに、サンダーバード家はマクスウェル家寄りである。

「もしもマクスウェル家がランペルージ王家に反逆するようなことがあれば、四方四家のうち三つが敵に回る恐れがある・・・帝国の女帝もディンギル・マクスウェルと蜜月の付き合いがあるという話も聞いていますし。確実にあの男はこの国を食らう怪物になるでしょうね」

 私は改めて決意を固めた。
 ディンギル・マクスウェルを殺す。マクスウェル家を滅ぼす。
 この国を――ランペルージ王国を守るためには、それ以外に手段はない。

「そう・・・だったら私に任せるといい」

 何気ない口調で言ってきたのは、この部屋にいる最後の人物だった。
 白い軍服に身を包んだその女性は、金属製の杯を足元に置いた酒樽に突っ込んでワインを汲み上げ、グイグイと喉に流し込んでいる。

「あら、任せて構わないのかしら?」

「別にいい。お酒もごちそうになったから」

 その人物は軽い口調で言って、またワインに口をつける。

「でしたらお願いするわね、シャロン様」

「ん・・・ディンギル・マクスウェルは私が殺す。ウトガルドに殺せない人なんていないから」

 なんでもないことのようにあっけらかんと言ってのけ、北方辺境伯の娘シャロン・ウトガルドは鯨が海水を飲み干すように酒をあおり続けるのであった。





第4章 砂漠陰謀編 完

第5章 聖地崩落編 に続く
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。