俺もクズだが悪いのはお前らだ!

レオナール D

文字の大きさ
上 下
257 / 317
第4章 砂漠陰謀編

68.剣聖の憂鬱

しおりを挟む

side ベナミス・セイバールーン

「あーあ、本当におっそろしい人だなあ」

 僕の名前はベナミス・セイバールーン。
 セイバールーン侯爵家の現・当主であり、王家剣術指南役、通称『剣聖』と呼ばれている剣士である。
 ディンギル・マクスウェルとの戦闘を経て、僕の身体は致命傷の傷を負っていた。
 あの男が放った最後の一撃はあまりにも強力で、身代わりの力を持つ御守りを使用してもなお完全にダメージを消し去ることはできなかった。
 死の一歩手前というほどの傷を負うことになってしまった僕は、【霊薬魔具ポーション】を飲んで傷を癒しながら、逃げ込んだ森の中へと腰を落ち着けていた。

「これだから運命に名前が載っていない人は嫌なんだ。先が読めなくっていけない」

 僕は重い右手を挙げて左手の下に添える。すると左目の瞳が金色に染められ、虹彩に時計の針のような文様が刻まれた。
 これこそが僕の切り札。帝国が所有していた【雷帝神槌】と並ぶ神器の格を持った一品。未来視、過去視の能力を持った魔具【時空隠者クロノス】である。
 僕はこの魔眼の力をもって様々な魔具を収集し、そして、とある『破滅の未来』を回避することを目的として行動していた。

「やれやれ、ディンギルさんのせいで失敗しちゃったよ・・・どうしてあの人の未来は視ることができないのかな」

 未来予知をすることができる【時空隠者】であったが、なぜか映し出された未来にディンギル・マクスウェルという人物は存在しなかった。
 彼が運命の神に存在を認められていないのか、それとも存在自体が神々にとってのイレギュラーなのか。
 ディンギルさんが関わると、僕が予知した未来は狂いっぱなしだった。

「さて・・・気が重い報告といこうかな」

 僕はズボンのポケットから新たな魔具を取り出した。
 虹色にペイントされた卵型の宝珠へと唇を寄せて、恋人にささやくような声音で呼びかける。

「こちらベナミス。我らが愛しいお姫様、聞こえますかー?」

『・・・どうかしたのかしら? セイバールーン卿』

 少しだけ時間をおいて、宝珠から声が返ってきた。
 この魔具の名前は【遠近声鳥ナハティガル】。
 二つで対になる魔具であり、お互いを持つ者同士で離れた場所から会話することができる力を持っている。

『定時連絡の時間には遅すぎるのだけど・・・夜更かしは肌に悪いのよ?』

「それは申し訳ないね。お姫様」

【遠近声鳥】から聞こえてくる不機嫌そうな声に苦笑を返して、僕は本題を切り出した。

「西方辺境を起点にした貴女の計画だけれど、どうやら失敗に終わったみたいですよ。『恐怖の軍勢』は撃退されて、ナーヒブ・マッサーブも死んでしまった」

『・・・なんですって?』

 タダでさえ不機嫌そうな声が、さらに数段階低いものへと変わった。
 直接、会わなくとも彼女がどれほど怒りに顔を歪めているのかが想像できるような声色である。

『ギザ要塞は計画通りに落とされたのよね? どうして、いまさら失敗してしまったのかしら?』

「んー・・・マクスウェル家の嫡男さんが援軍に来てしまいまして。彼の活躍で『恐怖の軍勢』が撃退されたみたいですよ?」

『またあの男・・・!』

 さも他人事のように告げると、魔具の向こうからバリンとなにかが割れるような音がした。怒りに任せてグラスとかを叩き割ってしまったのかもしれない。

『どうして私の人生の邪魔ばかり・・・あの男さえいなかったら・・・』

「・・・・・・」

 魔具越しにぶつぶつと怨嗟の言葉が聞こえてくる。
 僕はあえて耳をふさぐことなくお姫様の愚痴に付き合い、冷静さを取り戻してきたタイミングでフォローを入れる。

「まあ、それでも時間は稼げたんじゃないですか? これでしばらくはスフィンクス家は復興に従事することになるでしょうし」

『・・・そうだといいのだけれど。やはりマクスウェル家との決戦は避けられないようね』

「・・・できれば、ディンギルさんとは戦いたくないですね。殺されちゃいますから」

『そうね・・・バロン・スフィンクスのように戦わずに謀殺できればそれに越したことはないのだけれど・・・』

 宝珠の向こうから考え込むような空気が伝わってくる。
 しばしの沈黙の後、ようやくお姫様が支持を伝えてくる。

『いいわ。このまま西方辺境からは手を引きます。貴方も引き上げなさい』

「了解。このまま王都に帰りますよ」

『追って指示を出します。それまでに傷を治しておくように』

「ありゃ、ケガをしてたの気づいてましたか?」

『当然です。声を聞けば貴方の体調ぐらいわかりますよ』

 言って、ブツリと向こうから通話を切られた。僕は声を閉ざした宝珠をしばらく眺めて、ふっと息をついた。

「頑張るなあ、我らのお姫様も」

 手の中で宝珠を転がしながら、上空に目を向ける。空には雲一つなく月が煌煌と輝いている。
 それはまるで、すべての陰謀を振り払って生き残った西方辺境とスフィンクス家を象徴しているかのように見えた。

「でも・・・そんなことは無駄なんだけどねえ」

 僕は輝く月に向けて、ポツリとつぶやいた。

「どうせ最後にはみんな破滅しちゃうんだから。ディンギルさんやお姫様がなにをしたって意味がないのに」

 未来を見晴るかす金色の眼差しで夜空を見上げて、僕はうんざりと首を振った。
しおりを挟む
感想 1,043

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。