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第4章 砂漠陰謀編

74.最後の陰謀

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side マリアンヌ・ロサイス

 ランペルージ王国王都にあるロサイス公爵家の屋敷にて。
 公爵家の権威を象徴するがごとく豪奢な邸宅の奥。その部屋には、私を含めて三人の人間が集まっていた。
 一人は私の敬愛するお父様。グレイ・ロサイス。
 幼いスレイ王陛下の摂政であり、中央貴族の穏健派閥である『主流派』の盟主でもある人物だった。

「ねえ、お父様。聞いてくださいませ。またマクスウェル家が私の計画を邪魔したんですよ?」

「・・・・・・」

 私は椅子に深々と腰かけた父の背後に回り、耳元にそっとささやいた。
 お父様はその言葉に答えることなく無言。可愛い娘が甘えるように首に手を回しているというのに、眉一つ動かすことなく泰然と座っている。
 私は無反応な父の様子を少しだけ残念に思って眉尻を下げ、しかし、さらなるささやき声で父の鼓膜を震わせる。

「マクスウェル家が私達の害にしかならないことは明白。すでに帝国との間で和睦が成立している以上、もはや彼らに利用価値はありませんわ。どうにかして、つぶしてしまったほうがよろしいのではなくて?」

「・・・そうか」

 ようやくお父様の口から短い返事が発せられた。
 お父様は背後の私を振るかえることはなく、まっすぐ目を向けたまま言葉を続ける。

「・・・すべて、お前に任せる。好きにせよ」

「はい、お父様ならそう言ってくださると思っていましたわ」

 私は望み通りの返事に満足げにうなずき、父を抱きしめていた両腕をほどく。

「お父様の許可もいただいたことですし、そろそろディンギル・マクスウェルには消えていただきましょうか。毒も使い方しだいと生かしておきましたけど、どうやら彼は劇薬過ぎたようです」

 今回、私達は四方四家の一つであるスフィンクス家を弱体化させるためにナーヒブ・マッサーブを操り、『恐怖の軍勢』を国内へと侵入させた。
 しかし――その渾身ともいえる一手はディンギル・マクスウェルの手によって阻まれてしまった。
 ディンギル・マクスウェルは王家から援軍を入れないように通達されたにもかかわらず、単騎によって西方辺境へと向かい、スフィンクス家に勝利をもたらした。
 その英雄的活躍は、地方貴族を田舎者と蔑んでいる中央貴族の中にさえ称賛する者もいたくらいだ。

「・・・ディンギル・マクスウェルはこの戦いでよりいっそう武名を轟かせ、おまけにスフィンクス家に多大な恩を売ってしまった。さすがにこれ以上は放置できませんね」

 王国の中でも特に力を持つ大貴族である『四方四家』。そのうち、東方のマクスウェル家と、西方のスフィンクス家が強い絆で結ばれてしまった。
 南方のサンダーバード家は拝金主義を掲げており中立の立場をとっているが、当主同士は古くからの友人であり、後継者であるディンギル・マクスウェルとエキドナ・サンダーバードは幼馴染だ。明らかに、サンダーバード家はマクスウェル家寄りである。

「もしもマクスウェル家がランペルージ王家に反逆するようなことがあれば、四方四家のうち三つが敵に回る恐れがある・・・帝国の女帝もディンギル・マクスウェルと蜜月の付き合いがあるという話も聞いていますし。確実にあの男はこの国を食らう怪物になるでしょうね」

 私は改めて決意を固めた。
 ディンギル・マクスウェルを殺す。マクスウェル家を滅ぼす。
 この国を――ランペルージ王国を守るためには、それ以外に手段はない。

「そう・・・だったら私に任せるといい」

 何気ない口調で言ってきたのは、この部屋にいる最後の人物だった。
 白い軍服に身を包んだその女性は、金属製の杯を足元に置いた酒樽に突っ込んでワインを汲み上げ、グイグイと喉に流し込んでいる。

「あら、任せて構わないのかしら?」

「別にいい。お酒もごちそうになったから」

 その人物は軽い口調で言って、またワインに口をつける。

「でしたらお願いするわね、シャロン様」

「ん・・・ディンギル・マクスウェルは私が殺す。ウトガルドに殺せない人なんていないから」

 なんでもないことのようにあっけらかんと言ってのけ、北方辺境伯の娘シャロン・ウトガルドは鯨が海水を飲み干すように酒をあおり続けるのであった。





第4章 砂漠陰謀編 完

第5章 聖地崩落編 に続く
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