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第4章 砂漠陰謀編
71.砂漠の夜はいまだ終わらず
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ナームが気絶してしまったことで入浴タイムは強制終了となり、十分にゆっくりする間もなく浴室から出ることになった。
カイロ嬢がナームに、サクヤがネフェルティナにそれぞれ服を着せて、寝室へと連れていく。
そして――二人をベッドへと寝かしつけられる間、俺は自室の椅子へと腰かけて考え事をしていた。
入浴を始めたときは夕刻であったが、色々と時間をかけてしまったせいですっかり日は落ちている。
まだ夜半まではいくらか時間があるが、窓から差し込む町の明かりも少しずつ落とされていき、徐々に町が寝静まっていくのが見て取れる。
「やれやれ・・・大人しそうに見えて意外と大胆だよな。ナームちゃんも、それにカイロ嬢も」
ナームとは手紙以外で話したことは数えるほど。カイロ嬢とも挨拶程度の会話しかしたことはなかった。
しかし、西方辺境にやってきてからというもの、二人の存在が俺の中で大きくなりつつあった。
「思えば・・・この町に来て、いきなり下着姿を見せられてからだよな。ははっ、あれだけインパクトのある再会をすりゃあ、心に引っかき傷もつけられるか」
俺は口元に笑みを浮かべながら脚を組んだ。
ちょうどそのタイミングで部屋のドアがノックされる。俺は眉尻を上げて「開いてるよ」と入室を促した。
「夜分に失礼いたします。マクスウェル様」
「カイロ嬢か。ナームちゃんの様子はどうだい?」
部屋に入ってきたのはネグリジェの上にカーディガンを羽織った姿のカイロ嬢だった。
寝間着に着替えた彼女の褐色肌はほんのりと湿っており、入浴時とはまた違った色気を醸し出している。
「客間をお借りして寝かせていますよ。どうやらのぼせてしまったようですね」
「どう考えてもそれだけではない気がするが・・・まあいいか」
男性器を見せて気絶させてしまいましたなど、口が裂けてもスフィンクス辺境伯には報告できない。老い先短い命の蝋燭を燃やし尽くしてでも斬りかかってくるに違いない。
「申し訳ありませんが、今夜は泊まらせていただきますね? スフィンクス家にはすでに言伝を頼んでいますので」
「ここはもともと君らの屋敷だ。別に構わないが・・・よく御当主殿が娘の外泊を許したな」
首を傾げながら尋ねると、カイロ嬢の顔にわずかに陰が差した。
「ナームはまだ子供ですから、間違いが起こるなどとは心配はされていませんよ。私は・・・すでにスフィンクス家の人間ではありませんから」
「・・・そういえば、そうだったな」
バロン先輩が亡くなった以上、その婚約者であるカイロ嬢がスフィンクス家に嫁入りする話は帳消しになった。遅かれ早かれ、彼女は生家に戻ることになるだろう。
「私の家はスフィンクス家に仕える陪臣ですから、まるで付き合いがなくなるわけではありませんが・・・とはいえ、ナームのことを義妹とは呼べなくなりますね」
「・・・ナームちゃんはそんなことは気にしないと思うがね」
「そうかもしれません。しかし、臣下の娘として立場はわきまえなければいけません」
カイロ嬢は憂いを込めながらも、はっきりと決意した声で断言する。
「私は家に戻り、そして――バロン以外の男の赤子を生まなければいけません。今回の戦争で兄が戦死して、カイロ家には跡継ぎはいませんから」
「兄がいたのか・・・それはご愁傷さま」
「腹違いですし、妾腹の私とはあまり面識がありませんから、それほど悲しくはありませんよ。もっとも、彼が亡くなってしまったせいで婿を取って家を継がなければいけなくなったことは口惜しいですが」
カイロ嬢は深々と溜息をつき、俺のベッドに腰掛けた。
未婚の女性としてはあまりにも迂闊で軽率な行動であるが、それを口に出せる空気ではない。
「バロンの死を聞かされた時、本当は尼になろうと思ったんです。神殿に入って此度の戦いの戦死者を弔い、バロンの事を想いながら残りの生涯を過ごそうと。でも、兄が戦死したせいでそれすら叶わなくなりました」
「・・・・・・」
「そこで・・・マクスウェル様に一つお願いがあるのですが、聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「・・・聞くだけなら、構わん」
俺がそっけない声で返事をすると、カイロ嬢はベッドに座ったまま肩にかけたカーディガンをハラリと落とした。
薄手のネグリジェ姿となったカイロ嬢は嫣然と金髪をかき上げ、上品な仕草で耳にかける。
「私のことを・・・抱いてみる気はありませんか?」
カイロ嬢がナームに、サクヤがネフェルティナにそれぞれ服を着せて、寝室へと連れていく。
そして――二人をベッドへと寝かしつけられる間、俺は自室の椅子へと腰かけて考え事をしていた。
入浴を始めたときは夕刻であったが、色々と時間をかけてしまったせいですっかり日は落ちている。
まだ夜半まではいくらか時間があるが、窓から差し込む町の明かりも少しずつ落とされていき、徐々に町が寝静まっていくのが見て取れる。
「やれやれ・・・大人しそうに見えて意外と大胆だよな。ナームちゃんも、それにカイロ嬢も」
ナームとは手紙以外で話したことは数えるほど。カイロ嬢とも挨拶程度の会話しかしたことはなかった。
しかし、西方辺境にやってきてからというもの、二人の存在が俺の中で大きくなりつつあった。
「思えば・・・この町に来て、いきなり下着姿を見せられてからだよな。ははっ、あれだけインパクトのある再会をすりゃあ、心に引っかき傷もつけられるか」
俺は口元に笑みを浮かべながら脚を組んだ。
ちょうどそのタイミングで部屋のドアがノックされる。俺は眉尻を上げて「開いてるよ」と入室を促した。
「夜分に失礼いたします。マクスウェル様」
「カイロ嬢か。ナームちゃんの様子はどうだい?」
部屋に入ってきたのはネグリジェの上にカーディガンを羽織った姿のカイロ嬢だった。
寝間着に着替えた彼女の褐色肌はほんのりと湿っており、入浴時とはまた違った色気を醸し出している。
「客間をお借りして寝かせていますよ。どうやらのぼせてしまったようですね」
「どう考えてもそれだけではない気がするが・・・まあいいか」
男性器を見せて気絶させてしまいましたなど、口が裂けてもスフィンクス辺境伯には報告できない。老い先短い命の蝋燭を燃やし尽くしてでも斬りかかってくるに違いない。
「申し訳ありませんが、今夜は泊まらせていただきますね? スフィンクス家にはすでに言伝を頼んでいますので」
「ここはもともと君らの屋敷だ。別に構わないが・・・よく御当主殿が娘の外泊を許したな」
首を傾げながら尋ねると、カイロ嬢の顔にわずかに陰が差した。
「ナームはまだ子供ですから、間違いが起こるなどとは心配はされていませんよ。私は・・・すでにスフィンクス家の人間ではありませんから」
「・・・そういえば、そうだったな」
バロン先輩が亡くなった以上、その婚約者であるカイロ嬢がスフィンクス家に嫁入りする話は帳消しになった。遅かれ早かれ、彼女は生家に戻ることになるだろう。
「私の家はスフィンクス家に仕える陪臣ですから、まるで付き合いがなくなるわけではありませんが・・・とはいえ、ナームのことを義妹とは呼べなくなりますね」
「・・・ナームちゃんはそんなことは気にしないと思うがね」
「そうかもしれません。しかし、臣下の娘として立場はわきまえなければいけません」
カイロ嬢は憂いを込めながらも、はっきりと決意した声で断言する。
「私は家に戻り、そして――バロン以外の男の赤子を生まなければいけません。今回の戦争で兄が戦死して、カイロ家には跡継ぎはいませんから」
「兄がいたのか・・・それはご愁傷さま」
「腹違いですし、妾腹の私とはあまり面識がありませんから、それほど悲しくはありませんよ。もっとも、彼が亡くなってしまったせいで婿を取って家を継がなければいけなくなったことは口惜しいですが」
カイロ嬢は深々と溜息をつき、俺のベッドに腰掛けた。
未婚の女性としてはあまりにも迂闊で軽率な行動であるが、それを口に出せる空気ではない。
「バロンの死を聞かされた時、本当は尼になろうと思ったんです。神殿に入って此度の戦いの戦死者を弔い、バロンの事を想いながら残りの生涯を過ごそうと。でも、兄が戦死したせいでそれすら叶わなくなりました」
「・・・・・・」
「そこで・・・マクスウェル様に一つお願いがあるのですが、聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「・・・聞くだけなら、構わん」
俺がそっけない声で返事をすると、カイロ嬢はベッドに座ったまま肩にかけたカーディガンをハラリと落とした。
薄手のネグリジェ姿となったカイロ嬢は嫣然と金髪をかき上げ、上品な仕草で耳にかける。
「私のことを・・・抱いてみる気はありませんか?」
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